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あんたこの異世界のイカ男どう思う?  作者: 土堂連
最終部:お終いは魔王城でどうぞ
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一三四話:浮き立つ家族旅行



 ドンモたちを異世界に帰し、数日が経った。サブローたち三人は相変わらず日本での仕事に終始している。

 異世界は再び、兄と海老澤を送り込んで様子を見ることになった。

 二人を送り出す日に、ガーデンの魔法陣室で話をした。


「またお二人に任せる形で申し訳ありません」

「気にすんな。サブのおかげでだいぶ楽な仕事しか残っていないし」

「イチジローと組むのは面倒だけどな。お前の方が気楽でいいけど、まあ贅沢は言えんな」


 海老澤が愚痴り、イチジローが渇いた笑いを発する。この二人だけでどんな会話をするのか、興味がわいた。

 ろくでもなさそうだったが。


「俺と海老澤はこっちから地の里に行くよ。慰安旅行に合わせる」

「社員旅行も兼ねているっぽいからな。俺としては温泉街より歓楽街がよかったぜ」

「それで何度もトラブル起こしているのに飽きないな……」


 兄もだんだん海老澤の扱いを心得てきたようである。見る目が厳しい。

 サブローはそれでも海老澤がやらかす未来が見え、ため息を吐くしかなかった。




 刻々と地の里に向かう日は迫ってくる。園長が希望者を募り、人数と日程のすり合わせを行っていた。

 施設の人間の半分は予定が合わなかったり、異世界に向かう不安を抱えたり、それぞれの理由でこちらに残ることになる。

 そちらへの埋め合わせは別の形で、後日行うと知らされた。妥当な判断だろう。

 それにしても施設の半分が異世界に行くというのはけっこう大掛かりだ。


 ――キトシは一般人もわたしたちの世界に招く準備をしているのではないか?


 帰る前にナギが冗談めかしてそういっていたが、本当かもしれない。

 そんなことを考えながら、施設への帰り道を歩いているとき、サブローは声をかけられた。


「いよっ、サブロー。久しぶりだな」

「カガミさん。お久しぶりです」


 街のお巡りさんで、帰ってきた直後に世話になった人だ。ちょくちょく顔を合わせており、たまに話し込む。


「今日はあの金髪の綺麗な娘やミコと一緒じゃないのか?」

「旅行の準備がありますから、今日は別々に行動しています」


 フィリシアとミコは先ほどの発言通り、それぞれ旅行の準備を進めている。今回は家族も一緒のため、手本になるために気合を入れていた二人は、ナナコやタマコの買い物に付き合っているはずだ。その旨を伝える。


「ほーん。相変わらず施設の子どもたちは仲がいいんだな。いいことだ。ところでサブロー」


 カガミが少し迷った様子を見せる。珍しいことのため、無言で促した。


「お前、ミコとあの外国の綺麗な娘、どっちと付き合ってんの?」


 とたん、サブローは困り顔になる。ちょうどいいと現状を詳しく話して、意見を求めた。


「羨ましい話しすぎるわ」

「そういわれましても、どちらかに決めないといけないわけでして……なんでもいいのでアドバイスをください」

「んなこと言われてもな……的確な助言ができるんだったら、俺はいまだ独身じゃないわ」


 説得力のありすぎるカガミの発言に、サブローは意気消沈する。結局一人でこのぜいたくな悩みを抱えなければいけない。


「そもそもあの二人、もっと僕に怒ってくださいよ。なんで嬉しそうにするんですか?」

「二号さんでもいいってくらい、惚れているとか? あーいいなー。俺もそんな状況になりて―」

「お巡りさん!?」


 サブローが声を荒げるが、相手はからかうような笑みを浮かべて受け流した。


「まあいいじゃねえか。遅れてやってきた青春を楽しみたまえ、若者よ」

「気楽に言ってくれますね……」

「そういや話を聞いて思い出したけど、温泉旅行らしいな。銭湯でゲンさんが羨ましそうにしていた」


 カガミは銭湯仲間でもあるため、銭湯の主と呼ばれるゲンとも面識があった。サブローは仕事の関係上、銭湯に入ることは少なくなっていたが、施設の家族たちはむしろ頻度が増えたようだ。

 エリックやアレスが気に入ったことがきっかけになったと、ケンジに聞かされた。


「帰ってきたら、また相手をしてほしいです。そのときは僕も行きましょう」

「ゲンさんも喜ぶな。ところで話は変るけど、ガーデンでの仕事は大丈夫か? 前より傷……というか、身体が変になっているみたいだけど」

「ああ、これですか」


 サブローは右目を隠した医療用の眼帯に触れる。見た目がエグイ以外は特に不利益を被ったことはない。

 そう正直に伝えるが、カガミはサブローを信じていいのか迷っていた。


「お前はさ、昔から自分がつらくても平気でうそを吐くから心配なんだよ」

「……そうですね。フィリシアやミコにも言われました。思い返せば、園長先生や兄さんにもずっと忠告されていました。ですが、もう大丈夫です」


 一片の曇りもない笑顔を浮かべる。サブローの心は晴れやかだ。


「ちゃんと辛いと言ってもいいのだと、ようやく理解しましたから」


 気づくのが遅かったが、甘えていい場所は最初からあった。不安になる必要はもうない。

 自分はこんなにも、恵まれているのだから。サブローの変化を察したのか、カガミは杞憂だったと呟いて笑う。


「そっか。お前も大人になっていくんだな。お兄さんは安心だよ」


 一部の弟たちにおじさん呼ばわりされている事実は黙っておこう。サブローはそう固く決意した。




 カガミと別れて施設に入ると、マリーが出迎えた。

 風の精霊術を使っているため、サブローが来るといの一番に反応する。柔らかいはちみつ色の髪を撫でつつ、準備の進み具合を尋ねた。


「いろいろ選んでいるんだけど、おねえちゃんにもっと少なくしろって叱られた」

「なにを持って行こうとしたのですか?」


 んーとね、と可愛らしく呟きながら自らの荷物の前に案内する。サブローはやたらぱんぱんに膨れ上がり、開いた口から荷物が溢れて閉まり切らない旅行カバンの前に連れていかれ、目が点になった。


「マリー、なにが入っているのですか?」

「マンガでしょ、ゲームでしょ、お菓子でしょ。それからそれから……」


 これはフィリシアでなくても小言の一つや二つを言いたくなる。相部屋の住民であるアイも呆れた態度を隠さなかった。


「またフィリシアおねえちゃんに怒られるよ。サブローおにいちゃんもそう思うよね?」

「……とりあえずゲームは置いておきましょう。充電も出来ませんし」

「ところがどっこい。エリックがその問題を解決したのでしたー!」


 サブローにとって寝耳に水だった。エリックの開発能力はとどまることを知らない。話を詳しく掘り下げることにした。


「解決って……エリックさんはなにをしたのですか?」

「魔力を充電用の電力に変換できる機械を、ガーデンで作ってもらったんだって」


 またも驚かされる。まだ子どもだというのに、エリックはどれだけガーデンに貢献するというのだろうか。

 あらためてサブローが尊敬の念を抱いていると、話題の主が現れた。


「マリー、そろそろ荷物を厳選しないと、フィリシアさんに怒られ……サブローさん、お帰りなさい。あまり一人暮らしを始めたと思えませんね」

「ただいまです、エリックさん。それは言わないお約束です。……またすごいものを作ったようですね。魔力を利用した充電器とは……」

「ああ、その話ですか。もともとバッテリーをわざわざ魔法陣を使って送るのはどうかって意見があったんですよ。それで開発部の方々が機器を設計し、術式部分に関して意見を求められたというだけです。ぼくよりも水の国の人たちが役に立っています」

「水の国……あの人たち、けっこう馴染んでいますよね」

「そうですね。充電機器も他の機械の開発にいそしんでいる合間に作っていたものでしたが、水の国王陛下がこれに目をつけまして。長官さんに力を入れるように頼んだみたいです。予算が一気に増えたと言っていました」


 パルミロが目を付けた、という部分が気になった。素直に疑問をぶつけると、エリックは疲れた笑みを浮かべる。


「サブローさんたちには知らせるなと陛下の通達もありました。今度会う時に自慢がしたいそうです」


 充電器にかかわる自慢とはなんだろうか。疑問は増えるばかりだった。

 サブローはひとまず謎を置いておき、エリックに機器の説明をお願いした。


「今度持ち込む機器はとある充電装置の小型化第一弾で、試作品です。主に携帯の充電に使ってテストしようと思っています」

「マリーのゲームとかにもですか?」

「まあ、一応。ゲームを持ち込むのはマリーだけではありませんし」


 エリックが複雑な顔をする。ゲームを持ち込むこと自体は否定しないが、そのためにガーデン製の機械を使っていいのか判断つかないようだ。

 長官が規制するとは思えないので、特に問題はなさそうだ。


「多くのことに使用すれば、その分機能の安定に役立てるはずです。みなさんには協力してもらう、という心持ちでいいと思います」

「……そう考えると、少し気が楽になりました。ありがとうございます」

「よくわかんないけど、ケータイもゲームも使えるならマリーはうれしい!」


 無邪気にはしゃぐマリーを、サブローは時計を見てから渋面を作った。先にエリックが指摘する。


「それよりもマリー。フィリシアさんが帰ってくるまでに厳選しないと、怒られますよ。サブローさんも甘い顔をしている場合ではありません」

「そうだった! おにいちゃん、エリック、アイ、手伝って―!」


 はいはい、と手伝いに回った三人はマリーの荷物を分け始める。フィリシアが帰ってくるまで、時間の猶予はなかった。



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