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2456戦記  作者: SSS
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【歓迎会は和やかに】

『お、起きたか。お前が起きないと歓迎会できないからな』


やっと起きたか。何があったのかしらねーけど…ひょっとしてこいつW以外にも何か病気を持ってるとか…


『お前、W以外にも何か病気とかあるのか…いや、ほら、心配だからさ。俺達暫らく組むわけだし』

『別に、何もありませんよ。うつったりしませんから…』


そうか、良かった。主に俺が。


『安心したぜ。同居人が病気持ちじゃヒヤヒヤもんだからな』

『ええっ、同居って』

『安心しなよこの町でもまあまあいい所をキングの旦那用意してくれたからよ』


綺麗な顔も口をあんぐり開けてると…開けてても綺麗な顔は綺麗な顔か…


『僕ちゃん起きたのか』『おう、今起きたぜ』


ん?人数が多いな。


『ベリーさんも行くのかい。後ろのべっぴんさんも行くのかい、大歓迎だ』

『ザッコ…うちの孫にもこの子達にも指1本触るんじゃないよ。わかったね』

『へいへい』


『もし、触ったら…あんたのロボを…』

『おいおい』

『カリッカリにチューニングして安全装備も盛ってやるからね』

『うげっ、そりゃないぜ。俺のこと知っているあんたがえげつない嫌がらせすんなよ』

『私の言った事をしっかり覚えておくんだね…私は本気だよ』


仕方がない、このババアはやると言ったら絶対やる。その上完璧に仕上げるだろう…


『…わかった、エルの尻でも揉むことにする』

『なんで、僕…』

『綺麗な顔してるからな』


エルがぶつぶつ何か言っているが冗談の分からない奴だな。


『で、どこ行くんだい。ジェシカのところかい』

『そうだな、俺が顔を見せるときっとあいつは喜ぶからそうしよう』

『別れた女の店に頻繁に足を運ぶなんて本当にあんたは屑だね』

『アフターフォローだよ』『屑だろう』『屑ですね』『屑だわ』『屑なのだ』『屑だと思います』



分かってないな、ジェシカの俺への未練を察して顔を出してやる俺の優しさが、分からないんだなぁ。


『ジェシカー、客連れてきたぞ。いい客だろう。こいつの奢りだどんどん持ってきて、わっぷ』


『ザッコ、こんな子どもに奢らせるなんて恥ずかしくないのかい』

『ジェシカよ。こう見えてこのエル君はKQ団のエースだぞ。特別機の半額をポーンと気前よく支払う御仁だぜ』


『とてもそうは見えない…ひょっとして、ザッコと同じ』

『ジェシカ、俺のはエース様とは違うだろう、そんな事はいい飯も酒も不味くなるからな』



店の少し奥のテーブルを3つほどくっつけてその上に乗りきらないほどの食べ物や飲み物が並ぶ。

「本当に大丈夫」「今、幾ら位になりますか」「そうね、ざっとこれぐらいかしら」「そんなに安くていいんですか」「うちはそういう店だから」

エルとジェシカのひそひそ話しが耳に届く。


目の前の食い物に皆が集中している中。パンパンと手を打つ音が響く。


『よっし。俺のフェニックス団に一時的に飛ぶ鳥を落として焼き鳥にしちまうKQ団の超絶エースのエルが加わった。今日はエルの奢りで思う存分飲み食いしよういくぜ、乾杯』


それぞれのペースで食事を楽しむ。


俺の耳が凄い勢いで上へ上へと昇っていく。耳を基点としてくるっと半回転する。


『ジェシカ…いてーよ。お前の料理が食べれないじゃないか』

『ホントに馬鹿なんだから、もう勝手にすればいいわ』


ジェシカの奴はぷりぷり怒って行きやがった。



『本当に馬鹿じゃな』『馬鹿なのだ』

『おいおい、孫、婆揃って俺を貶めるんじゃねーよ。エル、味はどうよ。エース様のお口にあうかい』

『とってもおいしいです』


さっぱりした感想だけど…顔が嬉しそうだからおいしいんだろうな。うんうん、よかった。

いつもの安酒が今日は少しうまく感じるな。たまにはこういうのもいいもんだ。



一通り食べて全員の腹が落ち着いてきた頃。


『ところであんた達本当に大丈夫なのかい。ロボに乗ったザッコと手錠は、キングもよほどエースを殺したくないんだねぇ』



『僕は…戦場では抑えがきかなくなるので…』

『ザッコ、あの機体今のまんまじゃ確実にパワー負けだよ。エースに前線に引っ張られるんじゃないかい』


『…そいつはありがてぇ。俺が強烈に嫌がるのが想像できてわくわくすっぞ』


『隊長機じゃないから大丈夫なのでは』

『あれはね、強制帰還なら確かにそうだけどね。一定距離が離れられないのはパワー差があるとね弱い方が隊長機でも引きずられるのさ。本来、上官が部下より劣る機体に乗るなんて事は無いからね。想定外の不具合ってとこさね。あんたのKタイプとZタイプでは結構ずるずる引けるね。嬉しいだろうザッコ』

『嬉しいね。エルの言う事が本当なら前線に出れるからな』


不思議がるエルの顔を見て俺は心が躍るくらい喜んでいた。


『作業はそんなに時間がかからないと思うけど、訓練とかするのかい』

『エル、おまえのWはロボに乗るだけで出るのか』


『多少は出ますが…』

『ふーん。ぶっつけもなんだから見とくか』


『ザッコさんはどうなんですか』

『どうって?』

『Wのことです…』


『訓練中はでねーと思うぞ。俺のは…まあ、そのうち嫌でも解ることだろ』

『じゃあ、2日後には作業終らせるからね、顔出しな』


何するかな…2日か…金はあるし。

『ザッコさん、訓練に付き合ってもらえますか』

『ん、ロボの準備が出来たらするって話しだっただろう』

『いえ、生身の状態での訓練です』

『めんどくせー、パスだな』


衝撃が頭に響く。うわんうわんって酔ってる頭に変な心地よさがあるなぁ。


『戦場に出るんでしょ。あんた身体動くの、暫らくだらだらしてたの知ってるんだからね』



『ジェシカ、大丈夫だって。俺強いから、子どもの相手はロボならともかく生身じゃな』

『ロボなら戦いにならないじゃないのかい』

『いってくれるじゃねーか。ババア扱いの事まだ根に持ってるのか』

『子どもの相手も出来ないのかい』

『なにを。よし、わかった。おい、エル表に出ろよ。俺のボディに一撃いれれたら付きやってやるよ』


ジェシカの手にあるコップを奪い取り一気に飲み干す。店の入り口から外へ出る。

酔っ払いの野次馬が見守り、賭けごとの声が耳に届く。


『簡単なルールだ。俺の身体に一撃入れたらエルの勝ちだ。時間は1分、いいな』

大勢の観客にエルはおどおどしてる。俺の勝ちは決まったも同然だ。


『じゃあ、始め…』

あれ…足がふらつきやがる。ジェシカがなんか言ってるな…


お、エルの奴いい踏み込みだが、相手を見ないで突っ込むのはどうかと…

ぐおっ…うっうっ、をういぇぇぇぇぇ






悲惨だわ…ザッコのみぞおちにエル君の頭がぶつかって、その背中にザッコがもどして…


『気分が悪いね。あんた達も戻った戻った』

ベリーさんが野次馬を散らしてくれる。


『エル君、とりあえず上着を脱いで。臭いが取れなくなっちゃうから』


ザッコはすっきりした顔で地面に仰向けで寝ている。店の中から水をバケツに入れて。


頭からかける。


『うばぁぁっっ』

『ザッコ、ダサいのだ。突き抜けるダサさが逆に爽快なのだ』

『エル、そんな酔っ払いはほっといて飲みなおしだよ』

恥ずかしそうに皆に連れられていく。この場には私達だけ…


『ザッコ…あれ消毒用のアルコールだったのよ』



『そうか、なんか勢いで煽ったけど変な感じがしたんだよな。気持ちわりい、普通の水くれよ』


コップに水を入れてべしゃべしゃのザッコに渡す。


『がらがらがらがら、ぺっ。なんか俺が着れるもんある』


本当に馬鹿なんだから…


『昔あんたが置いていったのがあるから着替えてきたら』

ザッコに鍵を投げる。


『わりぃな…』

外の水瓶の水をばしゃばしゃ浴びて店の裏手に歩いていった。




『ジェシカ、あいつはどうしたんだい』

『着替えに行きましたよ』


『悪い事はいわないからあんな男はやめときな。まあ、余計なお世話だけどね』


『エル君、服はとりあえず洗ったからこれで拭いてね。あの馬鹿消毒用アルコール飲んだのよ』

『嘔吐物も消毒されてるなら大丈夫なのだ。エルの完全勝利なのだ』

『…はは、そうですね』


エル君は渡したタオルで上半身を軽く拭く。

『へー、年の割りにいい身体してるじゃねーか。さっきの動きはフェイクか』

『いえ、あんなにたくさんの人前で緊張してしまって』

『メン、私達はそのためにいるのではないのよ』

『へいへい』


『まあ、シクラ。あの馬鹿が約束守らなかったらちょいと相手してやっていいじゃないか。トップクラスのエースだ。面白いかもしれないよ』

『ベリー様…そうおっしゃるのであれば』



『そこまで俺は落ちてねーぞ。約束は約束だろう、めんどいけど約束だからな』

『大丈夫なんですか』

『消毒用は全部お前の背中に出ただろうからな、大丈夫大丈夫…お前いい身体してるな』


ザッコにコップを差し出す。


『ジェシカ、ありがとよ……・・・おいおい、ジュースじゃねーか』

『ザッコ、私と同じジュースで乾杯なのだ』

『ちぇっ』




それからは何事もなく楽しそうにしている姿をカウンターから見つめていた。


私のシャツを着たエル君と洗濯物を担いだザッコの見送った。そして戻った自分の部屋には汚れたままのあの人の服が床においてあった。


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