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2456戦記  作者: SSS
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【ある酒場で】

外は雨が降っている、しかし酒場の中にそれを気にするものがどれほどいるだろう。



カウンターの隅で身体の大きな男がちびちび酒を舐めるように飲んでいる、この店で一番安いウイスキー、粗悪品と言っても間違いではないそれをジェスチャーで店員に要求する。


『ザッコ、そういうのは金を持っている時に要求しな』

『ジェシカ…なんだかんだ言って俺は酒代踏み倒したことは無いと思うけどな。駄目か』


ジェシカは腰に手を当て顔をグイッとザッコに近づける。ザッコは特に動揺もせずにそのままジェシカを真っ直ぐに見つめ返す。


暫く見つめ合いが続くが先に根負けしたのはジェシカの方だったようだ。


『確かにあんたは一度も踏み倒してないけどね…また、どこかの戦場にいくんだろう。今回踏み倒さない保証なんてないだろう』

『ジェシカに酒代返すために絶対に帰ってくる。それに俺は死にたくないんでね』

『最初だけにしときゃいいのにあんたってひ…』

『ジェシカ、そんな不死身の腰抜け野郎の相手しないで俺達の相手してくれよ』


ザッコは酒場に音が響くようにガタッと立ち上がる。


先ほどの酔っ払い達は音に少しびっくりしたが黙ってはいなかった。

『戦場で1人コソコソしているような奴相手に俺達がびびるとでも思ってんのか』

『戦場じゃなくてここで死んでみるか…それともなにか?ロボに乗らないと殺し合いも出来ないのか。ああぁん』

『ザッコやめなよ、あんた1人なんだよ』

『ジェシカに免じて土下座すれば見逃してやるよ』



『そうかい、そうかい、土下座すれば見逃してくれるのかい、はぁ』


カウンターの上の空瓶を打ちつけ、それを集団に向けて突きつける。

『土下座したら俺も見逃してやるよ…』

『…どちらもやめよ…』



「…キングだ…どうしてこんなところに…」


堂々とした姿は全身鍛え上げられておりその眼光は鋭い、店の中は一気に静まり返る。

『邪魔すんなよ…これからいい所だろうが』

キングと呼ばれる男に臆する事なくそう言い放つザッコを完全に無視してその男はザッコと揉めていた集団へと近づいていく。


『な、なんでしょうか…』

消え入りそうな声を絞り出す。



『あの男に用があるのだ…これで収めてもらえないか』

男の手に金貨を握らせると男達は静かに席に着いていく。

「キングさんにいわれちゃしょうがねーな」などといいながら。


『余計な事しやがって、折角酒代巻き上げてやろうと思ったのによ』

『店主、こいつに酒を』

カウンターに金貨を置く。

『うちには金貨で飲むような高い酒はそんなに無いよ』

『じゃあ、俺の酒代のつけもそこから引いとけよ』

『図々しいわねあんた…』

『構わない、そうしてやってくれ』


ぶつぶつ文句いいながらジェシカは酒を2つ出して下がっていった。


『飛ぶ鳥を落としまくってるKQ団の団長のキング様がこんなちんけな酒場にいる俺に何の用だい』

「うちにけちつけるんじゃないよ」遠くからジェシカの怒鳴り声が聞こえたが2人はまったく関係ない様子で話を続ける。


『仕事を頼みたい』

『俺にか…フェニックス団にか…って俺1人だからどっちでも一緒だがな』



『どちらでもいい』

『で、今ロボが無いけど出来るような仕事か』

『…修理中か』


『ちょっと金が無くなってな…』

『報酬を先払いするから用意できるか』

『内容が先だ。簡単に釣られれねーからな』


『うちのエースの目付役を頼みたい』

『おいおい、キングさんよ。今ビッドで最大戦力って言われて誰もが頷く天下のKQ団のエースのおもりを、この俺にって正気か。やる事ねーだろう。それに高い金を出そうってのか、頭おかしくなったのか。そんなおいしいお仕事を俺にくれるなんてありがとよ、あんた前からいい奴だと思ってたんだよ』

『条件は1つ。うちのエースを死なせないこと。期間は奴専用の特別機が出来上がるまで一時的にお前の団に入れてその上で私の下についてもらう』

『オーケーオーケー、幾らくれんだよ…おお、いいのかこんなに』

『ロボと装備、整備も入れればそれくらいは必要だろう。あくまで報酬の先払いだから準備で残った分がお前への取り分になる』

『ロボ買えればこれから稼ぐのも楽になる、御の字だぜ』

『では、明日夕方ベリーさんの所で会おう』

『げっ、ババアのところかよ…』『腕は確かだろう』


『まあな…』


金貨を一枚ザッコに握らせてキングは店を出て行く。


『ジェシカ、酒くれ酒。いつもの安いやつ』

『ザッコ、あんなうまい話、絶対裏があるよ。危ないんじゃないの』


『ジェシカ…あのKQ団だぞ。敵さんも姿を見つけたら逃げ出すって噂のKQ団だぞ。そこの団長がはっきりと「うちのエース」って言った。最高戦力中の最高だ、その辺の街角より安全ってもんだぜ、商売道具もまた買えるしいいこと尽くめだろう』

『…そうかもしれないけど』

『しかも、そのエースさんが一時的に俺の下につく、その上でKQ団の下に俺がつく。簡単に言えば俺が一時的にKQ団に入るってことだろう。単独行動させられるわけじゃねー強い集団の中は安全だぜ。うまくいきゃおもりしながらさらに稼げるかもしれねー。ジェシカ、の店でいい客になれるってもんだ』

『ザッコ…』



『運が向いてきた俺と昔みたいにベッドで仲良くしないか』

店に響く乾いた音。

『あんたは昔からもうちょっとは相手の気持ちを考えてムードってもんがあるでしょうが』


『おーイテー、悪かったよ。でも、稼いだらいい客になるからよ。また来るぜ』

『ザッコ、気をつけてよ』

『ジェシカは最高にいい女だな。次来る時は高い酒飲むからな』


上機嫌で店を出て行くザッコの後ろ姿を見ながらジェシカは誰にも聞こえないように呟く。

『…どうせ、今から女買いに行くんでしょう…バカ…』


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