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2456戦記  作者: SSS
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はじまるよったらはじまるよ

【始まりは無限にある落とし穴】


雨が降っている、そりゃ景気良くざんざん降りやがるよ、こんな日は客も少ない。

この工房にある仕事はほぼ終っちまってるし…


世界一可愛い孫娘の様子でも見にいくかね。



『サリー、どうだい。面白いかい』

『おばーちゃん、サリーって呼ばないでっていっているのだ。私はペインターなのだ』


この子は一度言い出すと頑固だからねぇ。


『ごめんよ、ペインターは言いづらいからペンでもいいかい』


腕を組んで考えているみたいだね、おいおい…塗料が服に付いちまうよ。


『しょーが無いのだ、おばーちゃんだけ特別にペンでいいのだ、私はまだ作業中だからあとで遊んであげるのだ』

『楽しみにしているよ』



量産機をあんなに目立つ色にしたら売り物にならないね…あの子が楽しそうだからいいかね。




それにしてもよく降るね…ああ、水溜りが多いね、また埋めさせないといけないね。


工房で作業している方を向く。


『お前達、雨がやんだら入り口からの通路埋めときな、いいね』

「「「はい」」」


私の声が届いた連中が歯切れのいい返事を返してくる。



『ベリー様、昼食の用意ができましたわ』

『サリーにも声をかけないといけないね』


『サリー様にはメンが声をかけにいっています』

『そうかい、じゃあ部屋に戻るかね』


シクラの淹れた茶を啜りながら暫く待つと廊下から賑やかな声がしてくる。


「いやいや、私のはいいよ。お嬢の手を煩わせる必要ねーから」

「メン、お嬢じゃない。ペインターっていっているのだ。美しく仕上げてやるのだ」

「えー、今の感じが気に入ってるからさ。シクラのやってやれよ」


ガチャっと扉が開く。


『まあ、とりあえず座りな。腹減ったからね』


4人で小さなテーブルを囲み、目の前のふたを取る。立ち上る湯気と香り。


『『『『いただきます』』』』


家の飯は丼物が多い、理由はひとつ、早く食べれて腹が膨れる。

味はシクラがいる時は間違いない。


ある程度食べたところでさっきの話がまた始まった。


『おばーちゃん、メンのロボを私が綺麗に塗りなおしてやろうと思ったのに嫌がるのだ』


メンがギョッとした顔でこちらを見る。


『ペン、メンの機体もシクラの機体もうちの工房の護衛の要だからねぇ…特別機じゃないけど私がかなり手を加えてるペンはまだ塗装を始めたばかりじゃないかい。あの量産機でしっかり練習するといい。いい腕になったら2人から頭を下げて頼みにくるよ、きっとね。何でも基礎が大事だからね』


腕を組んで暫く考え込んでいる様子…その反対では明らかに安堵の表情を浮かべる2人が居る。


『ふむ、おばーちゃんもいっぱい練習したのか』

『ああ、くり返しくり返し当たり前と言われている事でも自分でやったね。納得がいくまでね』



『おばーちゃんがそうしていたのなら、私も頑張るのだ。でも、上手になってももうメンのは綺麗にしてあげないのだ。シクラのはやってあげるのだ』


苦笑いを浮かべながら『そのときはお願いしますわね』というシクラ。



『ご飯を食べ終わったら細かい部分に取り掛かるのだ、メン手伝うのだ。手伝ったらさっきのは無かった事にしてあげてもいいのだ』


明らかに嫌な顔をしているメンに目配せする。


『わーい、うれしいなー』

『では、もりもりご飯を食べてゴーなのだ』


『慌てて食べると変なとこに入るよ』

がつがつ食べきり、その勢いとともに出て行く2人…




『サリー様大丈夫でしょうか…』

『今はペインターって名乗っているからね。シクラも気をつけな、機嫌損ねると何しでかすかわかんないからね』


スッと目の前に熱いお茶が出される。


『長続きするか分んないからとりあえず様子見だね、技術はセンスあるんじゃないかと思うけどね…量産機にあの色だからね』

『サリー様に甘すぎるのでは無いですか』



『自分でもそう思うんだけどね。あの子には自由にさしてやりたいのさ…あたししか甘やかしてやれないからね』

『差し出がましい事を言いました』




『気にしないでいいよ。お前達も家族のようなもんだからね』


とはいえ、あれも商品だからね…まあ、いいか。






『メン、つなぎ目とか塗っていくから私の言うとおりに動かすのだ』

『へいへーい』


お嬢の言うとおりに目の前の機体に乗るためにワイヤーを降ろす。

降りてきたワイヤーにつかまり徐々に昇っていく…胸のコクピットに乗り込み、起動。


周囲が見えるモニターが立ち上がったところでお嬢に声をかける。


『お嬢、OKです。指示どうぞ』

『メンは頭が悪いのか。私のことはペインターと呼ぶのだ』


リフト付きの車両が正面でその荷台部分が伸び上がってくる。


『少し肩を後ろにそらすのだ、胸部の白いパーツにこの色を塗るのだ』

『お嬢…量産機がこんなに目立ってどうすんですか』

『私の感性がこの黄色を選ばせるのだ、理屈じゃないのだ』



何を言っているのか良くわからないがとにかく言われた通りに肩を少し後ろに反らせる。


『これでいいですかいお嬢…その辺りでも15メートル位あるんで落ちんでくださいよ』

『大丈夫なのだ。命綱でバッチリなのだ。昼ご飯前は天井からぶら下がって肩の角を塗っていたのだ』


『お嬢…それ命綱とちょっと違うような気がするけど…』

『塗るのだ…私の魂の叫びを塗るのだぁー』



私は思った。叫びは塗るものではないと…


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