主人公の声を誰も知らない
全七回予定。第一回。
この物語の主人公はごく普通ーーではない男子高校生。
〈彼〉は、部活には所属せず、特に趣味もない〈男子高校生〉。学校にいるときは、休み時間だけではなく、授業中も机に突っ伏している。
そして、誰も声を聞いたことがない。
季節は夏。期末テストを間近に控えた日曜日。〈彼〉は、テスト勉強などせずに町をぶらついていた。
「なにやってるんですか、〈先輩〉?」
〈彼〉に話しかけたのは、〈彼〉の妹の同級生。中学生でありながら、赤みがかった茶髪は、染めたわけではなく地毛である。
「無視ですか?」
いつものことだが、〈彼〉は答えない。
「無視ですか?」
彼女は諦めたようで去っていった。
〈彼〉に目的はない。ただ、町を歩いているだけ。なにをするでもなく。
日が暮れてくると、〈彼〉は家に帰った。
期末テスト当日。〈彼〉は七時には学校にいた。そして、机に突っ伏している。
「早いのね」
〈彼〉に話しかけたのは、同級生の少女。長い青髪に赤い瞳、自称魔女。
「確かに珍しいわね」
その問いに答えたのは、別の少年。見た目はごく普通の。
「なんであなたが答えるのよ」
「だって、どうせ〈彼〉は答えないじゃない」
〈彼〉を挟んで、二人で会話が始まる。
「話しかけてれば、答えるかもしれないじゃない」
「そんなことないと思うわ」
そうして、二人は話し込む。
〈彼〉は、テストが始まるまで起きることはなかった。
テストが始まり、十分後。〈彼〉は机に突っ伏している。
出来なくて、ふて寝しているわけではない。終わったので、寝ているのだ。
机に突っ伏している生徒は、他にも数人いる。
一人は、早々にすべてを解き終わり、寝ている茶髪の少女。俗にいう天才である。
一人は、早々にすべてを諦め、ふて寝している赤髪の少年。俗にいう馬鹿である。
テストが終わる、十分前。〈彼〉は机に突っ伏している。
あれから、まったく動いてはいない。他の生徒の多くも突っ伏している。
突っ伏していない生徒は、数人いる。
一人は、早々にすべてを解き終わったが、寝ていない赤みがかった茶髪の少年。
一人は、半分も解けていないが、まだ諦めていない黒髪の少年。
一人は、突っ伏していたが、途中で起き上がった赤髪の少年。
テストが終わる。相変わらず、〈彼〉は机に突っ伏している。
回収するときも、〈彼〉は動かなかった。しゃべりもしなかった。
他の教科でも、同じような状況が続いた。そして、すべてが終わる。
結果は次回。