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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

落ちこぼれと最高の魔導書

作者: 立花

 夏の暑い日、天気は快晴である。この日コーリントス魔法学校では、先日行われた試験の順位発表が行われていた。コーリントス魔法学校では、己の立ち位置をはっきり見定めよ、との教えから一位から最下位までの順位が全て張り出される事になっている。


 コーリントス魔法学校、高等部二年でも通常通り試験結果が掲示板に張り出されている。その結果を見るために多くの生徒が掲示板の周りに集まっている。集まった生徒達は自分の順位を見て、成績の良い生徒は笑顔で、悪い生徒は苦い顔をしている。その中で一人の少年がじっと腕を組みながら、無表情で自分の順位を見ている。しかしその指はトントントントンと忙しなく動いており、少年の心中がひどく苛立っている事がわかる。その少年の視線の先にあるのは、少年の名前であるクリス・べウツ、そして順位は六百三位と書かれている。


 コーリントス魔法学校の、高等部二年の生徒数は七百八十三人で、クリスの順位で言えば下の上ぐらいである。これでは駄目だと……、クリスはそう心中で思っていると、後ろから声が野太い声が聞こえてくる。


「おい、クリスのやつ六百番台だぜ!」

「おっ! ホントだ、さすがベウツ家の出来損ないだぜ!」


 クリスその声が、知り合いの物だとわかると、舌打ちし、声のした方へと振り向く。


「おい、コラ、ダインにセイン、テメェ等、喧嘩売ってんのか……」


 そこに居たのはクリスのよく知った顔であった。その二人の顔はクリスと同じ年齢だと言うのにひどく老けて見え、何も知らない人が見たら山賊と見間違えてしまうぐらいの風体をしている。しかしその二人は歴とした、このコーリントス魔法学校生徒であり、さらにクリスと同じクラスである。名前をダイン・カミュ、セイン・カミュと言い、双子の兄弟である。


「おぉ! すまねぇ、そこにいたのに気がつかなかったぜ、そんな怒んなよ」

「そうだぜ別に魔法の名門であるべウツ家に、喧嘩なんて売ってねぇからよ~」

「その割には、そのくせぇ口からでかい声、出してたじゃねぇか」

「あぁ、声がでかいって! そらすまねぇな! なんせべウツの名前を持つ者が六百番台なんて、酷い順位にいるもんで驚いてよ!」

「ああ、そうだぜべウツの名前を持つ者が! 六百番台なんて! 取る方が悪いんだよ、驚くのも無理ねぇよ!」


 カミュ兄弟はゲラゲラ笑いながら、大きな声で言い放つ。


 カミュ兄弟の言う通り、クリスの家である、べウツ家は魔法の名家である。べウツの名を持つ者は、例外無く魔法の才に恵まれており、全員もれなく、この国の魔法関連の重鎮となっている。そして、常にその後塵を拝していたのが、双子の家であるカミュ家である。その為カミュ家はベウツの家に対して並々ならぬ、恨みを抱いているである。その為、この二人は落ちこぼれであるクリスに良く絡んでくるのである。


「あぁ……、確認するまでも無く、喧嘩売ってんだな、よし、わかった、その下品な面さらに下品にしてやる……」


 クリスのその言葉に、カミュ兄弟も身構える。周りにいた他の生徒達は、巻き込まれてはかなわいとばかりに、離れていく。そして三者が拳を握り閉めたその時!


「何をやっているのか!」


 鋭い怒声が飛んできた。

 クリスとカミュ兄弟が声の方へ向くと、そこには教員が真っ赤な顔をしてこちらを睨んでいた。クリスは、チッ! と軽く舌打ちをし、その場を離れる。後ろで教員が何か言っているが、それに構わず歩いていく。





 クリスは歩きながらクソッ! と心中で毒づく、再度思うこのままでは駄目だと。しかしどうしたら良いのかがわからない。これまで出来る限りのことはしてきたつもりだ、授業はきちんと受けている、予習、復習もやっている、図書室の蔵書で魔法関連の書物は読み切った。そのおかげで座学関連に関しては、ほぼ完璧だ。しかし実技が悪すぎる。できることと言えば、基礎である、初級魔法だけである。中級から上の魔法は一切できないのだ。身体を調べて貰っても異常はない。なのに初級魔法しか使えない。これではカミュ兄弟たちが言ったとおりの、出来損ないである。


 クソッ! と再度毒づきながら、図書室の方へ歩いていく。



 クリスは図書室のドアを開けると、まっすぐ魔導書関連の本が収められている区画に行く。しばらくそこで本を探して見るが、やはり既に読んだ本ばかりである。小さく溜め息を一つつくと、クリスは腹を決める。


 この図書室には”禁書”と言われる、見るだけで命の危険があると言われている魔導書が収められている部屋がある、もちろん立入禁止ではあるが、クリスはそこの入り蔵書を少し拝見させてもらおうと考えていた。


(まぁ、今日は様子見だな……、どんな魔法で封鎖されているかしっかり確かめねぇとな……) 


 そう思いながら、禁書庫がある方へ向かう。禁書庫の前につくと、その様子に首を傾げる、禁書庫のドアに何の封鎖もされていないように見えるのだ。魔法の知識に関しては自信があるクリスだけにこの状態はあり得ないととわかる。以前チラリと見たときは、厳重な封鎖がされており、近寄る事さえも躊躇うぐらいだったのだ。


 クリスはドアノブを握り、回す。予想していた通りスッとノブが回る。大きく息をつくと辺りに誰もいない事を確認する。そしてその時に自分が、ビッショリと汗をかいている事に気がつく、汗を拭い、再度深呼吸をし、ドアを開け中に入る。



 禁書庫の中は、別世界のようだった。おそらく、作られた当時は、外の図書館と同じような棚と壁だったはずだ、それが今やは肉壁とでも表現するのが最も正しい紫がかったピンク色の何かに変わっており、さらに脈を打つように蠢いているのだ。おそらく保管されている魔導書から漏れ出る魔力で、壁や本棚が変質し、このようになっているのだろうが、正直勘弁してほしい。さらに魔導書からの魔力で身体が重りをつけられたように重くなっている。一歩進むだけで、体力をかなり消耗している、それどころか、立っているだけで、力を吸い取られているような感じを受ける。一刻も早く、ここから出ていけと本能が警鐘を鳴らしているが、どの本を取るのが正解かわからない、下手に手をだした瞬間、命が無くなりそうな本ばかりなので、迂闊に手を出せない。


 クリスがどの本を手に取るか、逡巡していると、目の端に一つの本が映る。その瞬間、クリスは、その本を手に取っていた。恐ろしいのは、クリス自身に取った記憶が無いことだろう……、しかし記憶が無くとも既に、手にした物であり、なにより自分から求めにきた物である。開かないと言う、選択肢はなかった。


 クリスは手にした本を見る、

 この臓腑のような部屋の中にあってこの本はとても綺麗だった。真っ白いカバーにおそらく題名だろうと思われる文字が記されており、金の装飾がされている。まるで無垢な少女のような印象を受けた。


 ごくりと、カラカラになった喉につばを飲み込むと、クリスは、手にした本を開いた。






 その瞬間、光が溢れた。






 本から溢れた光で、目が眩んだクリスは、思わず本を放り出した。それから、しばらくしてようやく落ち着き取り戻し、恐る恐る目を開き、そして絶句した。


 無数の文字がクリスを中心にして回っていたのだ。座学が得意で、多くの書物を読んだクリスでも、今自分の周りを回っている文字が一つもわからなかった。なんとか文字だと認識できたのは、カバーに記されていた物と似ていたからだ。


 クリスはどうしたら良いかわからず、何となくその文字を触ってみた。そして触った瞬間、声が聞こえた。


 ――使用者確認、写本セファーラジエル起動します――


 クリスの周りを回っていた文字は、クリスから離れていき、一カ所に集まっていく。そして

 しばらくすると人の形に変化していき、人の形をとったと思ったら、眩いばかりの光を発し、その光に目が眩んだクリスが再度目を開いたときその場所に居たのは美しい少女だった。


 光の少女、それが彼女を見たクリスの最初の感想だった。

 黄金の艶やかな髪に、髪の色と同じ瞳に白い肌。十四、五歳ぐらいの少女で何故かコーリントス魔法学校の制服を着ているが、いきなり現れた少女が生徒であるわけがないだろう。そも、これだけの、美を誇るならば、噂になっていなければおかしいはずだ。


 クリスが呆然としていると。目の前の少女が話しかけてくる。


「マスター、取り敢えずここからでませんか?」

「は? えっ……マスターって俺か?」

「はい、話をここでしますか?」


 クリスが辺りを見る。周りは恐ろしい魔導書と肉壁、肉棚で囲まれている。


「いや……、まず出よう」

「では、行きましょうか」


 そう言って少女はささっと出て行ってしまう。


「えっ! ちょっ!」


 クリスはそれを慌てて追っていくと少女はドアを出たところで待っていた。


「ここで話をしますか?」

「いや、でも、その前に一つだけ聞かせろ、お前は禁書庫に収められていた魔導書か?」

「はい、その通りです。」


 少女は形の良い唇から、静かに答えた。


「そうかよ、少し待っていてくれ、禁書庫の封鎖が解けてる事を司書に言ってくるからよ…… さすがに、こんなとこ、誰か間違って入ったりでもしたら、不味いからな…… ああでも、報告したら、お前が無くなっている事がばれるか……」


 ばれると、先ず疑われるのは自分だろう、さてどうするか、と思い悩んでいると、少女が提案してきた。


「それでは、私が何とかしましょうか?」

「何とかって、出来んのかよ? お前、どんな封鎖されていたかも、知らねぇだろ……」

「そこは大丈夫です、それに、少しマスターにも手伝って貰いますから」


 そう言うと、少女は手のひらを、クリスの胸に当てる。クリスが怪訝に思い、疑問の言葉を口にする前に、クリスの魔力が急激に減少した。


「なっ!」


 急な感覚に、驚いたが、その後に起こったことに唖然とする。


 禁書庫のドアが、以前見た通りに封鎖されていくのである。

 数瞬の間に、以前の見た通りに封鎖された状態に戻ったドアを見て、目の前の少女であり、魔導書でもある存在がが途轍もない代物であることをクリスは確信する。


「では、行きましょうか?」

「……あぁ」

「何処で話をしましすか?」

「話を聞かれたくないからな、俺の部屋に行くぞ」


 そう言い、クリスは歩き出す、その後ろを少女が追っていく。二人は学校を出、少し行った所に建っているアパートの二階の端の部屋に入る。ここはクリスは借りている部屋である。部屋にはいるとクリスは、少女に椅子を勧め、自分はベッドに腰掛け、早速とばかりに話を切り出す。


「一応、封鎖は元に戻ったが、お前を持ってきたこと、ばれるか……、禁書庫に保管されてるぐらいだ有名な本だろ?」

「先ず、一つ訂正をします。私は、あの禁書庫に収められてはいません。」

「はっ? じゃあなんであそこにあったんだ?」

「あなたが、私の担い手で、今日、あそこに来ることを知っていましたから。待っていたんです。」

「……、じゃあ何か? 扉の封鎖が消えていたのはお前のせいってことか?」

「そのとおりです」


 少女は淡々と答え、対して、クリスは少し疲れた声をだし、大きく一つ溜め息をつく。


「まぁ良い、一番知りたいのは、お前が使える魔導書かどうかって言うことだ……」


 クリスが目で、どうだ? と少女に問う。


「もちろんです、私は、最高(クラス)の魔導書です。必ずやご満足頂けることかと。」


 ふふん、と少し胸を張り自慢げに答える。 


「……そうかい、そりゃ良かった。……って悪い、まだ名前を言っていなかったな。俺は、クリス・べウツだ。」


 クリスは、自分の名前を言うと、少女にお前は? と問う。


「私の名前は、セファーラジエル……」

「セファーラジエル……」


 クリスが少女の名前を呟く。


「……と呼ばれる魔導書の写本です。」

「写本?」

「……、なんですか? 写本だからって、舐めてるんですか? 怒りますよ?」


 むっ、と気分を害しましたと言う顔でこちらを見てくる。その様子に、少し苦笑する。少しご機嫌でもとっておくか……、とクリスは答える。


「ああ、スマン、禁書庫の一件で、お前が凄いって事はわかってたよ。その凄いお前が、写本と言うじゃないか、少し驚いただけだ。」


 写本という物は、大体において、原本より劣る物として知られている為、人型をとり知恵がある、この魔導書が原本では無い事に驚いたのである。


「そっ、そうですか、それならば良いんですけど……」

「で、お前のことは、なんて呼べばいい?」

「好きに呼んで良いですよお任せします。」

「そうかい、なら、セファと呼ばせて貰う。」


 少女……、セファは少し意外だと言う顔をする。


「はい、それで大丈夫です。とは言え、今までは、ラジエルと呼ばれることが多かったので、なかなかに新鮮な感じです。」


 本の癖に、感情豊かだな、と思いながら、クリスは一番聞きたい事を質問する。


「で、セファ、お前は何が出来る魔導書なんだ? 教えてくれ?」


 クリスのその言葉に、セファは微笑みながら応える、何でも、と。


「何でも?」

「はい、何でも……、です。私

 セファーラジエルは、全てを知り、どんな奇跡でも起こすかとが出来る……、そんな魔導書です。……まぁ十全に使えればと言う前提をクリアすればの話ですが」

「……前提?」

「はい、私は魔導書ですから担い手次第と言う訳です。私は、どんなことでも知っており、どんな奇跡も起こす事が出来ます。しかし、その為の力は契約者から貰わなければなりません。」

「……つまり、セファは何でも出来るが、その上限は俺がどれだけ力を渡すかにかかってる。そう言う事か?」

「その通りです。」

「その力って言うのは魔力で良いのか?」

「はい、正確に言えば、魔力でも良いと言う事です。魔力は使っても、時間が経てば元に戻りますから、体力でも可能ですが、魔力より回復が遅いので、良く使われるのは魔力です。」


 なるほど、と少し考え込む。


「……俺は、初級魔法までしか使えない。……それを変えるには、どれだけの魔力が必要だ?」


 セファは失礼します、と断り魔力を抜き、クリス身体を調べる魔法を発現させる。一瞬の後、セファが答える。


「先ず、クリスが魔法を使えない理由は、出力できる魔力の上限が極端に低い為です。」

「理由はいい、どれくらい必要だ?」

「……、クリスが全ての魔力を、毎日私に渡したとして、およそ二十年分。それだけ必要です。」

「二十年か……、それも全部渡してか……、あんまり現実的じゃねぇな」

「すみません。」

「謝ることはねぇよ、使えるようになるって事がわかっただけで十分だ。それで聞きたいんだが、セファに渡す力って言うのは別の、例えば、魔物なんかを指定したら、それから奪ってくれるのか?」

「それは出来ません、ただ魔物の体内にある魔石に関しては、使うことができます。条件として、クリスが倒した物という条件がありますが。その際には私を使って倒しても良いですよ。……まぁ、直接クリスから渡されるよりも変換される量は少なくなりますが。」

「まぁ、あいつらは、無限に発生するからな。そっちの方が現実的か……」


 そう言うと、クリスはベッドに倒れ込み、黙ってしまう。しばらく経っても、そのままなので、セファは、どうしよう……と不安に思い始めた時、クリスの方から、かすかに笑い声が聞こえてくる。


「クックッ! クックックックッ! ハーハッハッ!」

「あっ……、あの……クリス?……」


 突然、クリスから出た狂ったような笑いに、若干引きながら、セファは声を掛けるが、クリスはその声が、聞こえないかのように、ブツブツと独り言を始める。


「ようやく、ようやくだ! あのクソ面したカミュ兄弟や、俺を落ちこぼれ扱いした奴らを、見返せるんだ。だいたい、そう言う奴らに限って、俺より座学の成績が悪いんだ。今に見てろよクソヤロー、立派に使えるようになったら、ただじゃおかねぇ……」

「あ……、あれ? クリスが三下っぽい感じになってるような……」

「セファ!」

「はいっ!」

「早速行くぞ! 魔物を狩りまくってやるぜ! ヒャッハー!」

「ちょっ! さっき迄の冷静なクリスは何処へ行ったんですか!」


 クリスは装備を手に取り、上機嫌なまま部屋を出て行く。それに唖然としていたセファだったが、ハッ! と気を取り戻し、慌てて部屋を出て行く。



 部屋を出た二人が、向かった先は、討伐者組合である。

 ここは、魔物を討伐すると、その量に応じて料金が払われる仕組みで、他には魔石の買い取り等をしている組織である。


 二人は組合に入ると、手続きのため受付に向かう。受付には、顔の整った女性が座って対応しており、クリスの顔を見ると、笑みを浮かべて、挨拶をしてくる。


「お~、お久しぶりッす。元気でしたか? 今日は討伐で?」

「あぁ、手続き頼む。」

「了解っす、ちょっとお待ちを……」

「今は、どこら辺に多く出る?」

「今は、森が比較的多いっすね、でも全体的に多くなってきてるっすね。っと、お待たせしました、カードッす。」

「あぁ、サンキュ。」


 クリスが差し出されたカードを受け取ると、受付の女性は注意事項を話し始める。


「それでは、注意事項です。

 そのカードは魔物を倒したらその数を自動的にカウントする物です。紛失された場合は、賞金を払うことが出来なくなりますので、お気を付けください。そして再発行する手数料として3万ゼニー頂きます。

 魔物との戦闘によって生じた怪我、死亡は組合は一切責任は負いません。」

「ああ、わかってるよ。」

「受付の終わりに必ず言う決まりっすからね~、それで、そちらのかわいい女の子はどちら様ですか?」


 受付の女性はクリスの横に立っているセファを見ながら言う。


「彼女ッすか? 新規ですよね? 登録します?」

「相棒だよ、ああ登録は頼む。」

「わかったっす。じゃあ、かわいこちゃん、こちらへどうぞっす。」

「はい、宜しくお願いします。」


 セファは綺麗なお辞儀をし受付に近づく。


「おおっ!礼儀正しい子っすね、こちらこそよろしくお願いしますっす。」

「じゃあ、向こうで待ってるからな。」


 しばらくして、登録が終わったのか、セファが歩いてくる。


「お待たせしました。」

「おう。じゃ行くか……」

「どこへ行きますか?」

「取り敢えず森だな、セファをどの程度扱えるのか、確認もしないといけないしな」


 セファは、クリスが落ち着いた様子を見て、ホッと息をついた。


「うん? どうかしたか?」

「いえ、クリスは今のままでいて下さい。」


 クリスは、よくわからないと言ったように首を傾げる。

 セファはそんなクリスを見て、満足したように頷いている。


 二人が街を出て、森の入り口に近づいた時に、突然、声を掛けられた。


「やあ、やあ、そこのお二人さん、少しお待ち頂けないだろうか?」


 二人が声がした方向へ首を向けると、整った顔をした、白い髪の男性がいた。二十歳に入った位の年齢に見え、柔和な笑顔を、こちらへ向けている。


「何か用か?」

「ああ、少し聞きたい事があるんだが。もしかしてお急ぎかい?」

「まあな、あんま、アンタの相手をしてる暇はないぜ。」

「おお、それは申し訳ない。では時間を取らせるも悪いので、早速ではあるが本題を言うよ……」


 クリスはこの男との少しの会話で、若干の警戒をしていた。それは、ほとんど本能だったが、その警戒が正しかった事を直後に知る。


 巨大な火球が男から放たれ、クリス達に迫って来たのだ。

 男に対して、警戒をしていた為、なんとか直撃は避けれる、そう思ったクリスだったが、隣にいた、セファの行動に硬直してしまう。


 セファはクリスの前に、まるで庇う様に出てきたのだ。


「おまっ! 何を!」

「失礼します。」


 クリスの慌てる声に対して、

 セファは落ち着いた声で返す。

 その次の瞬間、クリスは身体から魔力が抜かれた。そして、セファの前には、一瞬で金色(こんじき)の魔法陣が現れ、火球を受け止める。火球は魔法陣にぶつかり、激しい爆発を起こしたが、後ろにいたクリス達には、一切の余波も来なかった。


 その光景を見た、男は予想外だと言うように話しかけてきた。


「おや、驚きだ。殺す気で放ったんだけどね……、そちらの彼女が予想以上に、優秀だと言うことだね」

「っ! テメェ! 何のまねだ!」

「ああ……、すまない本題に入ると言っておきながら、話していなかったね。申し訳ないね」

「ふざけてんのか! 殺す!」


 クリスは服の内に隠していた、ナイフを男に投げ放った。をして男がナイフを避け、体勢を崩した所を切るつもりだったが、しかし男はナイフを避けなかった。


 放たれたナイフは、男に当たる前に溶けて無くなってしまったのだ。それを見たクリスは、体中から体温がなくなったかの様に寒気を感じた。


「いやいや、まぁ話を聞きなさいよ。」

「……なんだよ。」


 クリスは少しでも隙が出来れば、逃げ出せる様に、注意を払いながら答える。


「先ほど街で、君たちを見かけたね、そうしたら、僕が欲しい物を君が持ってるじゃないか!

 そうしたら、君を殺して奪い取るのは当然だろう?」

「当然じゃねぇよ、常識わきまえろよ……、先ずは挨拶から、その次に交渉だろうが、クソ野郎……」

「交渉、交渉ねぇ……、譲ってくれる気がしないんだけどねぇ」

「言ってみなけりゃ、わかんねぇだろうが」

「そうかい、では聞こうかな?」

「そちらの彼女、魔導書だろう? おくれよ。」

「……何言ってんだ、どう見たって人だろう」

「いやいや、そんな嘘をついても僕ぐらいの、コレクターになると解るんだよ。彼女は格の高い魔導書だとね。それもだ! そこいらじゃ手に入らない最高級の物だとね。コーリントスに保管されている禁書を目当てにこの街へ来たんだが、まさか道を歩いていて、こんな魔導書に出会えるとは思ってなかったよ。」


 セファが小声で話しかけてくる。


「クリス、あの男を調べます……、魔力を頂きます、良いですか?」

「調べる? 出来るのかならやってくれ。つーかこの非常事態だ、いちいち聞かなくても良い、必要ならいつでも使え」


 どうせ俺にはあんまり使い道無いしな、とすこし自嘲気味に言う。セファはその言葉を聞くと、目の前にいる男の情報を読み取る。


「なるほど……」


 数秒すると、セファは感心した様な声を出した。


「なんか解ったのか?」

「はい、彼は神様になった人間です。」

「ハッ? おい、ちょっと待て、……アレが神様っていうのかよ?」

「正確に言うと、火神について記載された魔導書をその身に取り込み、擬似的に火神の神格を得た人間です。」


 あと、とセファは一呼吸おいて呟く。


「私たちを、ちょっとびっくりするぐらい馬鹿にしています。」

「そりゃあ、見れば解るよ……」


 クリスは男を見る。こちらが相談している事が解っているのに、ニヤニヤした顔でこちらを眺めているだけだ。おそらく、こちらが何をしようと無駄だと思っているのだろう。実際、先ほどのやりとりで己では足下にも及ばない事がクリスには理解できていた。


 クリスは軽く舌打ちすると、セファに駄目もとで問いかける。


「何か、野郎をどうにかする方法あるか?」

「……余裕です。あんな神様の出来損ない位、軽くとっちめてやりますよ。」


 セファはフフンと得意げな顔をして答える。

 予想していた返答と真逆の答えが返ってきて、クリスは軽く唖然とする。


「えっ……、出来るの?」

「はい。ですがその為にはクリスに無理をしてもらわなければなりませんが……」

「それこそ、問題ねえよ」


 クリスはそう言うと剣を抜き、男に向き合う。


「おや、話は終わったのかな?」

「ああ、お前をぶちのめして帰るって結論がでたよ」

「なんて……、なんて愚かな選択だろう。」


 男は腕は広げ大げさに反応を取る。


「切り札があるんだろう……、しかしそれは無駄になる。今までも抵抗してきた者はいたがどれもが無駄! 無駄な行いをしただけだったんだよ! だから君たちの行いも無駄なのに! それでも抵抗するのか!」


 男は声を荒げたかと思うと、優しげな声を掛けてくる。


「今なら、その魔導書を渡せば、君を生かしてあげるが、どうだろうか?」

「お断りだよ……」

「ふむ、やはり駄目か……。よろしい、なら君の切り札を見せるが良い、受けて立とうじゃないか、私を倒せる可能性があると思っているのなら、先ずそこを潰そう、そこから交渉だ。私は常識人だからね」


 男は先ほどのクリスの言葉を受けてか、得意げにそう言い放つ。


 クリスは馬鹿にされているのが解って小さく舌打ちをし、セファに声を掛ける。


「どうやら、待っててくれるみたいだから、遠慮無くやってやれ」

「了解、我が主(マイマスター)


 瞬間、クリスの身体からごっそりと魔力が抜かれる。


「なっ!」


 両足で立つことも出来なくなり、崩れ落ちるように地面へ倒れる。そのクリスの耳に天上の調べの様に美しい、セファの声が聞こえてくる。


「その神避れる伊耶那美神は」


「ぐぁ!」


 激痛がクリスを襲う。


「出雲国と伯伎国との堺の比婆の山に葬りき。」



「うぐぁ! ぐっぎゃ! がっ……」


 セファの言葉が紡がれる度に、身体の内から削られるような激痛が襲いクリスは藻掻き苦しむが、しかし何故か意識を失う事が出来ない。


「ここに伊耶那岐命」


 セファは右手を空に掲げ、最後の言葉を紡ぐ。


「身佩かしせる十拳の剣を抜きて、その子迦具土神の頸を斬りき。」


 掲げた手を振り下ろす。


「召喚……、十拳の剣」


 その言葉の後、それまでクリスを襲っていた激痛が嘘の様に無くなる。

 クリスは消耗した意識を振り絞り、男がどうなったか確認しようした、瞬間、閃光がクリスの視界を覆った。


「くっそ……、な、にが、どう、なって……」


 息も絶え絶えの中で、ようやく視界が戻ってくると、先ほど迄、男が立っていた場所には、柄の長い長剣が刺さっているだけだった。そして数秒後その剣も光になって消えていった。


「大丈夫ですか? クリス」


 動かない身体のまま呆然としているクリスに、声が掛けられる。


「セ、ファ、どう、なった?……」

「問題ありません、彼は消し飛びましたから」

「消しっ!」


 それはやり過ぎじゃないかと思ったが。その心を読んだ様に声が掛けられる。


「彼は五千人以上の殺人を犯してますので、気にしてはいけません。むしろここで見逃す方が問題です。」

「五千……」

「はい、先ほど調べたときに判明しました。」

「そうか、じゃあいいや、もう……」


 クリスの息が整ってきた様子を見てセファが、帰りましょうか優しく声をかける。


「身体が動かないんだが……」

「大丈夫です、引きずっていきますから」

「いや、引きずんなよ! もっと丁重に扱えよ!」


 しょうがないですね、とセファがクリスを背負い歩き出す。


 そのセファの背中からクリスが声を掛ける。


「今日は助かった……、これからも宜しく頼む。」

「了解、我が主(マイマスター)




主人公は魔力タンク……

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