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「お名前、何て言うんですか?」
卵焼きをつついていると横から三条さんに話しかけられた。
「うん、安西凪です。貴女は確か三条さんだよねっ?」
「あ、はい……三条小百合です。知ってたんですか?」
「まあ三条さん有名だから~。あ、敬語じゃなくていいよ。同級でしょ?」
「あ、ありがとう……」
三条さんは少し嬉しそうな顔でどんぶりの上に乗っている豚カツを頬張った。
豚カツ頬張って尚可愛いって、逆に凄い。美少女って凄い。
「安西さんって、瀬戸の彼女?」
生徒会長がその会話に話題をぶっ混んできた。ちょっと待って生徒会長……。
「えっ、瀬戸先輩の彼女サン!?わー、えっほんとにですか?ほんとに?それなら良かったぁ」
私が否定をする前に生徒会会計の真野千代彦が大きな声を上げた。
会計は生徒会で唯一の一年だ。年齢的には生徒会で一番低いが、こと数学に関しては天才と名高い。背が低く、男だが可愛らしい顔立ちをしているため主に年上の層からの人気が厚いらしい。どれも静江と菜々の話で知ったことだ。
「真野、公共の場では静かにと言っているでしょう」
生徒会副会長である仙波薫が会計をたしなめる。
どこか伶悧さを感じさせる整った顔立ちで、銀縁の眼鏡が彼自身のストイックさを醸し出している。
それにしても、男女が一緒にいると色恋を邪推されるのは何なのだろうか。どうにかならないの?
「違います、私と瀬戸くんはただの友達です!」
はっきりそう言っておく。
静江や菜々みたいに勘違いされては困る。
「そうなんだ、ふ~ん」
生徒会長はへらへら笑ってちらっと瀬戸くんを見た。これは勘違いしているな、と思うが変に言葉を重ねるのは止めた。親しい間柄でも無いし、それにちょっと気後れしてしまう。
三条さんを見ると困惑したような様子だ。
瀬戸くんは一応笑顔を浮かべているけれど、どう思ってるんだろう。
何というか、全体的に居心地が悪い。
お弁当を食べるのに集中する振りをして会話に消極的な態度を取った。
聞いていると生徒会長の空気の読める上手い話運びと会計の明るい性格で場の会話は持っていたが、三条さんはおどおどとしていてそんなに会話に入ろうとはしないし、瀬戸くんも適当に返事をいなしている。副会長は真面目一辺倒な返事ばかり返していたが、何だかずれていると言わざるを得なかった。少しそれが面白かったけど空気は読んで笑うのは堪えた。
私も何度か言葉は発した。多分、いつも通りに話せている筈。
これは確かに瀬戸くんも一緒にご飯を食べるのは嫌かもなぁ、と流石に思ってしまった。