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食堂は人でごった返していた。
三条さんに生徒会メンバーという豪華な面子なので食堂中の視線を浴びる。
これ絶対浮いてるよ、私。
普段慣れない視線に変な汗が出てくる。困った。
他は食堂を利用するのだろうけど私と瀬戸くんはお弁当を持参しているので、席取りをする事になった。周りを見渡すけれど相当混んでいるからまとまって空いた席が見つからない。
どうしようかと思案していると近くの席から何人かの女子が立った。
「せ、瀬戸くんっ!私達もう退くから、よ、良かったらここの席三条さんや生徒会の方々と使って!」
一人の女子のその物言いに周りの女子が何度も首肯している。
瀬戸くんは爽やかな王子様スマイルで
「ありがとう。わざわざ手間かけさせてごめんね」
と言っていた。
どう考えても瀬戸くんのイケメンパワーのお蔭だった。イケメンってこういう時得なんだね。
八席程空いたので全員座れそうだ。
そのことに安堵して、瀬戸くんと一緒に端の席に向かい合って座った。
「ごめんね、こんなことになって」
席について直ぐに、瀬戸くんは申し訳なさそうに私に謝罪した。眉が下がって、困ったような顔をしている。
謝罪の理由は三条さんや生徒会メンバーと食堂に行くようになったことだろうと推測した。
「いやいや、気にしないで。それにしても食堂凄いね~ほんと混んでる」
「いつもこんな感じだよ。安西さんはいつも食堂使わないの?」
「うん。毎日お弁当」
「そっか、でも二日見てて思ったけど美味しそうだよね、安西さんのお弁当」
そう言われるとちょっと嬉しい。大部分は恥ずかしい、だけど。
両親は共働きで忙しいため、お弁当は自分で作っているからだ。
「えっ、ほんと?ありがとう」
多分だけど、照れて変な笑い方、してるかも。
瀬戸くんは綺麗な顔をしているから余計に恥ずかしくなる。
瀬戸くんは私を見て、少し視線をずらした。
え、ちょっとその反応は流石に傷付くんですけど……。
「……もしかしてお母さんの手作りじゃないの?」
少し早口気味に瀬戸くんがそう言った。
「うん、実は作ってるの私です」
肯定すると、
「そっ、そうなんだ………………」
と言われてその後変な沈黙が落ちる。何だこれ、気まずい。
こういう時に限って大した話題しか思い付かなくて困る。内心ひやひやしてしまう。
「あ、あのさ……」
急に沈黙を破って少し躊躇いがちに瀬戸くんが何事かを言いかけた。
沈黙の時間は二三分だったけれど、相当気まずかったので会話を振ってくれるのは有り難い。どんな話題でもどんとこい!と思っていると瀬戸くんが言葉を続ける前に、
「お待たせしてすみません」
と言う三条さんの声が聞こえた。思わず三条さんの方を見ると、日替わりの丼ものを手にした三条さんがいた。
美少女とどんぶり……ミスマッチ…………。
その似合わなさもだが、食べる量にも驚いた。
丼ものは元々食べ盛りの男子生徒を狙いとして、低コストで多くの量を食べられるようになっている。
こんなに食べてこの細さとは羨ましい。それとも他でセーブしてるのかな?夜は食べない、とか。
瀬戸くんはと言うと三条さんを見た瞬間、一瞬だけ冷えた目付きをした。がその後一応取り繕うように笑みを浮かべた。
三条さんは少し控え目に私に向かって
「隣、いいですか…?」
と言った。
「うん、勿論。どうぞどうぞ~」
笑顔で応対すると、少しホッとした顔付きでどんぶりを私のお弁当の隣に置いた。
それから程なくして他の三人も揃い、漸くお昼が食べられるようになった。