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結局、二人で食べることになってしまった。
この日の四限目は古典で、今日に限って授業が少し長引いてしまった。
今日も晴れていたから屋上で食べることになっていて、授業が終わるなり瀬戸くんはわたしを屋上へと急かした。何故。そんなにお腹が空いてるの?
「瀬戸くんっ」
筆箱と古典のノートを鞄の中に仕舞っていると、瀬戸くんを呼ぶ声がドアの方からした。あの可愛らしい声。三条さんだ。
振り向くと予想通り、三条さんが立っている。後ろには生徒会メンバーが三人お揃いでいらっしゃる。迫力あるな~。
隣にいる瀬戸くんを見ると、凄く不機嫌そうな顔だった。そんな……。
三条さんは瀬戸くんの方に小走りで駆け寄ってくる。か弱い小動物を連想させるそれに、歩き方も可愛いってどんだけ、と思ってしまった。
「何か用かな?」
「ごめん、もしかして今来たら迷惑だった…?お昼、誘いに来たんだけど……」
と少し困った顔でモジモジとそう言う三条さん。ほんとに可愛い。私が男だったら速攻で告白してる。
だが瀬戸くんはそれに大した反応もせず、
「悪いけど、先約があるから」
とだけ言った。
「えっ……あっ、そうだったんだ。ごめんなさい……」
隣にいた私を見て三条さんは小さな声で謝った。頭もペコペコと下げている。そんなうるうるした目を向けられて断るなんて、出来ない!
「あっ、私は全然構わないよ~」
慌ててそう言うと瀬戸くんが
「約束、したよね?」
と一言。笑顔だけど、怖い。
三条さんが泣きそうな顔で
「ごめんなさい……。瀬戸くんいつも生徒会の人達と食べてるって聞いてたから、一人なのかなって思ってたの……」
と言った。
それで三日連続教室に来てたのか~、成る程。
その三条さんの様子に堪り兼ねたのか、それまで沈黙を保っていた生徒会長の麻生真澄がへらへらとした人の良い笑みを浮かべて口を開いた。
生徒会長は真面目な顔をしていれば優しそうな顔付きのイケメンなのだが、いつもどこか掴み所の無い笑みを浮かべている人で、噂では何人もの女性と関係を持っているらしい。
「じゃあ皆で食べようよ。どうかな?」
そう言ってチラッと私の方を向いたので、私は即座にこくこく頷いた。この状況、流石に空気は読める。
さっきから教室中の視線が痛い。注目の的になっている。
「私は構わないです」
瀬戸くんは少し私を見て、困ったような顔をしてゆっくり頷いた。
三条さんはまた瀬戸くんに謝っていた。
何だか三条さんはもっと余裕のある人だと思っていたから驚いた。瀬戸くんが一昨日言っていたおどおどしてるっていうのは本当だったんだな、と思ってしまった。
けれどそれでも三条さんは可愛かった。ちょっと、クラクラきちゃいそう。
そう思って見ていると、瀬戸くんが私の手をパッと掴んだ。
「食堂でいい?」
三条さんの手を取って歩き出していた生徒会長が後ろを振り返って聞いてきた。
「あっ、いいですいいです」
そう早口で言って、瀬戸くんの方を向くとバツが悪そうな顔をして直ぐに私の手を離した。
「ごめん、つい」
「もう、急に掴まれたからビックリしたじゃん」
非難するように言った筈なのに、瀬戸くんはそれに少し笑っていた。