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帰りはいつも駅まで静江と菜々と一緒に帰るのが日課になっている。
私は昼からずっと気になっていたことを二人に聞いてみた。
「二人とも、三条さんとお昼一緒に食べたの?」
二人は目に見えて困ったような顔をした。
聞いてはいけないことだっただろうか。
「それがさぁ、断られちゃったんだよね~」
「約束してなかったの?」
「いや、休み時間に誘いに行ったんだけど、他と食べるからって言われちゃった」
別に会話は何らおかしいところも無いのだが、どうしてだか不思議に感じた。
今日がいつもと違ったからそう感じてしまったのだろうか。
「断る時も可愛くてさぁ~」
「あっ、それねー、分かる分かる」
私のそんな思案を他所に二人は直ぐに三条さん可愛い話に突入しようとした。この話になると長いので慌てて会話の軌道修正を図る。
「じゃあこっち来れば良かったのに」
そうしたら四人で結構楽しいお昼になったと思う。いや、別に瀬戸くんと二人きりでは楽しくないとかそういうことではないけれど、二人が入ると賑やかになるだろうから。
「いやぁ、それはねぇ」
「無理ってモンでしょー」
途端に二人はニヤニヤと意味ありげに笑う。
いや、言いたいことは分かるけど想像してるようなことは無いから。
言葉を交わしたことが全く無い訳では無かったけれど、あれだけ話したのは今日が初めてのことで今までこれといった関わりは無かった。そもそも瀬戸くんは周りには無関心なタイプだと思っていたから数学の授業の話なんかは驚いてしまったくらいだ。
そんな仲だから恋愛に発展する、なんてことはまず無いのに。
「だから違うってば」
「ハイハイ、そういうことにしとくから!」
「あの凪に春が来るなんてねぇ」
「想像つかなかったよね~」
「だから、もう!ほんとに違うから。今日はたまたまだって」
それなのに二人共勘違いしたままだ。
私の言い分は全く信じて貰えていないようだ。
困ったし、何だか恥ずかしい。今まで恋愛には縁遠かったからこういう冷やかしには慣れない。
明日、瀬戸くんからもこの二人に違うってことを説明してもらおう。瀬戸くんだって、これを聞いたら困るって思うだろうし。
「凪は奥手だから。まあ、よろしくねっ!」
「ああ、分かったよ」
「だってさ、良かったね凪」
そう思っていたが翌日、碌に誤解も解けないまま気が付いたらまたお昼を一緒に食べる話になっていた。
何故。というかこの会話、本人蚊帳の外ってどういうことなの?
静江は私の背中をバシンと軽く叩く。
「頑張れっ」
菜々はその横で笑いながら手を振っていた。酷い。
瀬戸くんは相変わらずの王子様スマイルでニコニコと笑っている。貴方はそれでいいんですか?
瀬戸くんがよく分からないよ。
「今日も、よろしく。実は俺、今日も誘うつもりだったんだ。ほら」
瀬戸くんは鞄の中からお弁当を持ち上げて見せた。紺色の四角い布でお弁当が包んである。結構大きい。男子だし、食べ盛りなんだろう。
昨日もそういえばパンを三つも食べていた。
「ちょっと、否定してよ~」
「ごめん、でも都合良かったから」
お昼を誘う手間が省けたって訳ですか、そうですか。
成る程、と少し脱力してしまう。元々校内では有名人で噂には事欠かない人なのだ、今更噂の一つや二つ増えそうでも気にならないのかもしれない。
「はぁ、今度はちゃんと言ってよね」
とはいえ私としては不本意なことなので釘を刺しておく。
「どうかな……うん。分かった、今度はちゃんと言うよ」
瀬戸くんはにこやかな笑みを向けてきたけど、あんまり信用出来そうに無かった。