私の勇者
今回は初のミィリィア目線です
時間は午後5時。約束の時間は午後3時。もう2時間も過ぎている。
「全く、自分の決めた時間に来なさいよね」
私は村中を駆け巡ってローレンを探した。あいつといる時はあまり気にならなかったけど、周りの視線が結構キツい。ローレンが目をつけられていた可能性もある。
「もしかして…」
最悪の事態を想定する。そんなこと考えていたって何も意味がないのに。私はただあいつの無事を祈って走った。
その内、細い路地裏に入る。正直、路地裏にはあまり入りたくない。と言うのも、さっき入った時に大量の死体を見た。ローレンがその中に入ってたら、そんなことを想像するだけで背筋が凍りつく。だけれども、もしかしたらいるかも知れないのだ。路地裏に入るしかなかった。
「ローレン、いたら返事しなさいよね」
路地裏に充満した腐った血の臭いと、大量の死体を意識しないように何度もローレンの名前を呼ぶ。昔から不思議とローレンの名前を呼ぶと、落ち着くのだ。
私は屍を越え、屍に阻まれた道を進む。少しでも可能性があるなら、進むしかない。だって、あいつがいなかったら私、弱いままだもん。
進んだ先には大きな赤い水溜まりがあった。その真ん中には、見覚えのある幼馴染みと兵士が3人倒れていた。
「ローレン!!」
私はすぐに彼に駆け寄ると、体を揺さぶった。脈を図ってみると、意識を失ってるだけで生きているようだ。
「勝手にいなくならないでよ、馬鹿。あんたがいなくなったら私…どうやって生きていけばいいのよ」
ビクともしない彼を、私は抱き締めながら文句を言った。意識を失ってる時ぐらい素直な言葉をかければいいものを、それすらもできないのが私の悪い癖だ。
私には死んだ兵士がどれだけ無惨な死に方をしたかなんてどうでもよかった。私には倒れた大切な幼馴染みしか目に入ってなかった。
「仕方ないわね、今回だけ私がガーネットのところまで運んであげる。感謝しなさいよね」
私は彼を背中にのせ、歩き出した。強がりな言葉とは裏腹に、涙が流れ、弱虫な顔をしていた。もしも、今少しだけ意識があって、この姿を見られていたらどうしようかと考えてしまう。この状態で意識が戻らないなんてことは想像しない。気合いだけはあるやつだ。生きてるんなら、気合いだけで意識を取り戻す、そういうやつだと私は思う。
「出血もないみたいだしよかった」
ローレンが人を殺したって怖くない。怖いのは、それでローレンが傷を負うこと。意識を失ってるだけで生きている。それだけで私は安心できる。
だけれどももう一つ、彼が目を覚ました後に怖いことがある。それは、人を殺した自分を責めないかと言うこと。あの時みたいに病んでしまわないかと言うこと。
「私はね、ローレン。あんたが殺人鬼でも大丈夫なの。あんたが人を殺しても正義のためだってわかってる。いつだってあんたは正義のために自分を犠牲にする。自分の立場まで危うくして、私を守ってくれた。こんな旅なんか出なくても、あんたは優秀な私の勇者なんだから」
自分で言った癖に、頬を赤らめ恥ずかしくなる。今の言葉をローレンが聞いてないことをただただ祈るばかりだった。