忘却の少年
むせかえるような鉄の臭いが込み上げる裏路地。震えた少女は俺から逃げるようにして去っていった。俺も動かなければならないと思うも、体に力が入らない。俺はただ、死んだような目で死体を見つめていた。
「俺が…俺のせいだ」
思い出せば昔も似たようなことがあった気がする。ただ、その時のことを全然覚えていないんだ。
「違う、俺のせいじゃない。俺がやったんじゃない」
その言葉は現実逃避にしか過ぎなかった。赤く染め上げられた俺を見て、誰もが俺がやったと思う。そうなんだ、俺がやったんだ。兵士達を突き刺した、握っていた血まみれのナイフがそれを物語っている。
死体を見れば見るほど、後悔が押し寄せてくる。何も殺すまでしなくてもよかったんじゃないかって。ただ、誰かが俺に殺せと命令したんだ。そして、俺の体を乗っ取って、兵士達を殺したんだ。
「誰だよ…誰がこんなこと…」
こんがらがった頭を整理すればするほど、あれは俺じゃないって思ってくる。俺はあんな簡単に人を殺せるようなやつじゃない。ただの村人で、人を殺したことなんて一度もない。さっきだって、大量の死体に気分を悪くしたのに…。
《本当に自分じゃないと思うのか?》
「誰だよ!?」
聞き覚えのある声が頭の中をこだまする。
《お前がやったんだよ。お前がその手でこいつらを殺した。よかったじゃないか、お前は悪を退治することを望んでいた。なら、この結果は最高じゃないか》
悪を退治したい、それはわかる。でも、殺すまでする必要はない。懲らしめて、もうこんなことさせないように心を改めさせればいいだけなんだ。
《そんな甘ったるいこと言ってるからお前はいつまで経っても子供のままなんだよ。全ての悪を狩れ。そうしなければこの世界はいつまで経ってもクズなままだ》
誰だ、この声は?俺は知っている、この声の主を。だけれども、どうして思い出せないんだ!?
《今更思い出したいなんて都合のいいやつだ。お前はお前から俺を忘れたいってそう願ったんだろ?》
「俺が、忘れたいって?」
その瞬間、頭に今と似たような光景がフラッシュバックする。血まみれの中、ナイフを持って立っているのは誰?
「うっ…うわっ…あぁ…」
思いだそうとすると激しい頭痛が俺を襲った。
《なぁ、ローレン。その体、俺にくれよ。お前のもの、何もかも全部俺のものにしてやる》
頭痛が増し、俺の意識を奪った。
お前は一体、誰なんだ?