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村人ABCが世界を救う!?  作者: 春夏秋冬月歌
モブキャラ達の物語の始まり《プロローグ》
7/13

俺の中にもう一人誰かいる

走った先には随分と重そうな鎧を被った柄の悪い兵士達が三人いた。その隙間から、密編みの幼い少女が、泣きじゃくっている姿が見えた。どうやら、兵士の一人は少女の密編みを一本掴んでいるらしい。それはどこかミィリィアの苛められていた姿にも似ているように思えた。

「何してんだよ、てめぇら」

ミィリィアと姿が重なると、たちまち怒りがこみ上げてきた。元々怒りはあったが、理性が飛ぶほどの怒りまで達していた。

「何だ、お前?」

「鍋にナイフにまな板。何それ笑える」

「もしかして、それで俺らに対抗しようってか?」

ゲスの効いた笑いで俺を蔑んでく兵士達。女の子は密編みを掴まれたまま、か細い声で痛いとずっと嘆いていた。これが国家から魔王により派遣された兵士。あの魔王の指命した人間とあって、クソみたいな人材が揃っていやがる。

「対抗なんてしなくていい。ただし、その子を離したらな」

「ははっ、笑わせるなよ。お前にそんなこと言う権利があると思ってるの?お前らはただの村人。兵士の言うことを全部聞いてればいいんだよ」

そうだ。こんなに村人が死んで、クソみたいな世界になってしまったのは、こんなクソみたいな連中が辺りをうろついてるからだ。なら、この世界を変えるにはどうすればいい?クソみたいな連中を片っ端から消去していけばいい。

俺の腕は知らない間にナイフを振り落としていた。

「ばーか、そんなただのナイフでこの鎧に傷が付く訳ねぇだろ?それどころか、ナイフが折れちまう」

そんなことわかりきったことだ。だから俺が狙うのは鎧じゃない。無駄な殻に閉じ籠って、自分だけ守られていいように生きている人間の本心を貫く。

「防備の何もない顔だったら、ナイフ壊れねぇだろ?」

「ぐわぁっ!?」

一瞬にして、俺は刺した兵士の血で染まった。刺した時の俺の目は、きっと端から見たら光などまるでなかっただろう。その時は、何故か自分の知らない誰かに自分が操られてるようだったから。俺はただ、淡々と兵士を突き刺した。

「大丈夫か?」

「お前…」

仲間の兵士が睨んでくるが、何も怖くない。思ったよりも手応えなかったし、やっぱ権力を振り回してるだけのクズだなって改めて感じた。

「ふざけるな!!」

二人が一気に俺に襲い掛かってきた。そのお陰で女の子は兵士の手から解放された。

「ふざけてるのはどっちだよ」

俺はただの村人のはずなのに、兵士二人の攻撃を軽々と交わした。運動神経がいいのは昔からだったが、ここまでできるなんて思ってもみなかった。でも、何故か俺が動いてるのとはまた違う風に感じる。

「ゴミはゴミ箱の中で捨てられてろ」

俺はナイフをもう一振りもう一振りと嵐のようにナイフを振り落とした。勿論、全て当たった訳ではないが、相手にはそれなりの効果があった。そう、死ぬ程に。もしかしたら、この残虐さは魔王とそこまで変わらないかも知れない。

俺は倒れた兵士達を見下ろす。

「罪人にはそれ相応の罰を…」

俺は密編みの女の子のほうを見る。しかし、彼女は俺と目を合わせようとしない。ただ、死体を見つめて、ガタガタと震えるのだった。その時、俺は一気に現実に戻された。と言うよりは、今までの自分がやっと自分の体に戻ってきたと言った感じだ。

「何してんだよ、俺…」

人を殺すつもりなんてなかったし、人を殺せるとも思わなかった。人の命とは儚いものだ、こんなにもすぐに死んでしまう。自分が人を殺すなんて思っていなかった。確かに、魔王と対決するのに、人を殺すことはあるとは思っていた。だけど、こんなに早くに人を殺してしまうなんて…。

女の子が怯えるのも当然だ。俺のギャルソンは、狂おしい程綺麗な紅に染められていた。顔にも生ぬるい感じがするので、きっと顔も血でベタベタだろう。

あの時俺は、こいつらを排除するのは正義だと考えた。でも、後から考えたらものすごい残酷なことだ。魔王を殺すことだってそうだ…。この人達には家族が友人が恋人がいたのかも知れない。その人達から彼らを奪った。何より、彼ら自身から彼らの全てを奪ってしまった。最愛のものに別れを告げることなく、その全てを奪ってしまった。

俺の体は震えが止まらなかった。死体が怖い訳じゃない。敵が怖かった訳じゃない。自分が人を殺したと言う事実が何よりも怖かった。

全てを理解すると、俺の体からは力が抜け、膝から崩れ落ちた。

「何でこんなこと…」

俺の両目からの涙は、兵士達の流した血と混ざりあっていた。

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