村人Aの戦略1
俺達が小さな箱庭から一歩を踏み出して、一時間ぐらいしただろうか。空は俺を拒むように灰色でお出迎えだ。
「疲れた…もう歩けない」
この村の道のりは厳しい訳ではないが、普通の女の子のガーネットには一時間ぶっ続けで歩くと言うのは、なかなか苦しいことなのだろう。普通の女の子じゃないミィリィアは、普通に歩いているが。いや、みんなで鍋を被ってる時点で、俺達は怪しい団体なのだろう。俺の手には、ナイフとまな板も握られていた。
勿論、この格好は好き好んでした訳でもないし、ミィリィアはそれ以上に反対だった。パッションピンクのツインテールを揺らしながら怒る姿は、ライオンが鬣を揺らして吠えている姿とよく似ていた。しかし俺達は案の定、ガーネットに丸め込まれた。ライオンのようなミィリィアも、最終的には猫のように可愛くなっていた。なんだかんだ言って、ある意味ガーネットがこの中で一番強いんじゃないかって思う。
「仕方ない、休憩にするか」
「全く、あんたは妹に弱いのね」
そんなことを言いながらも休憩に良さそうな場所を探してるミィリィア。ミィリィアは体力のある暴力女だと思ったが、実は見栄張ってるだけで、本当はそうでもないのかも知れない。
「あった」
ガーネットが指差すほうには、少し盛り上がった場所に枯れた木が一本立っていた。
俺はそこに行くと、店で使っていたテーブルクロスを物が多く詰まったリュックから取りだし、その場に引いた。ガーネットはよほど疲れたのか、引いた瞬間にそこに横になった。俺とミィリィアもそれに続いて横になった。見上げた空は、まだ曇っている。まるで俺達の未来を暗示しているかのようだ。
「ねぇ、これからどうすんのよ」
「とりあえず、地図通りこの村の出口を目指す。とりあえずこのまま北に歩いて行けば着くはずだから」
俺は手探りで地図を取り出すと、目と空の間で開いた。
「でも、このままじゃ殺られるだけよ。どうすんの?」
ミィリィアは真剣そうな顔つきだ。この旅に一番不安を抱えてるのはミィリィアだ。だからこそ、この旅に最初は反対だった。その不安を少しでも和らげたい。
「これから考えっててて!!いてぇよ馬鹿」
俺の顔面にミィリィアの拳がのめり込む。不安を和らげたいと思ったし、これを言ったら殴られるとも思った。しかし、素直なのが取り柄な俺には嘘をつくことができなかった。
「あんたって本当に無計画ね。呆れるわ」
「でも、その無計画なやつを引っ張って、計画立ててくれるのは誰だっけ?」
俺がニヤケると、ミィリィアの拳がまた、顔面にのめり込んだ。俺の顔面潰さないで。イケメン(笑)な顔が潰れる。
「何のこと?」
何も知らないガーネットが首をかしげる。
「ガーネットは知らなくていい」
ミィリィアはそっぽを向いてしまった。その顔はきっと、いつも通り赤いのだろう。
「お兄ちゃんが無計画なのはいつも。お兄ちゃんもちゃんと計画立てたほうがいい」
妹に正論を言われ何も言い返せない兄ローレン。わかってはいるけど、計画する前に体が動いている。それが俺、ローレンなのだ。
「いいわよ、ガーネット。こいつには1㎜足りとも期待していないから」
ミィリィアが挑発的な発言をしたので、俺は引き下がれなかった。
「俺だって出来るし」
「じゃぁ、やってみなさいよ」
俺は脳内のシナプスを繋ぎまくった。しかし、馬鹿の脳内にまともな知識がある訳もなく、魔王と対戦出来そうな力を手に入れるのに必要なまともなアイデアは思い付かなかった。
いや、待てよ。村人出身の俺達だ。まともな考えで魔王が倒せるのか?そもそも、鍋被ってる時点でまともではない。なら、突飛なアイデアを出してやろう。
「物々交換ってのはどう?幸い、飲み屋やってたから酒や飲み物いっぱいあるし。それでさ、どんどんやっていずれは武器にたどり着く的な」
「そんなの無理よ。第一、武器を持っていた人間に接触するの自体難しいし、それだけのものを物々交換で手に入るとは思わない」
物々交換とはお金の価値が紙になりつつある今、庶民の間では日課のようなものになっている。だからきっと、物々交換してくれるのは俺達みたいな村人が多いんだ。けど、すごいものを持っていたら、強い武器を持った勇者様だって、交換したくなるだろ?
「なら、今から物々交換競争な」
「はぁ!?あんた今、人の話聞いてた?」
ごちゃごちゃ言うミィリィアを横目に俺は飛び起きた。
「時間は3時にここ集合。一番立派なもの持ってきたものが勝ち。今から開始、と言うわけで、俺一番乗り」
「ミィリィア、こうなるとお兄ちゃんは止められない」
「もう…」
俺は呆れてる女子二人をよそに、リュックを背負いながら走り出した