モブキャラ、旅に出る
一人の少女は激怒していた。例えるならば百獣の王ライオンが怒り狂って獲物を食い散らかす感じ。そして、その獲物となっていたのが、俺ローレンだった。
「本当に何なのよ」
「だから言い出したのは、ガーネットだって」
ライオンの鬣のようにショッキングピンクのツインテールを揺らす彼女は俺の幼馴染みにして、旅の仲間となったミィリィア。見た目の可愛さに寄らず、こいつのパンチはくそ痛い。
何故彼女が怒ってるかと言うと、俺達の格好だ。ミィリィアはいつものメイドの格好に、鍋を被り、鋏とまな板を持っていた。基本的にふざけないミィリィアの格好にしては実にシュールだった。発端は俺の妹ガーネットの戦略だった。しかし、何故か俺が今、ミィリィアに暴力を振られている。そして、発端であるミィリィアは、その光景を無表情で眺めていた。俺、超絶理不尽!!
「避けるな、馬鹿」
「避けないと痛いだろ?」
避けるななんて無茶な要求だ。幸い、俺は運動神経だけはいいので、何とかミィリィアの暴力を受けずに済んでいた。しかし、ミィリィアのパンチは雨のように降り注ぐ。避けるのもなかなか苦しい。マシンガン撃たれてるのと同じ感覚だ。
「げふっ」
そして最後に、気にしていなかった足元にキックが入ったことで、俺は地面に這いつくばるしかなくなった。
「お兄ちゃん、ドンマイ」
「いや、お前のせいだからな」
俺は我慢強いので、立ち上がると、ガーネットに半笑いされた。くそっ、小悪魔め。
「で、本題に入るぞ」
俺は手元から地図を取り出した。古い地図で正しいものかはよくわからないけど、これしかないので今は仕方ない。
「こう行ってこう行ってずどーんってして、ドッカーンって終わり」
「わかる訳ないじゃん」
折角場所に指差してやったのに、わからないなんて、ミィリィアは俺と知能数同じなんじゃないか?
「流れに任せて気まま旅」
「そんなんじゃ全然ダメじゃない」
反論するものの、ガーネットと俺とでは厳しさが違う。完全にミィリィアの中で格付けされてるわ。
「ようは一番近道で魔王のところ行けばいいんだろ?」
「でも、行き止まりとかあるかも知れないじゃん」
「そんなの知らね」
正直、無計画な旅だ。ミィリィアが前に言ったように、俺自身無計画な奴だ。
「無計画を支えてくれるのは誰だっけ?」
「っの…死ねぇ!!」
ビンタを正面から喰らいつつも、俺は不思議と満足感に包まれていた。ドMとかそういう問題じゃないからね?
「ミィリィア、否定はしてない」
「否定してもどうせ私の役割になるし」
ミィリィアは呆れ顔だったが、嫌と言う訳ではなさそうだ。
「ではでは、作戦は後回しとしてとりあえず荷物持って外出るぞ」
俺はでかでかとしたリュックのガーネットが俺がミィリィアを説得してた時に詰めてくれた荷物を持つ。
「ちょっ、これ持つの!?」
「ガーネット、これ何入ってるんだ?」
さっき後から食糧入れてたのは見たけど。
「全部」
その言葉の意味を理解するには、俺の頭にIQが足りなさ過ぎた。
「この場所のもの、全部入れた。食糧には困らないほうがいいし、武器もいっぱいのほうがいい。特殊魔法加工がされていないただの刃物は、一度血を浴びると使えなくなる。勇者に挫折してもまた新しくお店始められる」
堅実的と言うか何と言うか、何とも言えない。
「中身、選別しよう?」
ミィリィアはそういうが、俺は中身を抜く気が失せていた。だって、こんないっぱいのものを整理してたら、一日あっても足りなくない?と言うか、ガーネットはどうやってこの短時間にこんなに綺麗に全部のもの詰めたか疑問だった。
「戦う時邪魔じゃない?」
ミィリィアが戦うことにやる気を出してくれたのは嬉しいし、言ってることもよくわかる。でも俺は、早く冒険に出たいんだよ。
「もういいよ、行こう」
「ありがとうお兄ちゃん」
「ちょっと!?」
何だかんだで、俺は妹に弱いのかも知れない。そんなことを思いながら、俺はリュックを背負い、外の世界へと踏み出した。
きっと、これから色々な出会いがある。そんな勇者らしさもない好奇心も少しリュックに詰めて…。