モブキャラ、武器を揃える
ミィリィアがいなくなると、俺達は二人きりになった。そして、ガーネットは何を思ったのか、布巾を置いて、厨房へと向かった。
「旅の時の食糧?」
「いや、違う。武器の調達」
そういうと、店で使っていたナイフをカウンターに並べた。確かにナイフなら使えるかも知れない。
「私達、武器買うお金ないから」
「これだけですか?」
使えることには使えるが、これだけだと勇者としてのかっこよさも何もない。余り物で今日の料理作りましたみたいな感じだ。
「そんなわけない。これが一番それっぽいだけ」
ガーネットは厨房からありとあらゆるものを出してきた。しかし、どれも勇者が魔王と戦うアイテムには程遠かった。
「フライパン、最強の盾だよ」
ラプン〇ェルかよとツッコミたくなる気持ちを抑え、鍋とお玉を手に取った。いや、ちゃんと鉄だけどさ。
「こういうの、魔法とか超能力とか使えたらなかなか武器になるんだけどな」
試しにお玉を振り回してみるが、子供が遊んでいるようにしか見えなかった。こんなの、魔王の前ではこてんぱんだ。いや、そこらの雑魚キャラでもぶっ壊される。
「まな板とか盾になりそう。後、鋏なんてそれっぽい」
「お前、戦略ってまさかこれ?」
「そうだよ」
無垢な笑顔でガーネットは鋏を取り出した。幼稚な頭の妹を信じた俺が馬鹿だった。こいつは真面目だが、頭はあまり宜しくない。ただ、可愛い妹が俺に助け船を出そうとしてたのを、スルーする訳にはいかなかった。決して、シスコンではない。
「こんなもんかな」
結局、うちにあるありとあらゆるものが勢揃いした。しかし、さっきの感想と同じく全部勇者からかけ離れた雑魚さだった。誇らしげに威張る妹に、俺はため息しか出てこなかった。だがしかし、今はこれしか方法がないのも事実な訳で、仕方なく妹の案を受け入れるしかなかった。
「後は食糧だね。倉庫か、開いてると思う?」
俺は倉庫を少し見ると、首を横に振った。ミィリィアは意地っ張りだ。倉庫に鍵かけて閉じ籠って出てこないのがつものみミィリィアだ。
「どうする?」
「俺が説得してくる。勇者として、一緒に戦う説得をな」
「ちょっと待って!?食糧だけでいいよ。ミィリィアはいつだってお兄ちゃんの勇者になるって意見に反対してたし、頑固だから聞き入れてくれないと思う」
心配する妹に、大丈夫と微笑んだ。
「ミィリィアならわかってくれるさ。あいつだって魔王に両親を殺されたんだ。復讐したいって思ってるはず」
「でも…」
俺はミィリィアと長年の腐れ縁で、あいつのことは理解してるつもりだ。あいつが心配性なことも頑固なことも素直じゃないことも、本当はとてもいいやつだってことも。だからこそ、わかってくれると信じてるんだ。
「お兄ちゃんがそんなに頼りないか?」
「ううん」
首を振ったガーネットの頭を撫で、俺は倉庫の扉へと向かった。ミィリィア、ここで別れなんて俺は嫌だ。お前の力が必要なんだ。