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詰んでるヒロイン ‐water and oil‐

作者: 黒瓜

 俺は別にスピリチュアルな能力を持った人間では無いが、この瞬間確実に言えることが一つある。

 今俺の目の前にいる人物の全身から怒りのオーラが迸っている。

「そりゃアタシは日直だもの、当然ここに居るわよ。でもなんでアンタなんかがここにいるわけ?」

 まあオーラとか見えなくとも怒っているのは分かるんだが。

 そんな激おこぷんぷん丸こと犬飼水瀬 (いぬかいみなせ)に対し、俺こと猿田三由 (さるた・みつよし)は答える。

「なんでってそりゃ、桃田に頼まれたんだよ」

 桃田とはウチのクラスの、つまり俺と犬飼の担任である。

「はあ?なんでアンタが頼まれるのよ?」

「帰ろうとしたら呼び止められた。犬飼一人じゃ大変だから暇なら手伝えって」

「別にアンタに手伝ってもらいたく無いけど。プリント整理くらい一人で出来るし」

「そんなこと桃田に言えよ」

「はあ?アンタ他人のせいにするの?」

 いや今俺が悪い要素なかったよな?

 どうしてコイツはこうも俺のことを邪険にするんだろうな。さっぱり分からん。

 ……いや、そうでもないか。

 本当のところ、コイツの態度の理由は分かっているんだ。

「そうでなくても毎回気安く話し掛けてくるし、人のことジッと見てるし、帰りの時間はよく被るし。はっきり言ってウザい」

 そうなのだ。

 コイツには俺が付きまとってちょっかい掛けまくってるように見えているらしいのだ。それにしても本人目の前にしてウザいとかよく言えるな。尊敬するぜ。

「ていうか、アンタ帰っていいわよ。むしろ帰ってよ、邪魔だし」

「いや、最後まで手伝う」

「はあ?ふざけてんの?」

 犬飼の目つきがどんどんと剣呑になっていく。

「ふざけてねえよ。ウザかろうが何だろうが帰らん。絶対に最後まで手伝う」

「……意味分かんない。そんなにアタシの邪魔したいの?」

「別に邪魔するつもりなんかねえよ」

「じゃあなによ?」

「だって俺、お前のこと好きだし」

「はあ?」

 とそこで犬飼の動きがきっかり三秒止まりそして、

「……はぁ?」

「お前俺の言うことに反射で『はあ?』って返すの止めろよな」

 とにかく、と俺は咳払いを一つして、

「お前のことが好きだから、手伝う。気安く話し掛けんのも、ジッと見てるのも、帰りが被んのも全部そうだから。だから俺と付き合ってくれ」

 分かったか、と犬飼の顔を見る。

「………………」

 顔を真っ赤にした犬飼が頭から湯気を出していた。

「……犬飼?」

「……なっなっなっ」

「な?」

「なに言ってんのアンタ!?」

 ガタンと椅子を倒しそうな勢いで犬飼が立ち上がる。

「危ねえなおい。プリントブチ撒ける気かよ?」

 机から落ちそうになったプリントを押さえながら、

「意味分かんねえならもう一度言ってやろうか?」

「いやいい!!言わないでいいから!!」

「そうか。じゃ返事聞かせてくれよ」

 すると犬飼の肩がビクンと跳ねる。

「へ、返事?」

「そ、返事。イエスかノーか」

「……いやいやいやいや。返事とか無理だし。いきなりアンタにこ、告白とかされても返事とか出来るわけないし」

「ええー、じゃあいつ俺にチューしてくれんの?」

「ハ リ た お す ぞ オ マ エ」

 台詞とは裏腹に拳を握る犬飼を見て、俺は慌てて降参のポーズを取る。

「待て待て悪かった!!別にすぐ返事しなくていいから!!」

「………………」

 そこでようやく落ち着きを取り戻したのか、犬飼がゆっくりと着席する。

「……いつから?」

「ん?ああえーと、クラス一緒んなって割とすぐだから……半年ちょい?」

「最初からじゃない……」

 じゃあ、と犬飼が更に続ける。

「なんで今まで言わなかったの?」

「そりゃまあ、あんまり印象よく思われてないのは分かったからな。でも」

「な、なによ」

「いや、即答でノーって言われなかったって事は意外と嫌われて無かったのかと思って」

「前向きねアンタ……」

 よく言われる、と返して俺は立ち上がる。

「さて、帰るか」

「はあ?まだ仕事が」

「お前がアワアワしてる間に終わった」

「………」

 再び赤面して俯く犬飼。

「お前……かわいいなあ」

「はぁ!?」

「チューしていい?」

「だ、ダメ!!」

「じゃあチューして?」

「誰がするか!!」

「じゃ一緒に帰ろうぜ」

「ッ!!」

 犬飼が息を詰める。

 恐らく脊髄反射で出そうになった否定の言葉を強引に止めたのだろう、と都合よく解釈して、

「それくらいならいいだろ?」

「まあ……それくらいなら」

「いえーい。初デート」

「アンタねぇ……」

「冗談だよ。初デートならもっとバッチリ決めたいもんな?」

 笑顔で言うと、犬飼は毒気を抜かれたような溜め息を吐く。

「なんかドンドン既成事実を作られてる気がするんだけど……」

「このまま結婚まで行ったりしてな」

「どこまで本気で言ってんのよアンタ……」

「そりゃあ当然」

 俺は自分史上最も格好いい表情で言った。

「全部に決まってるだろ」




「……と言うのが俺とアイツの馴れ初めだ」

「父ちゃんスゲー!!」

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