プロローグ
久しぶりの投稿です。前の作品より書いてみたい物語ができたので投稿します。
プロローグ
桜が舞う並木道。
春の風が花びらを舞い散らせながら、頬をなでる。
甘い香りを胸いっぱいに吸い込み、吐き出す吐息が少しだけ熱を帯びる。
そんな中、周囲の女子生徒の視線を一身に受け、受け流す一人の男がいた。
入学式も三日が過ぎ、ようやっと高校生活にも慣れ始めてきたこの頃。
すでに、わが東都府立三条北高等学校の新入生も周りの顔ぶれを覚え、異性の値踏みを始めているこの頃。
新入生だけでなく上級生のお姉さま方からも色めいた視線を送られているその少年は、わたしの幼馴染だ。
佐倉詩織。
女性のような名前だが、これでも純粋な男性。女のような整った顔立ちをしているが、性別男。
小学生の頃はわたしよりも背が低く、顔も女顔だったため散々からかいまくったが、
今では身長も180cm近くあり、顔の方もかなりというかものすごい美形。
豆しばが大きくなったらライオンになったみたいな、恐ろしい変化を遂げていた。
そのうえ、この幼馴染は入試の成績がトップだったり、中学では剣道で全国一になっている。その他にも色々と有るのだが、今は伏せておこう。
そんな完璧超人な幼馴染だが、今みたいにかっこよくなったのは中3で一気に身長が伸びてからだ。
それまでも、今と変わらず完璧超人だった。けど、背は150cmを少し超えたくらいだったし、顔立ちも今よりもっと女の子ぽかった。 だから、一緒にいても出来すぎた妹みたいな感覚だった。
それなのに、中学の卒業式で久しぶりに会った幼馴染は、10年以上の付き合いのわたしですらそれと判らないほどの変貌を遂げていたのだ。
それだから、卒業式から一月近く経ったいまでも――
「英梨歌、ぼーっとしてると危ないよ?」
「ぅひゃぅっ!? し、詩織っ! 考え事してる時にいきなり顔近づけないでよ! 危ないじゃない!」
目の前に、詩織の綺麗な顔が現れるだけで心臓がかるく悲鳴をあげてしまう。
「いや、ぼーっとしている英梨歌の方が悪いと思うよ。注意一秒怪我一生、だよ」
詩織は真面目君なので、こういう場合は素直に謝っておけばその場は収まるのだが、
「ぅ、うっさい! ちょっと背が伸びたくらいで、年上面すんな! わたしのが誕生日早いんだかんな!」
そう捨てセリフを残し、校門にダッシュしてしまう。
「あっ、待ちなよ! そんなに急ぐと危ないって! ちょっ、待ちなって、こらー!」
走るわたしを追いかける詩織。
高校生になって、信じられないくらいカッコよくなった幼馴染にラブコメチックな登校風景。
まるで、少女漫画の様なワンシーンに少しだけ心が躍る。
しかし、わたし三浦英梨歌は知っている。
この物語の主人公はわたしじゃない。
これは、わたしの幼馴染の物語。
強くて優しくて、馬鹿みたいな真面目君。そして、人生は優しくないって、命は儚いって知っている。
そんな懸命な男の物語。
プロローグ 了
プロローグが幼馴染の視点というのは珍しいのではないでしょうか。
また、英梨歌が主人公だのと言っているのは単なるメタ発言ですので、彼女は転生者でもなんでもないです。
わざとらしく、少女漫画チックな文章にしてみましたが、筆者は男ですので次話以降は少年漫画の様なノリになるかもです。