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ビリーブエンジェル  作者: 桃井雪
10/12

悲劇。堕ちた天使の末をみよ

時が止まってしまったかのような錯覚に陥った。

そうた。このまま時が止まってくれればいいんだ。

あの頃に戻りたい。楽しかったあのころに。

何も知らなかったあのころにーーー

こんなことになるならいっそ!



偽りの中を生きているほうがましだった!!





目の前にある光景が信じられなかった。


「君もこりないね。そろそろ諦めたら?」


やめて、ミカエラ様。そんな怖い声をするのは。

だってあの子は---- 。


「諦める?バカなこと言わないで」


イアの頭に衝撃が走った。


「ほ、たる...ちゃん」


イアはやっとのことで声を絞り出した。

すると、ゆっくりと、ほたるの視線がこちらに向く。そこには、いつもの笑顔も、いつもの優しさもなかった。

イアの知っているほたるは、ここにはいなかった。


「聞いてよイアちゃん。ミカエラ様ったらあたしのこと、なかなか天使にしてくれないんだからー」


「え......?」


イアは眉を寄せた。


「天使に、なる...?」


「そー。ミカエラ様から力を分けてもらえれば、あたしは晴れて天使になれる。でもミカエラ様は、いくら待ってもあたしを天使にしてくれない...。ううん。ミカエラ様は----」


浮かべたほたるの笑顔が、怪しく光る。



「ミカエラ様は、あたしを天使に戻してくれないの」



「.........それって...っ!!」


はたから聞けば、あまり理解できない言葉かもしれない。でも、天使であるイアには、その意味がすぐのわかった。

イアは、目の前にだっているミカエラを、見つめた。


「ミカエラ様...っ!」


「......あんまり、言いたくはなかったんだけどね。俺たちの天空界に、『堕落』した天使がいるだなんてね」


ミカエラの言葉に、イアは強く唇を噛み締めた。

やっぱり、そうだったのか----。


天使とは、大天使に使える健全な魂の持ち主。

もしも人間界で天使が騒ぎや罪を犯してしまった場合、その天使は2度と天空界へ帰ることは許されない。

イアたち天使は、そのようになった天使のことを『堕天使』と呼ぶ。

罪深き、『堕落者』。


「じゃあ...ほたるちゃんは、もともと天使だったんだね...」


「そーよ。でも、ちょっと悪いことしちゃっただけで堕落扱い。ひどくない?」


「ひどいも何も、それか私たちのルールでしょう!?」


イアの叫びを、ほたるは鬱陶しそうに聞いていた。


「それが私たちの掟だもの!掟を破る者は、どんなにそれが些細でも堕落する!それは、天使なら、ほたるちゃんだってわかってたでしょう!?」


「知らないわよ、そんなこと」


「な......っ!?」


イアは唖然とした。ほたるのその鬱陶しげな表情を見て、イアの頭にかっと血が昇る。

イアがほたるに啖呵を切ろうとした瞬間、その腕をがっと捕まれた。


「ミカエラ様...」


「熱くなる必要ないよ、イア。こいつはこう言うやつなんだ」


イアはぐっと押し黙る。

ミカエラのことも、ほたるのことも見ることができなくて、イアはそっとうつむいた。

そんなとき、イアの耳にふと聞こえた言葉。



「やっぱり...追放するだけで止めるべきじゃなかったみたいだ」



「...!!」


イアは、その意味を知っていた。


「ミカエラ様...っ!!」


「あたしのこと、殺すの?」


わかりきっていると言わんばかりのほたるの声色に、イアはたまらず叫んだ。


「待ってください!!確かに...確かに、今の話だけ聞いててもわかります!ほたるちゃんが、どれだけのことをしてきたのか...」


「イア...?」


「でも...でも、それでも!!きっと根は、優しい子のはずなんです!!」


イアの言葉に、ミカエラとほたるは同時に目を見開いた。


「イア、何を...!」


「だって...優しかったんですもん...!例え私を騙していたとしても、あのときのほたるちゃんは優しかった!!あれが全部嘘だったなんて!私はそう思えないんです!!」


「ふざけたことを...っ!!」


そう言ったのは、ミカエラではなかった。

イアが視線をあげると、イアのことを恐ろしい形相で見つめているほたると目があった。


「勝手なこと言わないで!!私が優しかった?笑わせないで!!全部あんたを利用するためよ!!わかってんの!?」


「だとしても!!それでも、どこかにあなたの本音があった!私はそう信じてる!!あのときのほたるちゃんを信じてるよ!!」


ほたるはギリっと奥歯を噛み締めていた。

だが、即座に言い返してはこない。

それはつまり----。


「ねぇ...まだ、間に合うんじゃないかなぁ...?ほたるちゃんが、望むならまだ...戻れるんじゃないかなぁ...?」


「バカなこと言わないでってば!!無理に決まってるでしょ!?いまさらそんな!!」


「でも、人は変われるよ...?」


イアの言葉に、ほたるの心がはっきりと動いた。

イアは最後の望みを、託した。


「勝手な言い分かもしれない。でも...人がまた新たに変われるように、天使だって変われるよ。全部全部、ほたるちゃん次第なんだよ...?」


イアの言葉に、ほたるは何も言わない。

ただ、握りしめた拳が震えているのがわかった。


イアは待った。ほたるの選択を。

ただじっと、待ち続けて--------。



「............な」



「え...?」


「勝手なこと....言うなぁぁぁぁぁぁ!!」


顔をあげたほたるは、右手を振り上げてイアへ突進してきた。

いつのまにかその右手には、鋭利な刃が握られていた。


「イア----っっ!!!」


予想外の展開に、イアも反応が遅れた。ミカエラの手の届く場所にもいない。


イアは、鈍く光る刃を見つめ--------。





そっと、目を閉じた。

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