⑤
これで無事(?)完結です。
この作品は完結はしていますが、作品としてはかなり未熟なままです。
それでもあえて、この形のまま変えることなく終わりとしました。
突っ込みどころ満載かと思います。
「別れよう」
「え………?」
互いの間に痛いほどの沈黙が降りる。
「別れよう、朔夜。私たち」
何の前触れもなく、突然別れを告げる。
貴方が驚くのも無理はない。だって、嫌いになったわけじゃないから。
最初から最後まで、私は我儘ばかり。
こんな私。きっとさすがの貴方でも、愛想も尽きるでしょう?
「……君は、最初から最後まで我慢をし続けたままだな」
「え?」
朔夜の言葉は全く予想にしていなくて、その笑顔もあまりに柔らかくて、優しくて。ふいを突かれ思考がしばし停止してしまった。
「俺は君に甘えてほしかったよ」
「甘えてばかりだったよ? 我儘ばかりを言って、困らせてばかりで。もういい加減、愛想も尽きたでしょう?」
思いもよらぬ言葉に、自分の声が震えてしまうのがわかる。
「いいや、全く」
「……」
否定する言葉も浮かべる笑みも優しくて、優しすぎて……。
「俺は君が好きだ、好きだよ。誰よりも」
「っ……」
まっすぐに、切なさを込めた眼差しで見つめられ言葉に詰まる……。今すぐ、大好きな、大切な朔夜の胸に飛び込みたい衝動に駆られながらも、必死にそれを堪える。
そんな彩香の心境など知ってか知らずか、朔夜はただ真摯に想いを訴えてくる。
「………本当に、別れるのか? 本当に別れたいのか? 君は俺を、嫌いになった?」
――どこまでも、優しい人。
そんなあなたを嫌いになんて、なるわけがない。なれるわけがない。
(そんな貴方だから、きっと私は変われることができた。誰かを本当に愛することができた)
好きだからずっと傍にいたいと思った。束縛して、他の女性となんて一緒にいてほしくなかった。私だけを見て欲しかった。――でも、それは全部私一人の我儘で。相手のことを、世界で一番大切な人、朔夜のことを思ってなかった。本当に相手のことが好きなのなら、相手のことを考えて、好きだからこそ、自由でいてほしいと思わないとだめなんだよね。自分の気持ちだけを押し付けるなんて、駄目だったんだよね。
「さよなら、先生」
――大切な想い出を、ありがとう。
一生忘れられない、今はまだ痛くても。いつかは思い出して切なくても、笑える日がくるはずだから。
彩香は最後にその一言だけを、春の木漏れ日の様な笑顔で伝えた。
「朔夜」
ではなく、「先生」っと。
「誰よりも、大好きでした。――どうか、元気で。今度は私みたいなのじゃなく、ちゃんと先生に相応しい人と幸せになれるように願ってます」
それだけを伝え、彩香は最後に笑顔で去って行った。
*
――ありがとう、先生。
私は貴方と出逢えて、そして「恋」を知ることができた。
本当に、誰かを愛することができた。
「にゃあ?」
「ふふふ、どうしたの?」
腕の中で可愛らしく鳴く子猫に、柔和な笑みを向けながら身体を撫でてやる。すると子猫は気持ちよさそうに喉を鳴らす。
まだ、貴方を忘れられる日がくるとは思えないけど。
あなた以上に誰かを愛することができる時がくるかはわからないけど。
まだ、貴方の事が愛おしくてたまらないけど。
でも、ありがとう。
――朔夜。
貴方へのこの気持ちが、思い出になるまで。どうか、想うことだけは、許してね……?
大切な貴方の幸せを、どうか願っています。
読者視点でいえば、独りよがりな。本当に、結局相手の意見もきかず。
ただ、私はこうしないといけないんだ。
私はふさわしくないんだ。
っていう、まあ恋は盲目といいますか。若気の至りといいますか。
本当に、結局は自己完結。
相手を少なからず傷つけるだろうことはわかっていても、これが今の自分にできる最善の方法なのだと。信じて疑わない。
私自身がこう思っているのですから、否定的な意見もあると思います。
でも、こういった思い込み。言動は、あると思います。
私自身が、自己肯定感が低い人間なので。
彩香に似た部分が少なからずあります。
ある意味、自分を見つめ直す。という想いも含みつつの作品となっています。
成長し、自己肯定感が低いまま育ってしまうと。
どうしても、それを高めることは難しいでしょう。私もそうです。
でも、たった一人でもいい。自分の良い面も悪い面もひっくるめて受け入れてくれる人があらわれたなら。
それは、人生で何よりも貴重で大切な存在なのだと私は思います。
彩香と朔夜のようにスレ違うことも。
彩香のように、言葉にしてしまう恐怖に縛られ続けることもないと。
そう信じたいです。