サンタクロースの贈り物
私が4歳のとき、パパとママは、すんごい喧嘩をしました。ママは、家を出て行きました。それから私とパパは、二人で暮らしていました。
私の家には犬がいます。私の部屋でいつも、寝ています。だから、寂しくありません。
「リック!」
ワン!
リックは私の家族です。リックは、ゴールデンレトリバー。ふさふさで、あったかい。
パパは、優しいです。でも、お酒を飲むと、少し怖くなります。だけど、やっぱりいつも優しいです。
でもね。ママが家を出て行ってから、忙しくてあまり一緒に、いられなくって、私は家で、リックと二人でいることが多いんです。だけど、寂しくありません。だって、リックがいるから…。
でもね…。クリスマスのときだけ、私はすんごく寂しくなります。
町は、クリスマス一色。友達は家族で、パーティをするし、街にも家族連れがいっぱいになるから。
パパは、イブの遅くに帰ってきます。大きなクリスマスプレゼントを持って、それにケーキも持って、帰ってきます。少しお酒臭いけど、でも、急いで帰って来てくれます。
だから、いつも「ありがとう」って言って、喜ぶんだけど、だけどね、本当は待ってる時間が寂しくて、まわりの家の窓から見える大きなツリーと家族の笑い声が、もっと、私を悲しくさせる…。
すぐ横で、リックがく~んって泣きます。私の頬を流れる涙を、ぺろぺろなめながら。
パパが帰って来る前に、私は顔を洗います。泣き顔は見せません。
7歳のクリスマスが近づいてきて、クラスの友達のアンが私に聞きました。
「ジェシー、今年はサンタさんになんてお願いするの?」
すると、ベンが、こう言いました。
「サンタなんかいないよ。あれは、パパなんだ」
アンが反論しました。
「いるよ。絶対いる。毎年私のところには来るもの」
「それは、パパが変装してるんだ」
「うそだ」
「ほんとだよ。ガキだな~~」
私はそれを聞いてて、何も答えられませんでした。だって、うちには、来ないんです。サンタさんなんて…。
いつも、パパがプレゼントをくれます。私が欲しいものを、いつもくれます。だから、もう、それだけで、十分です。
アンが泣いてしまいました。
「いるもん。本当にサンタクロースは、いるんだもん。ね?ジェシーのところにも来るよね」
「うん。来るよ。ちゃんとプレゼントもって来るよ」
私は嘘をつきました。
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クリスマスが近づき、私はサンタさんに手紙を書きました。
「ママを帰してください。家に帰してください。また、3人で暮らせますように」
そう書いてから、大きな町のデパートに行きました。
そのデパートには、サンタさんがいて、子供たちのお願いを聞いてくれます。私は手紙を持って、列に並びました。
ちょっと後ろにアンが、並びました。
「ジェシー!あなたもサンタさんにお願いしに来たの?」
「うん」
「何を頼むの?」
「え?」
「私はね、新しい自転車」
「私は…」
ママだって言えませんでした。
でも、その時に、サンタさんに呼ばれて、サンタさんのところに行きました。
サンタさんの膝に座ると、
「お名前は?」
とサンタさんに聞かれ、
「ジェシー」
と答えました。
「ジェシーは、何が欲しいのかな?」
と優しく微笑みながら、サンタさんは聞いてくれました。
「ママ…」
と小さな声で言ってから、手紙を渡しました。
サンタさんはそれを広げて、読みました。そして、
「そうか…。うむ」
と優しく、微笑みました。そして、ウインクをしました。
私は、そのウインクを見て、ほっとしました。
「サンタさんは本当に、叶えてくれる!」
うきうきしながら、家に帰りました。
その日の夜、パパが、
「サンタさんに何かをお願いしに行ったのかい?」
と私が、デパートに隣の家のお姉ちゃんと行った事を知り、聞いてきました。
「うん」
「何をお願いしたのかい?」
パパが聞いてきました。
「内緒」
「内緒か~~。パパにも教えて欲しいな~~」
「…。怒らない?」
「怒らないよ。なんだろう?何か大きなもの?それとも高価なもの?」
「ううん。ものじゃないの」
「じゃ、何かな?」
「ママ」
「え?」
「ママに帰って来て欲しいって、サンタさんに頼んだの」
パパは私がそう言うと、黙ってしまいました。
「そうか…」
少しうつむいてパパは、そう言いました。
なんでかな?パパもママが帰ってきたら嬉しくないの?そう思いましたが、聞けませんでした。
次の日に学校に行くと、ベンが来て、
「デパートのサンタに頼みに行ったんだろ?ばっかだな~~」
と私に言いました。
「あれは、頼まれたものをデパートから家に、配送するんだ。それでデパートは、儲かるんだ」
「配送?」
「家に送るようになってるんだよ」
「でも、私が頼んだものは、配送できないものだもん」
「じゃ、送られてこないよ。もらえないよ、そんなもん」
「でも、サンタさん、ウインクしたもん」
「あれは、偽者のサンタだよ」
「ベン!いい加減にしてよ。あんたはそうやって、人を傷つけてるから、サンタが来ないんだ」
アンが怒って、そう言いました。
ベンは、あかんべ~をして、走っていっちゃいました。
「ジェシー、大丈夫。サンタさんは願い事を絶対に叶えてくれるよ」
アンがそう言ってくれました。
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今日はクリスマスイブです。
私はツリーに飾り付けをして、それから、サンタさんにあげるクッキーと、ママにあげるクッキーとプレゼントを用意しました。
パパは仕事です。でも、夜帰ってきます。
「今日は早くに帰るからな」
って言って、会社に行きました。
リックと、家でパパを待っていました。そして、ママのことも待っていました。でも、ママは来ませんでした。
パパが大きなプレゼントと、ケーキを持って帰ってきました。それから、夕飯を作ってくれて、二人でお祝いしました。
プレゼントは、大きなぬいぐるみでした。
「ありがとう」
私はそう言って、パパにキスをしました。パパは、何も言いませんでした。ママのことも何も、言いませんでした。
大きなくまのぬいぐるみを持って、リックと部屋に行きました。そして、ベッドにくまのぬいぐるみを寝かせて、私もベッドに入りました。
リックはベッドの横のラグで、ごろりんと寝転がりました。
「リック」
私がリックに話しかけると、リックは頭をあげました。
「ママ、帰って来なかったね」
「く~~ん」
リックは、寂しそうな声でなきました。
私も泣いてました。ベンが言うように、やっぱりサンタさんなんていないんだ。みんなの家に来るっていうのは、あれはみんなのパパなんだ。パパがサンタさんの格好をして、やってきてるんだ。
布団をかぶって泣いていると、パパが部屋に入ってきました。
「ジェシー」
私のベッドにそっとパパが、腰掛けました。
「ごめん、ジェシー」
「え?」
「ママ、帰ってこなかった。ママにパパは、電話して、ジェシーに会いに来てくれって頼んだんだ」
「パパから?」
「うん。クリスマスイブだから、せめて顔を見るだけでもいいから、帰って来てくれって」
「ママは?」
「何も言わなかった」
「それで?」
「電話を切っちゃったんだ」
「……」
「ごめんね。ジェシー。ジェシー、やっぱりママがいないと寂しいかい?」
「…」
私は何も言いませんでした。
「新しいママが欲しいかい?」
「ううん」
新しいママじゃなくて、ママがいい…。それも言えませんでした。
「そうか…」
パパはそう言うと、私の髪にキスをして、部屋を出て行きました。だけど、パパがママに電話をしてくれたってことだけでも、嬉しくて、パパが出て行ってから、
「ありがとう、パパ」
って言いました。
ママがいなくても、リックとパパがいる。それだけでも、幸せなのかな…。
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それから、私は眠りました。夢の中で、サンタさんがひくソリの鈴の音が、シャンシャンって鳴っているのが聞こえました。
それから、そっと私の枕元に立ち、サンタさんが優しく微笑んで、頭にキスをしている…そんな夢でした。
朝、目が覚めると、ほのかに、コーヒーとホットケーキの匂いがしてきました。ホットケーキを、パパが焼いたんだろうか。
私の大好物です。でも、パパが作ると、いつも焦がして、苦いホットケーキになります。
ママは上手でした。ママが作るホットケーキが、大好きでした。
私はリックと、部屋を出て、階段を降りました。そして、ダイニングに入り、驚きました。そこには、ダイニングのいすに座るパパと、横でお皿を並べているママがいたのです。
「ママ?」
私が目を丸くして驚いていると、
「ジェシー…」
と言って、ママが目に涙を浮かべながら、私のそばにきました。
「…ママ?」
私はもう一回聞きました。
「そうよ…。ジェシー、大きくなって…」
私が4歳のときにママは出て行ってから、もう3年が立っていました。
「ママ!」
私はママに、抱きつきました。
「ジェシー」
ママも私を抱きしめました。ママの匂いがしました。昔と変わっていませんでした。
私は嬉しくて、泣きました。リックが嬉しそうに、ほえました。
「リック、久しぶりね」
ママがリックの頭をなでました。
「ママ、帰って来たの?それとも、また行っちゃうの?」
私が聞くと、ママは、
「帰って来たのよ」
と言いました。
パパは私とママを見ながら、嬉しそうに微笑んでいました。
「ママね…。この家を出て行ってから、一人で一生懸命に働いて、暮らしてたの。だけどね、クリスマスが来ると、ジェシーとパパを思い出して、寂しくて、悲しくて…。本当は帰りたくって…」
「じゃ、なんで帰って来なかったの?」
「パパもあなたも、許してくれないんじゃないかって、そう思ってたから」
「そんなことないのに」
「パパが、あなたがママに会いたがってるってそう、電話をくれて…。嬉しかった。だけど、怖かった」
「なんで?」
「パパに受け入れてもらえるかが怖かったの。でも、昨日の夜遅くに帰ってきたら、パパも喜んでくれたから」
「昨日の夜遅くに帰って来たの?」
「そうよ。あなたの寝顔を見たわ。嬉しかった」
ママ?優しくキスをしてくれたのは、サンタさんじゃなくて、ママ?
「ジェシー」
ママはまた、私のことを抱きしめてくれました。それから、パパも私とママの所に来て、抱きしめてくれました。
「もう一回、3人でやり直そう」
パパがそう言うと、ママも、涙を流しながら、こくんってうなづきました。
私は、リビングのツリーの近くにあるテーブルの上のクッキーが、一個食べかけになってるのを見ました。
「ママ、私の焼いたクッキー、食べたの?どうだった?美味しく出来てた?」
そう言うと、ママが、
「ママじゃないわ。パパでしょ?」
とパパに聞きました。
「パパじゃないよ。リックかな?」
リックは、く~~んって首を振りました。リックではありません。リックは甘いものを食べたがりません。
「じゃあ、だれ?」
それは、謎のままでした。
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それから、8年が過ぎました。私とママとパパは、ずっと幸せに過ごしていました。そして、私は、好きな人が出来ました。
パパが、
「もうクリスマスも、彼と過ごすようになるのかな?」
と聞いてきました。
「彼ができたらの話だよ、パパ」
そう言うと、パパは、
「じゃ、まだパパやママと過ごしてくれるのかな?」
と笑いました。
私は、サンタさんに久しぶりに手紙を書きました。
「7歳のとき、願いを叶えてくれてありがとう。ずっとお礼をしなくてごめんなさい。8年ぶりに、手紙を書きます。私には好きな人が出来ました。ジミーっていいます。クラスでも、とても女子にもてます。私なんて、とても近づくことができないかもしれない。だけど、思い切って、クリスマスイブ、一緒に過ごせないか、聞いてみるつもりです。私の願い事は、彼とイブを過ごすことです。勇気を出しますから、どうか、彼とイブを過ごせますように」
なんて勝手な願い事だろう…って思いながらも、その手紙を持って、デパートに出かけました。列には、小さな子が並んでいて、私みたいに大きな子はいませんでいた。
でも、隣に住んでる、今年5歳になるキャロルの付き添いで来ているので、そんなに目だって恥ずかしい思いはしなくてすみました。
順番がまわってきて、キャロルの手を引き、サンタさんのもとに行きました。そして、キャロルをサンタさんの膝の上に座らせました。
「お名前は?」
「キャロル」
「キャロル。お願い事はなんだい?」
「あのね。可愛い赤ちゃんが欲しいの。キャロル、お姉さんになりたいの」
私はそれを聞いて、びっくりしました。きっとキャロルはおもちゃをお願いすると思っていたからです。
「ふぉっふぉっふぉ」
サンタさんは嬉しそうに笑うと、
「もう、すぐにキャロルはお姉さんになるよ」
と言って、ウインクをしました。
「やあ、ジェシー。君もお願い事があるのかな?」
「え?私の名前、覚えてるの?」
「ふぉっふぉっ…。もちろんだとも」
「じゃ、手紙、読んでもらえますか?」
私はサンタさんに手紙を渡しました。サンタさんはそれを読み終わると、
「うむ」
と深くうなづいて、また、ウインクをしました。
「サンタさん、あの…。ママが本当に帰って来たんです。ありがとうございました」
サンタさんは、何も言わずに微笑んで、
「ジェシー、最近わしは歯が弱い。できれば、もうちょっと柔らかいクッキーを用意してくれないかの?この前のは堅すぎた」
と、小さな声で、私に言いました。
「え?」
私が思い切り、びっくりしていると、また、サンタさんはウインクをして、
「ふぉっふぉっふぉ」
と笑いました。
イブ…。
勇気を出して、誘ってみたら、ジミーが友達とするパーティがあるから、一緒に行こうかって言ってくれました。そして、年が明け、隣のキャロルのママのおなかに、赤ちゃんがいることがわかりました。
そういえば、イブの日に、私は少し柔らかめのジンジャークッキーをテーブルに置いておきました。そのクッキーは、残らず、なくなっていました。
私は翌朝、ママにも、パパにも、何も聞きませんでした。だって、やっぱり夢の中で私は、鈴の音を聞いたのです。
そして、夢の中で優しくキスをしてくれたサンタクロースがこう言ってくれたのも、覚えていますから。
「今年のクッキーは、柔らかかった。とても美味しかった。ふぉっふぉっふぉ」
ベンにまた、もし会えたら言いたい。声を大にして、私は言いたい。
サンタさんはね、いるんだよ。
信じてたら、来てくれる。なんでも願い事を叶えてくれる。
すんごい優しくて、あったかくて、大きくて…。すごく愛があふれてる…。それがサンタさんなの。
私たちに、幸せを届けてくれる、それが、サンタさんなの。
来年は、また柔らかいクッキーを焼こう。でも、願い事があるだろうか…。
ただ、手紙に、クッキーを食べに来てねって書いただけでも、来てくれるのかな?
~おわり~