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封印獣と子供

作者: 茅菜

ファンタジーな夢を見たので、文章にしてみました。

深い森の中に建つ白い建物。

長い刻、雨風に曝されても尚その輝く様な白さは失われずにいた。


しかし近づいてみると、かつては精巧な細工の施されただろうと思える石の柱がいくつも無残な姿を曝している。


宝石が埋め込まれていたはずの飾り部分は鋭利なモノで削られた跡がいくつも残り、根元部分から折れている柱もある。


柱たちが支えていた天井は全て落ち、崩れ、床の上に瓦礫の残骸として存在した。


「うわぁ~、ボロボロだな。」


凸凹した床を気にすることなく飄々と歩きながらフィルドは辺りを見渡す。


日焼けした肌にまだ幼さを残す顔立ち、燻し銀のような色をした短い髪に晴天の空の色の瞳。あまり大柄では無いが、服から伸びる腕は意外に筋肉質だ。


「またか……」


フィルドはある一点を凝視する。


そこは元々の床が露出している数少ない場所だが、フィルドにはその床から銀色のぼんやりとした光が漏れ見える。


そっと自分の右目に手をやり目を塞ぐと、光は跡形もなく消え去る。


「やっぱり、こいつのせいか」


フィルドは亡き祖父の姿を思い出し、思わず笑みを浮かべた。


「さて、どうしようか……」


床周辺を観察して、触ってみるが特に変わった所は見つからない。


「入口ないのか? 面倒だな……」


光の漏れる所を中心に踵で床を叩きながら歩き、範囲を広げていく。


「ここまでか」


フィルドは辺りの石を退けて直径一ヴァール(二メートル)くらいの広場を作り、腰にぶら下げた鞄から赤黒いドロリとした液体の入った小瓶を取り出すと、しっかりと閉められた蓋を開ける。


左の人差し指を液体に浸け床に円を描いた後、金色の布で指を拭い、元の様に小瓶の蓋をしっかりと閉めて鞄に戻した。


次に鞄から長方形の紙を数枚取り出す。その白い紙には赤黒い色で、何種類かの文字が書かれており、その中から『爆』と書かれた紙を抜き取り円の中心に置いた。


左手の人差し指に中指を絡め口元に持っていき、他の指を軽く握る。


フィルドの口が呟くように動くと、紙に書かれた文字が黄金の光を放ち、囲まれた円を埋め尽くしたと思うと轟音と共に粉塵が舞った。


フィルドは口元を腕で覆いながら穴の空いた床に近寄り、覗き込む。


高さはそんなになく、湿っぽい空気に満ちてはいるが異臭はしていない。

水音が聞こえるが、下が水没しているわけではなかった。


「さぁ~てと、行きますか」


地面に腕をついて、穴の中に身を投じる。


「ゲホッ! うわぁ~、口ん中ジャリジャリぃ~!」


湿っぽい空気の空洞は、開けられた天井から降り注ぐ日光に照らされ、キラキラと粉塵が舞う。


しかし光源は日光だけではなかった。正方形に整地された地面からと壁には、上の神殿で見た模様より細かく繊細な模様が刻まれ、いくつも埋め込まれた発光石が淡い光を放っている。


その中でも一際明るい白銀の光を放っている一角に目をやると、壁に身を沈めフィルドを凝視しているモノがいた。


壁からにょきっと露出しているのは、首から上と黒く長い二つの尾。


漆黒の闇のような髪、白い肌、アーモンドの様な形をした白銀の瞳に針の様に細い瞳孔。顔は美しい人の形をしているが、頭からピンと伸びた黒い獣の耳。髪の毛と耳の境界がよく分からないそれは、ピクピクと動いている。


そして漆黒の尾の一本には、細やかな青い模様が描かれた陶器の白い鈴が、模様と同じ色のリボンで括られており、尾が揺れる度、カランと独特の音を響かせる。


「騒がしいな。……これはまた珍しい人間だな」


「あっ、こんにちは。俺、フィルドって言います。入口を探すのが面倒で壊させてもらいました」


内心、天井を壊したのはまずかったかなと思い、笑って誤魔化す。


しばらく凝視され、居心地の悪さを感じ始めた頃、豪快な笑い声と共に「元々入口などはない。ないからと言って穴を開けるとは思い切った人間だな。フィルドと言ったか、お前からは似たような力を感じる。ただの人間ではないね?」と尋ねられる。


「いえ、ただの人間ですよ」


――俺はね……。


「ただの人間が、来ようと思って来られる所ではないはずだが?」


「俺の右目がちょっと特殊で、白銀の光に導かれただけですよ」


この世界には、バロールと呼ばれる魔眼が後天的に発眼する人がおり、それは瞳の色によって力が変わってくる。しかし青の瞳の力は中級で、このように壁や天井一面に封印の模様が刻まれた場所を探し当てることは不可能だ。


「右目だけ、義眼にしたのか?」


「いいえ。自分の目です」


やはり壁に埋まった不思議生物も疑問に思ったらしいので、機械の技術に優れたクローソー公国で生産している義眼は自分の目よりもよく見え、記録も可能な物が作られてはしていたが、魔力や妖力まで認識できる様にはなっていない事を説明する。


「ほぉ~、そうか。まだそこまでは発達していないのか。しかし私は似たような目を持った者を知っているよ。もう何百年も前になる……まだ私がただの猫だった頃に、孤独な王子がいてな、その王子の片目も不思議な力を持っていたんだ」


昔を懐かしむように目を細める。


――それにしても、やっぱり猫で間違いなかったんだな。


「まぁ、よい。フィルドは何の用があってここに来たのだ? 宝か? それとも願いを叶えてくれる神がいるという噂を信じて来たのか?」


「いいえ。……でも、その前に一つ確認するけど、オス?」


怪訝な表情をしながらも、壁から生えた猫人間もどきは「オスだ」と律儀に答える。


フィルドの顔がみるみるうちに悲しげな表情になり、床に崩れ落ち、バシバシ床を殴る。


「まただよぉ~! なんでだぁ~!! もう男はいいよぉ~!!! そもそも人間でもないし!!!! 嘘つき狐ぇ~!!」


一通り喚き終えた後、フィルドは壁に向かって話し掛ける。


「用事があるのは俺じゃなくて、俺に頼みたいことがあるって聞いてきたんだけど?」


「聞いた? 誰に? ……あ~、狐ってあいつの事か」


納得した元猫は「ホップ、出て来い」と、奥の方へ声をかける。

すると、窪みになっていた場所から人間の子供が出てきた。年は五歳くらいの男の子。


「また、男……」


げんなりするフィルドへ、元猫が「この子供を上の町まで届けて欲しい。私はこの通りココから動くことは出来ないし、子供とはいえ人間を送るだけの力もない」と依頼する。


「この子はどこから来たの? 来られたなら帰れるんじゃない?」


不思議そうに聞いたフィルドに、獣は視線だけで湧き水の出ている小さな池を指す。


「そこが町の井戸と繋がっているらしく、この子供は井戸に落ちて運良くココに出たらしい。しかし、困ったことに泳げないそうだ」


その言葉にフィルドは納得した。


「分かった。送って行くよ。えっと……ホップ? おいで」


やせ細った子供に声をかけるが、幼子の視線はフィルドに向くことはなく、獣に向いていた。


「帰りなさい。ここに居ても私は何もできない。人間は生きてはいけないよ」


獣が優しく諭すように話しかけ、納得させ、ポップをフィルドに預けた。


◇◇◇◇◇


町の奥に建つ一軒家。


時刻は、夕食時。

家の窓から暖かな光が漏れ、明るい家族たちの談話が聞こえてくる。


「ここがお前の家?」


フィルドの問いにホップは頷くが、嬉しそうな表情は見せず、繋いだ手に力が篭もった。


「僕は、いらない子」


消え入りそうな声で話す子供。


「母様は僕を産んだことを後悔していた。新しい父様は弟の方が好きなんだ」


その話し方に、フィルドは思いついたことがあった。


「もしかして井戸には自分で落ちたのか?」


フィルドの言葉にホップは頷く。


「僕がいない方が楽しそうだから」


フィルドは絶句する。


――こんな幼い子供がそこまで思うなんて……。


「やっぱり心配してなかった。僕は、またニャ―の所に帰りたい」


必死に訴える姿にフィルドは負け、来た道を帰って行った。


◇◇◇◇◇


「というわけで、この穴を開けておくからココから出入りさせて、面倒は見てくれ」


フィルドとホップは獣に訴える。


「ニャー、お願い」


二人に頼まれ、獣はため息を吐く。


「まさか人間の子供に懐かれる日が来るとは思わなかった……」


「ニャー、駄目?」


「一人も退屈していたからね、話し相手がいてもいいだろう。でも、食べ物は自分で取って来ないと私には何も出来ないよ? いいね?」


獣の言葉にホップはブンブンと頭を縦に振る。


こうして一匹と一人の不思議な生活が、寂れた神殿の地下で始まる事になった。


◇◇◇◇◇


「嘘つき狐ぇ~!!」


フィルドは、ポップに『ニャー』と呼ばれた獣と同様に、壁と同化した顔だけは自分好みの獣に怒鳴る。


ただニャーと違うのは、彼が猫ではなく狐で、尻尾の代わりに右腕が壁から生えている事と、封印の模様が彫られているのではなく、発光する乳白色の壁と天井一面に紅い模様がいくつも書かれているという事。


紅い文字は、それ自体も淡く発光し、乳白色の色と混ざり薄い桃色の光となって照らし、獣の煌く黄金の長い髪や白磁器のような白くきめ細やかな肌、妖艶な雰囲気を醸し出す紅い唇を彩る。


「どうしたんだね? 嘘つきとは心外な」


「どこが美人が困ってるだ? 人でも女でもないじゃないか?」


「女とは言ってないよ? 美人も間違いないだろ? 私の知り合いの中でも私の次に美しい顔だよ、あの猫殿は」


「あ~、美人だったさ。でも、俺が行くことなかったじゃないか?」


「と言うと?」


不思議そうに聞かれたので事の顛末を話す。


「そうかい。それはお疲れだったね」


狐はにやりと笑う。


こんな表情をする時は、大抵ロクな事は考えていない事をフィルドは知っていた。


◇◇◇◇◇


後日、ホップの両親が何かに怯え、毎日神殿にお供え物をするようになったと聞いた。


一体、何をしたんだか……。

■補足説明■

フィルドの右目は魔眼(バロール)ではなく、精霊眼(マー・ヴェール)と呼ばれる物です。

祖父が精霊と人間の子で、精霊眼を両目に持っていた。フィルドは隔世遺伝で右目だけその力があります。


狐と猫は、元々はただの獣でしたが長い月日を経て妖力を得るのですが、とある事情で封印されました。


狐とフィルドの祖父が知り合いで、祖父から狐の話を聞いていたフィルドは、祖父が亡くなった報告を狐にしに行き、そこから交流が始まってます。

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