第7章四国
四国佐田岬の三崎港までの船旅は、波も静かで快適だった。豊後街道を通る船は多く海を見ていても飽きなかった。
三崎港の近くで遅い昼食を取る。食堂のおばさんがお喋りで「何処から来たの?」「お二人はどんな関係?」いろいろ質問攻めをされた。
良いことも教えてくれた「松山までの道メロディーライン」「すごく綺麗ですよ」「昔は道が悪くイクナ国道って言われたの」なるほど197号線だからと変なことに感心して食堂を出た。
これだけ細く出た半島は日本ではここだけだろう。それとメロディーラインはかなり高い位置を走っている。
キャンピングカーも普通の車より高いので、走りながら見る海は最高だった。
何処からが海で、何処からが空か分らない、海、空、この風景をもっと目に焼き付けたくて、今日はこの辺で一泊。
坂本竜馬の銅像を見た後、桂浜の砂浜に腰を下ろし幕末の時に心を走らせた。
時は違うが土佐の20代若者、武市半平太、坂本竜馬、中岡慎太郎、岡田以蔵がこの海を見ながら、未来を語ったのだと思うと胸の鼓動が高まりました。
あの時代何故この地に数多くの偉人が出たのか疑問だったが、少し暗くなった桂浜の海を見ていると解かったような気がしてきたのを思い出します。
今日のキャンピンカーの止める所を探しながら走っていると、辺りは既に暗くなってしまった。
遠くに赤い提灯が見えた。「ラーメン」と書いてある。L字となって飲食店が何件か並ぶが、開店しているのは、その一件だけだった。
駐車場は広く車は30台くらい止めるスペースがあった。
汚そうだがお腹も空いていたので、この店に入ることを仕方なく決めた。
店は思った以上に汚く思ったより小さい、客が座るとカウンターの後ろは通るこができなかつた。
客は若いカップルが一組、主人はアフロヘアーだ。「失敗だったかな」と思ったが、直帰ることもできず、諦めてビールとツマミを注文した。
しばらくすると「お客さん将棋できる」と聞かれた。「できますが、あまり上手ではありません」と答えると、主人は無言で将棋板に駒を並べだした。仕方なく付き合った。
客の若い男が主人を「兄貴!」と読んでいる。時間が経つにつれ段々人間関係が分ってきた。
主人は元頬に傷のある仕事をしていて、今は引退、若い男は現役のコレ、派手な若い女はその恋人なのだ。はい!はい!はい!はい!と言う感じ!・・・・・・。
先日信号待ちで止まっていた時、わき見していたらブレーキを踏み込む足をゆるめてしまい、前の車にコッンと当ってしまった。
誤ろうと思いドアーを開けると、前の車はスゴイ勢いで逃げて行った。
何故!その時黒のダブルに黒のサングラス、僕の愛車はキャデラックだ。
これで解かるが、僕も第一印象は悪い!しかしこの時の高知の店の主人や客は本当に印象が悪かった。
だが飲んでしまったらあれもこれもない。何時もの自分になってしまった。
この系の人達とは特に何故か気が合うのだ。
その後主人のモーテルに勤めている彼女も帰ってきて、6人の宴会となってしまった。
若者は「アツシ」恋人は「ミホ」主人の彼女は「テルミ」主人は「兄貴」、僕の彼女は「亜紀」自然に呼び合うようになっていた。
テルミ「竜馬の銅像見た後、こちらの来たのだったらモーテルあったでしょう」
兄貴「今日は空いていたか」「皆で泊まりに行くか!」(爆笑)って調子だ。
(土佐弁だったがうまく書けない)
僕も「アツシもっと飲め!」「金沢からはるばる来てのだからチャント接待しろ!」
今思うと現役のヤクザに言う言葉ではない。
何処からか、カラオケのセットを出してきた。唄う人はカウンターの中の箱の上がステージと化す。曲は兄貴「唐獅子牡丹」「兄弟仁義」など、アツシ「よろしく哀愁」などの郷ひろみシリーズ、僕は「加賀の人」などを歌った。
6人なのに外で聞いた人は20人くらいの宴会と思ったことだろう。
僕は2時頃、酔いつぶれてキャンピンカーに戻り、眠ってしまったが亜紀は朝方まで飲んでいたらしい。
次の日アツシにパチンコ屋に連れて行ってもらい、十分勝たせてもらった。
夜は兄貴の紹介の店で鰹のたたきを食べる。五台山竹林寺の僧「純信」と、恋人の「お馬さん」の恋物語で有名な「はりまや橋」を後にして室戸岬に向かった。
広島県の瀬戸内海に浮かぶ小さな島、生野島に急遽用事ができてしまった。
高知市から西条市を通り今治市へ、四国を横断することにした。
今は高速がつながっているが、その当時はなかった。
四国って小さいイメージがあり、山越えといっても、山もそんなに高くはないだろうと、なめていた。
これが大変で、大きくて重いキャンピングカーを引っ張っての山越えは、時間がかかった。
上りは、エンジンの音はすごく苦しそうだし、下りはエンジンブレーキを十分使っているのに、ブレーキパットは煙が出て怖くなった。
脱藩した時の竜馬の心境を思いながら慎重に運転した。
キャンピングカーを休ませながら走ったので、高知を朝の10時に出たのに今治に着いたときは暗くなっていた。
朝起きると、西瀬戸自動車道路、通称しまなみ海道が見えた。
ブルー色の瀬戸内海の上を、3本の橋を使って真っ直ぐに伸びて行くその道は、夢の国への道に見えた。
西瀬戸自動車道路は現在では全線開通しているようだ、僕の行った10年前は一箇所まだ橋ができていなかった。
その場所は定かでないが、フェリーを待っていると、駐車場の隅に小さなお土産屋さんがあった。
時間潰しにその店を探索しょうと入った。
これという商品は無かったが、地元養鶏場で取れた卵があった。
卵は今でも日に2,3個食べるので冷蔵庫からきらしたことはない。
その時、キャンピングカーの冷蔵庫も残り少なかったので、卵を買った。
鶏の卵の横に、少し小さい卵があった。「おばさん!この卵何の卵」と聞くと「それは烏骨鶏の卵ですよ!凄い精力つくよ!」と言った。
「そうなんだ!」と言い、1個買ってその場で飲んだ。烏骨鶏の卵は初めて食べたが、少し濃い味がした。
フェリーが後30分くらいで来る頃、大変な状態になった。
上も下も垂れ流し状態!フェリーに乗らずに、バックして病院に直行した。
しまなみ海道も終点に近く、因島大橋の手前に大浜PAがある。
キャンピングカーを止めて、booのトイレをさせようと思い車から降りると、野良犬が3頭いた。
その中には子犬もいた。様子を見ていると、お腹が空いている様だ。
ドックフードを芝生の上に置き、見ていると犬の数が増えてきて、数え切れなくなってきた。
皆捨てられた犬だろうか。心ない人がいるものだ。
現在でも全国では、何百頭もペットが保険所で処理されているそうだ。
同じ命を大切にできない人間が幸せになれるはずがない。
NHKの土曜ドラマで樋口可南子主演の「ディロンの運命」は、一人の平凡な主婦が一頭の捨て犬と出会い、老人ホームや子供たちへの訪問、捨て犬の保護活動を始めることから、様々な人の心にふれ世界が広がっていく。
やがてそれは夫婦の関係や避けていた義母との関係にも変化をもたらすことになる。
人生の折り返し地点を過ぎた主婦が、物言わぬ犬たちとの8年間の生活で見つめ直した暮らし、そして、生きていくために必要な、確かな心の繋がりを描くドラマです。
現在4回まで終わっていますが、機会があれば見ていただきたい。
PAはもちろん車も多い!犬にとって危ない場所だ。
持ってるだけの、ドックフードを芝生の上に置いて、後ろ髪を引かれる思いでPAを後にした。
時々今でも、あの光景を夢にみる。あの犬達はどうなったろう。