忘れていけたら
終わったはずの叶わない恋
どうして、気になるの?
無意識にこぼれたため息と、自嘲な笑みに気づいて
またか・・・と笑う。
ここの所、これの繰り返しで、自分では とめられなくて、もどかしくて
切なくなっている。
理由は分かっている
遠い過去に 置いてきたつもりの気持ちが また 顔を出しては
いたずらに 思い出させて、胸を締め付けて、期待させて 裏切り、傷を広げつつあった。
君の事、昔から好きだったのに。
そう、突然のメールで告げられてから 大体が、上の空だった
もちろん、どうしようもない寂しさとやり切れなさと・・なげやりな気持ちで告げられたものだと
苦しい位、分かっていた。
分かっていたつもり、だった。
あぁ・・・
深いため息がまた、過去の気持ちを引っ張り出してきた。
ずいぶん年上の、相当に大人な彼の背中を追っていたのは もう、何年も前の事。
何回か、体を重ねたこともあった。
互いの気持ちを確かめるとか、そういう事ではなく、ただ、寝た。それだけだった。
もちろん、憧れていたから 関係をもったのだけれど。
彼には深い意味はなかった。 その事も、わかっていたつもりだった。
彼には、大切な彼女がいて、いつも彼女が一番だ。
私にも カレがいた。
だから、気持ちがどんなに 彼に動いていても、追わなかった。叶わない想いだと 知っていた。
彼は 大切な彼女と結婚し、私は次のカレと結婚した。 何年か、穏やかな日々が続いた。
いつの間にか、 彼の声も、腕も忘れて行った。あの後ろ姿も、輪郭はぼやけていった
たった1通の深夜のメールで 過去に戻された。
また、ひとりになってしまった。
何回も、何回も ただその1行を読み返して、そして 切なくなった
あの頃とは、違う。
彼はさっさと結婚したし、私もそれなりに幸せだ。
なにより、私を本気で求めてなどいない。 私の好きなことも、嫌いなことも、何も知りはしない人
どんな顔をして感情表現するのかも、何もかも。
はっきりと分かっているその事実を 見えない振りして 彼に返信した。
ねぇ、、大丈夫?
本気で、心配だった。
私がいつも彼の背中を見ていたのには、理由がある。
彼がいつも彼女を見ていたからだ。
凛とした その立ち姿が、後ろ姿が とても好きだった。 馬鹿げている。自分で笑えた。
隣で寝息をたてるカレの指を解いて、寝室を出る。
一気に部屋中に 切なさが溢れて泣きたくなった。今日だけ、泣いたらまたいつもの生活に戻ろう。
そう決めて 泣いた。
驚くほど、涙が頬を伝い、あの頃の気持ちがよみがえってきた。そして 決めた心が 揺らいで、切なさに押しつぶされそうになる。
会いたいね?
鼓動が、止まりそうになった。 私にとっては会ったら、いけない人だ。きっと 止まれなくなってしまう。
だから、 会いたいけど、会わない。会えない。 会わない事で このつながりも、消える・・・・
その事にどこか小さな安堵を覚えつつ、それよりも 大きな、喪失感を感じる。
どうしようも、ないことだと 分かっているのに 瞳を閉じたら また泣き出してしまいそうだ。
彼は今、傷ついていて。 投げやりでも想いをぶつける人が必要で。 たまたま、私がいただけだった。
痛い位、分かっている事実。 それでも よかった。
ただ、近くに彼を感じていたかった
こんな矛盾を抱えて 少しずつ いつもの生活に戻っていく。
何週間かのやり取りの後。きっと今までの様に 連絡は途絶えがちになり 鳴らない携帯にも慣れてくる。
そして 私は毎日を過ごし、彼はきっと素敵な彼女と出会うんだろう
今日も彼からの、あの着信音の鳴らない、静かな携帯を見ては 深い、ため息を漏らす。
これで、いい。 これが、いいのだ、と自分に言い聞かせて 眠りに着く。
あの着信は、ならないのに。 携帯を握りしめて 眠る。
あと 少ししたら、切り替えよう。 新しい服を買い、髪を切った。
新しい事を始めた。 季節は深まり、また誕生日を迎える。
もう、卒業しないとなぁ・・・・声に出したら、なんだか気持ちが少しだけ、楽になった
忘れたくない、でも忘れて行くんだろうから、それまでは彼の背中を覚えていようと思った
あの頃のままの 凛とした姿で、覚えていたい
もう少しだけ、想って。 思い出して。 後は、進もう。
ゆっくり、忘れて行ってしまえたら 幸せだなと思う。
「忘れたいのでもなく、忘れないのでもなく。
忘れていってしまうんだよ、悲しいけど。」
あぁ。 今なら、少しだけ分かる気がする
ちょっと、違うのかもしれないけれど 分かりたい、そう思う
もう、身を焦がすだけの恋は卒業しないといけない
冬の気配を連れた秋風を感じながら
深呼吸して 携帯を、閉じた。
まだまだ、卒業しきれそうにありません
恋の諦め方、忘れてしまいました