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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
4/12

告白


 四月は、季節的には春真っ只中ではあるが、さすがに19時を三十分も過ぎていれば辺りは暗い。風はさほど吹いていないものの、時折流れる風は不愉快だ。早く日が延びてほしいと思ったり、思わなかったり。

 ポテトはまだ熱を帯びている。家に着く頃になれば、冷めていそうだ。しゃべらない無言の時間もあまり愉快ではない。冷たいポテトは嫌だという気持ちと、無言の時間を誤魔化すつもりで、ポテトに手が伸びる。咎めはされないだろうけど、食べ歩きは推奨されたものではない。こんなことで高校にクレームが入ったりしないとは思いつつも、ちょっと悪いことをしているなという自覚もあったので、堀田の咀嚼は早かった。


「天知さん、平気かな」


 ぼんやりと、新井は言った。

 視線の先には夜空が広がっていて、一般的に夜は危険だ。特に天知のような特別際立つような容姿をしていて、しかも御しやすそうな小柄の体躯であるのだから、そういった邪な思惑を持つ人の餌食になるだろうことは容易に想像がつく。


「ずっとそれ考えてたの?」


 新井の言いたいことはわかった。しかしこの無言の道中、頭には天知しかいなかったのか。それも愉快ではない。新井は真剣そうな顔をした。


「放課後、マックでデートしたんだーって自慢しようかと思ってたんだ。けど、いまになって思うと、夜に女の子ひとり帰らせるのってどうかと思ったんだ。まあ、天知さんも、初対面の俺に送るよと言われて、頼もしい! となるかって言われたら、そうでもないと思うけどな」

「べつにデートじゃないでしょ。私もいたんだし」

「そこはほら。上手くやる」

「ははあん。私をいなかったことにするんだ」

「そうは言ってないだろ」


 じゃあどういうことなんだ。分が悪そうに新井は頭を掻いた。


「報道しない自由、語らない自由ってやつだ」


 嘘はつかない。そこに堀田梨沙という女子が同席していないと敢えて言うことはない。同様に、本当のことも言わない。堀田梨沙が同席していたと、敢えて言うこともない。小狡いやつめ。


「それが天知さんの耳に届いたときが楽しみね」

「同胞に殺されるかもしれないしな」

「同胞?」

「天知しろあファンクラブ」


 口を引き結び腕を組む。

 ファンクラブなるものがあることもまた初めて知った。新井は自慢話の危険性を察してか、話を変えた。


「いやまあ、大真面目な話をすると、明日の朝、天知さんが事件に巻き込まれたとか言われてみろよ。俺たちが最後に会ったのかもしれないんだぞ?」


 本当に真面目な話だった。ストローに口をつけ、すこし考えて答える。


「まあ、たしかに。寝覚めはよくないか」


 後悔しそうだ。


「でも大丈夫じゃない?」


 気軽に言う。暢気だなと新井は目をすがめた。


「心配じゃないのか」


 気軽にこそ言ったが、楽観的なわけではない。心配していないのでもない。堀田は手を振って否定する。ポテトがかさかさと音を立てた。


「そういうことじゃなくて。たぶん天知さん、迎えがいるよ」

「まあ、そうか。天知さんはどっかのお嬢様って聞いたし。なんか、執事とかとなりにいるとしっくりくる」


 そこまでは飛躍していなかった。堀田は至って健全に、誰か友達と来ているのではないかと思っていただけなのだが、横に執事を連れ立っている想像をすると、たしかにしっくりくる。


「うん、それならよかった。けっきょく、どうやっても俺が天知さんを送ることはできないからな」

「知らない男子に家知られたくないしね」

「ひどいな」


 そう笑って、


「それもあるだろうけど、そうすると今度は梨沙をひとりで帰らせることになる」

「え」


 平然と言った。横顔を凝視してしまう。新井は頬を赤くすることもなく、ただ単純に突き刺さる視線に困ったと苦笑いをする。


「なんだよ」


 唾を飲んだ。


「もしかして、バイト初日に来たのって……?」


 新井は逆に眉をひそめた。


「ん? バイト先と勤務時間教えたのって、送れって意味じゃなかったのか?」

「いや、違うけど……」


 話の流れ的に、バイトすることを告げたのだ。時間を送ったのも他意はない。やっぱり話の流れだ。


「てっきり、茶化しに来たのかと思ってた……」

「ま、それもあるけどさ」


 なんだか顔が熱い。カップの蓋を開け、氷を頬張った。必死に冷静を装って、言う。


「いつの間にそんな紳士になったの?」

「俺はずっと紳士だ」


 それは嘘だ。どれだけ堀田は新井と一緒だったか。小学生の時は悪ガキだったし、中学生の時は思春期を絵に描いたようなクソガキだったし。

 まったくいつから、こんな立派な紳士になったというのか。




 ポテトを食べ終え容器を潰す。飲み物も全て飲み干した。気付かぬうちに氷も平らげてしまったようだ。

 住宅街は家々から明かりが漏れているが、道を歩くふたりを照らすのは等間隔の電灯だけ。少々心許なく、駅からひとりで歩いていれば漠然とした恐怖が絡みついてきそうだ。新井がとなりで歩いてくれているその安心感に、やっと頭が回った。


 次の角を曲がればお互いの家が見えてくる。新井の家が先だ。

 どうしよう。

 考え悩む猶予は、そう長く与えてもらえなかった。


「じゃあ」


 新井の言葉に、顔をあげる。すでに到着していた。


「待って」


 家に入ろうとする新井を呼び止める。身体はどうしようもなく熱いというのに、息が震える。懸命に、拳を握った。


「好き」

「……ん?」


 いろいろ、考えていた。告白のシチュエーションだったり、言葉だったり、どうやって段階を踏んで行こうか考えていた。考えて、考えて、迷走していた。だから堀田の言葉は単純そのもので、言ってしまってからは止まらない。


「好き。新井のこと、ずっと好きだった。いまもそう」

「は……え? ちょっ、……」


 向こうからすればただの女友達で、幼馴染みでしかなく、異性の対象としては見られていなかっただろう。そんな相手からの告白は伏兵に脇腹を刺されるような衝撃だったに違いない。

 まともに新井の顔は見れない。自分の真っ赤な顔が見られたくなかったし、それに。


「付き合って」


 伏せていた顔を、頭ごと下げた。

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