表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
17/19

予後、よくない展開


 中間テストは無事、終わった。無事終わったのだが、テスト期間中はしばらく、気まずい空気が流れていた。

 倉賀野の家族に不幸があったかもしれない。両親が事故にあった、学校に連絡がくるほどの重傷だった。危篤かもしれない。


 水曜日に倉賀野が学校へ来たことに、三浦たちは胸のつっかえが取れたような気分になった。とはいえ、だからといっていままで通りの接し方はできない。家族は無事だった? なんて訊けるはずもなく、素知らぬふりをして放課後誘えるほど、三浦たちが知った事情は軽いものではなかった。単なる推測ではあるが、そうかもしれないと躊躇するには、三浦たちが色恋に浮き足立っていたという事実が尾を引いた。

 結果、前野の計画は自然消滅。三浦、前野、岡部はこの一週間を、三人で静かに過ごした。


 中間テストが無事終わり、週明け。いろいろと変化があった。


「早瀬」


 朝の登校時間。朝練を終えて教室で一息ついたところで、岡部は早瀬を呼ぶ。早瀬は傍らの倉賀野と佐々木にごめんと断りを入れてから、駆け寄ってくる。


「なに?」


 呼んだはいいもの、さてどうしようか。誰から、何て切り出そうか。それぞれ目配せする。

 早瀬が怪訝そうな目をした。聞き出せなくなるのは本望ではない。仕方ない。


「あれから、どうなの? 倉賀野さん」


 三浦は言った。

 早瀬は口許に指を当て、小首を傾げる。岡部はその焦らしに耐えかねて、逸る。


「親とか、大丈夫なのか? 倉賀野と、ふつうに接してるけど」


 そう。三浦や岡部や前野が手をこまねいている間に、早瀬と佐々木はいつも通りの関係に戻っていた。そして、女子三人とはほぼ疎遠状態。女子たちは三浦たちに声をかけないし、三浦たちも倉賀野がいる手前、話し掛けづらい状態にある。仲良し六人グループは男女で別れていた。


 勇気を振り絞って早瀬を呼んだというのに、早瀬に気まずさはなく、変わらず快活に笑う。


「大丈夫らしいよ」


 一言で済ませる。早瀬たちもあまり深くまでは追及していないのか、それとも……。


「もう、いい?」

「あ、ああ……悪い」


 いつもなら、ここに佐々木と倉賀野を呼ぶか、呼ばずともふたりから来るようなものだが、こちらには目もくれずに談笑している。戻りたいと言外に込める早瀬を、岡部も引き留めることはできなかった。


 なんとなく気まずさ、違和感を引きずったままの朝を迎える。それが如実に表れたのは、二時間目の移動教室だった。


 トイレに席を立った三浦が用を足して外へ出ると、倉賀野の後ろ姿を見た。そのとなりには、もうひとつの後ろ姿があった。男子だった。移動教室を共にしているのだから、クラスメイトなのだろう。つまり、三浦ともクラスメイトのはず。しかし、誰だったか。わからない。

 後ろ姿だからだろうか。それもある。だが、倉賀野が男子と仲良くしている姿は見たことがない。まあ、倉賀野のことをそこまで把握している自信はないので、どこかで仲良くしていても気にしなかった可能性は多いにある。のだが、しかし。


「……誰だ」


 それは、となりの男子よりも倉賀野に向けた言葉だった。


 倉賀野を、初めて見た気がしたのだ。


 おかしな感想を言っていることは理解している。いままでの倉賀野が偽物だったとでも言いたげである。しかし、あの倉賀野はまるで別人だ。あんな笑顔は見たことがない。あんな風に笑えるのなら、三浦の中での倉賀野の印象もがらりと変わる。受け身で自分がなくオドオドしている印象だったが、ずいぶん積極的に話していて、見た目にふさわしい明るさを手にしている気がする。


「……ぐぎぎぎ」


 はっとする。トイレ前で呆然と眺めていると、横で歯ぎしりのような音が聞こえた。男子トイレのとなり、女子トイレからだった。


「……誰だ」


 これもまた、誰だろう。

 いや、知っている。知っているのだが、見たことのない顔だった。いつもの可憐で柔らかい印象はなく、そこには激情に駆られるトゲトゲしい般若がいた。般若が壁に齧り付いているのだ。


「……はっ!」


 三浦の視線に気付くと、般若こと天知しろあは一旦トイレに引っ込んだ。澄ました顔で、手をハンカチで拭いている。


「あら、三浦くん。ごきげんよう」


 ごきげんよう。初めて耳にする挨拶だ。

 すでに倉賀野とクラスメイト男子Xの姿は見えない。天知に合わせて、さっきのは見なかったことにしよう。


「ごきげんよう、天知さん」


 あれはやはりなにかの見間違いだったのではないか、と思うほどに恭しく、天知は会釈した。


「あれ以降、どうですか」


 それが何を指しているのかは言わずとわかる。いまのところ、天知と三浦の繋がりはひとつしかない。


「ああうん。なんだか、ぎくしゃくしてるよ。僕らも声が掛けづらくて。なんて声をかければいいかもわからないし」

「倉賀野さんのほうはどうですか?」

「どうなんだろう……」


 三浦が気にしているのはグループのことであって、そこまで倉賀野のことは気にしていない。


「でもまあ、なんだか吹っ切れたような感じはするよ」

「そうですか。それはよかったですね」


 よかったのだろうか。吹っ切れたということは、吹っ切るなにかがあったということなのだが。それが家族の不幸ということも……あり得る。果たしてそれは、よかったと言えるのだろうか。


「さっきも、いい表情してたしね」

「そうですか。それはよかったですね」


 なんだか、怖い。やはりよかったとは思ってなさそうだ。三浦と同じく、倉賀野にそこまでの思い入れはないのだろう。こうして訊いてきたのも、予後が気になるからといった程度に過ぎないのだろう。繰り返された言葉に変わらない表情だが、どこか凄みがあった。

 すると、予鈴が鳴る。


「もう授業が始まりますね。では」

「あ、うん。またね」


 ぺこりと頭を下げる天知に、三浦は軽く手を上げた。


「……って、まずい!」


 そう、三浦の次の授業は、移動教室だったのだ。天知は三十秒とかからず教室に戻れるかもしれないが、三浦はそうはいかない。遅刻だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ