罪悪感を植え付けて堤防にしましょう
三浦に言ったことは本当だ。
べつに倉賀野友梨とは知り合いでもないし友達でもない。知り合いの知り合いと知り合いならば知り合いという判定になるのか、友達の友達は皆友達だという人からすれば嘘になるかもしれないが、しろあの友達の友達はただの赤の他人だ。
「遅くなりました!」
勢いよく、ノックもせずに部屋の扉を開けた。中で機嫌良く、マイクを持って歌っていた女は、しろあの登場に恥ずかしくなったのか声量を抑えていく。どうやら、しろあに歌声を聴かれるのは恥ずかしいけれど、この男に聴かれるのはかまわないらしい。
「遅かったな」
「すみませんねふたりきりの邪魔をして!」
「なに怒ってるんだよ……」
カバンを投げつける。
女子とカラオケの薄暗い個室でふたりきりになって、なんだかいい雰囲気になっていちゃいちゃと甘ったるい空気に浸って、声いいね。歌上手いね。本当だよ。歌上手い人、好きなんだ。歌が上手いとあれも上手いんだってね……なんて、囁いていたのだろう。
「悪かったね歌が上手くなくて!」
「だから何の話なんだよ……」
歌は途中で中断になった。女子のほう、倉賀野友梨は静かに座ってストローに口をつける。しろあはかいくんの膝の上に座ることにした。
「なんで俺の上」
「いいでしょ。女の子なんだから」
「???」
言い争うのも無駄だと、かいくんはしろあの脇の下に手を突っ込んだ。子どもにするような抱っこをされて、ソファーに座らせられる。そのまま部屋を出て行った。
倉賀野友梨と、ふたりきりにされる。
「あの、その……天理くんとは、どういう関係なん……ですか?」
「それが先に訊くこと?」
吐き捨てる。倉賀野友梨はビクッとした。
「あ、そうだね。ごめん……えと、どうだった?」
もじもじとしたまま、引け目でもあるのか倉賀野友梨は言った。
しろあはコップを手に取る。
「あ、それ」
「飲みかけでしょう。知ってます」
だから飲むのだ。かいくんと間接キス。氷をぼりぼりと噛み砕く。
「結論から言うと、ダメですね」
「……そっか」
「ええ。ひとり、倉賀野さんの気持ちに気付いていながら、あえて無視している人がいるので」
「三浦くん、……でしょ?」
「そうですね」
なんとも厄介な男だ。あの爽やかフェイスで、何人もの女を騙してきたのだろう。女の敵である。
「とりあえず、牽制はしておきました。三浦くんもこれ以上、彼らの蛮行を許すことはないと思います」
「蛮行って……」
大袈裟な、と顔をひくつかせる。
「そもそも、私は半信半疑だよ。前野くん、が……私のことを好きだなんて」
「じゃあなんでかいくんに彼氏のフリなんか頼んだんですか」
時が止まった。倉賀野友梨の表情は凍る。部屋の中ではリズミカルな音楽と、それに合わせて踊る猫がいる。
「そっか、そうだよね。知ってる……よね」
当然だ。
友達でもなければ知り合いでもない。そんな人のために、かいくんとの放課後の時間を捨ててまでしろあが奔走した理由はひとつだけ。相手から頼まれたから。それでも、しろあは誰彼構わず頼まれれば引き受けるなんてボランティア活動はしていない。お願いを聞くには対価が必要だ。
しかし今回は例外だった。
倉賀野友梨からは対価ももらっていないし、厚い友情で結ばれているわけでもない。適切なのは、危機感……か。
「半信半疑ならば、半分は信じているということです。ですからあなたは、そっちに傾くことに決めた。都合がいいからですね。かいくんは底抜けに優しい。困っている人がいれば助けてしまう。たとえ自分が犠牲になったとしても」
受験に遅れるとわかっていても、迷子で泣きじゃくる子どもを見つければ、親が見つかるまで一緒にいてあげるだろう。自分が死ぬことになっても、自分が死ぬぐらいで助かるなら安いものだと命を差し出すだろう。
かいくんは、しろあに優しくないと言う。もう神様じゃないんだから、人間なんだから優しさを持つべきだと諭してくれる。しかししろあから言わせてもらえば、かいくんの優しさの尺度は壊れている。度が過ぎている。優しくないというのも人間らしいだろう。
「あなたはそれを知っているから、だからかいくんに頼んだ。『最近、好意を寄せられている男の子がいるんだけど、私には好きな人がいるの。だから彼氏のフリをしてくれない? 一時的でいいから』」
倉賀野友梨は目を見張った。
「一言一句、そのとおり」
「当たり前です」
それを知ったときの衝撃ったら、なかったのだから。
「勝手にスマホ、見たんだ」
ちくりとする。
「そういうの、天理くん嫌いだと思うよ」
「わたしには許されているんです!」
これぞ彼女特権なのだ。第一、嫌いなのだとしたらロックの数字を変えればいい。つまり、変えていないのだから嫌じゃないということ。しろあにだけは許されているという特別扱いその証左のほかにならない。
「そもそも、わたしというものがありながら、べつの女とこそこそ会話しているのがおかしいんです。というか、あなたがかいくんのことを語らないでください」
しろあは食い気味に言った。倉賀野友梨はくすりと笑う。
「な、なんですか」
「あ、ごめん。そうじゃなくて……えっと。天知さんも、ふつうの女の子なんだなって。ちょっと、親近感? ごめん、嫌かもしれないけど」
頭に疑問符を浮かべる。
「それとも、天理くんだからかな? 天知さんでも、天理くんのことになると……ってことなの、かな?」
「それではまるで、わたしがかいくんに骨抜きにされているみたいじゃないですか」
「違うの?」
「ええ。実際にはわたしが抜いてるんですよ」
今度は倉賀野友梨が疑問を浮かべる番だったらしい。
「告白したのはかいくんですから。愛を叫び、一生を誓ってくれました。わたしもやぶさかではなかった。それに過ぎません」
あの言葉と、熱量。愛を感じさせられた。いまでも寝る前に愛は囁かれている。
「そ、そうなんだ……」
あはは……と、倉賀野友梨は苦笑いする。よくわからないらしい。それでいい。しろあも、わかってほしくない。これは、しろあだけのものなのだから。
「とにかく、あなたの困りごとはこれで終わったと思います。用が終わったならお帰りください。これからわたしは、かいくんと暗い個室で、いつもと違うシチュエーションに愛を高め合うんですから」
ふたたび倉賀野友梨は苦笑する。もっと表情筋を動かしたほうがいい。不格好だ。とは思っても、しろあは口にしなかった。そんなアドバイスは求められていない。
「知ってると思うけど、カメラあるからね?」
いったい倉賀野友梨はなにを考えているのだ。むっつりではないか。
「知らないかもしれませんけど、案外店員はカメラを見てないんですよ」
倉賀野友梨は出て行った。入れ替わりに、かいくんが戻ってくる。おかえりと腕を広げてかわいらしくお出迎え。愛らしい笑顔を浮かべる。
「俺たちも、帰るか」
足を踏んでおいた。
「それで、今回はなにをしたんだ?」
帰り道、かいくんは訊いてきた。
「あら、わからないんですか」
軽く煽る。かいくんは見もしない。
「俺はしろあみたいに全知があるわけじゃないからな」
「でも人の気持ちはわかるでしょ」
「まあ、多少は」
謙遜もいいところだ。
「なら、わかってるはずでしょ。あの子が、どういう気持ちでかいくんに近寄ったか」
「困ってたんだろ? そう言ってた。いまはそういうことを考えてない。でも告白を断ればあのグループがぎくしゃくする。だから、彼氏役を頼んできたんだ。前野にその姿を見せて、告白される前に諦めてもらおうとして」
「それは建前だよ」
「なら本音は?」
言わせるのか。カバンアタックを食らわせる。
「なんであの子はかいくんに頼んできたの」
「友達だから。同じ中学だったし」
「中学が同じならほかにもいる」
もう一度、カバンアターック!
「彼氏役を頼むなんて、よっぽどの相手じゃないと頼まないよ。勘違いされたら困るからね。
あの子はいつメンって言われるほど、学校ではグループに馴染んでた。あの六人と一緒にいる時間が、学校内では多かった。つまり、かいくんとは学校で碌に会話していないことになる」
「女とは話すなって、束縛してくる人もいるしな」
「それなのにこんな大事を頼んでくる。連絡先も交換してる。勘違いされてもいいと思っているんだよ。それだけの関係性が、ふつうの友達の範疇には収まらないなにかが、ふたりにはあるということになる」
「俺が勘違いしないとわかってるから頼んだのかもしれないぞ?」
信号で足が止まる。無言の圧をかける。かいくんは軽く頭を掻いた。やっとこっちを見た。
「言わないと知りそうだからなあ……」
「そうだね。かいくんのことは知らない。そういう約束だから。でも、あの子のことは知るかも」
そこにかいくんが現れたなら、まあ、不慮の事故みたいなものだろう。
「はあ」
とひとつ溜め息をつく。かいくんにとっての話す区切りのようなものだっただろう。しろあがこんなにもやもやしたのも初めてのことだ。
「倉賀野は中学のときはあんなんじゃなかった。いわゆる高校デビューを始めたんだ。中学のときは、まあ、格好の餌食、いい的だったんだよ」
「いじめられてたんですか」
かいくんは濁していたが、言わないと進まない。
「まあ、そういうことになる」
「で、それを助けたと」
かいくんの性格を考えれば納得の行動だ。ありふれた行為に、数少ない行動を取った。
「いや、助けてはない。手伝った……かな」
「手伝った?」
微妙なニュアンスを問い質す。信号が青になった。
「最初は俺も、助けようと思った。でも断られたんだ。塞ぎ込んでたんだろうな。俺の手も、怖かったんだと思う」
救いの手と、虐げてくる手の違いが、見極められなかったのか。
「でもだからって、引き下がるわけにはいかない。いじめてるやつがいるのなら、いじめないやつもいる。見て見ぬふりをするやつがいるなら、無視できないやつもいる。全部が全部、痛めつける手じゃない。世の中、人間ってのはそんな悪いやつばかりじゃない。倉賀野にはちゃんと、それを知ってほしかった」
それもまた、かいくんが取る行動だろう。
「だから訊いたんだ。俺にできることはあるかって」
助けてやると押し付けるのではなく、してほしいことがあれば飛び込んできなさいとおおらかに待つ。どちらが好ましいかは人によるだろう。そして、倉賀野友梨にとっては後者が必要だった。
「それで倉賀野はこう言ったんだ。変わってやる、見返してやるって」
しろあはかいくんの手を握った。
「だから俺は手伝った。ランニングして運動して、食事制限して。ファッションを学んだり髪型をいろいろ変えてみたり、コンタクトにしてみたり。そういう一通り、いわゆるイメチェンをする倉賀野のとなりに、俺はいた」
それはさぞかし、心強かっただろう。ひとりではないと、自信も生まれるだろう。しかしかいくんは、こう言う。
「だから俺はべつに助けたわけじゃない。倉賀野がひとりで変わっていったんだ。俺は手伝っただけで、なんなら、見ていただけかもしれない」
これもまた謙遜だ。なにもしていないのと誰もいないの差は大きい。倉賀野友梨が、かいくんにどういう感情を抱いていったかも、手に取るようにわかる。
「中学の、三年。冬頃。大幅に変化した倉賀野に、周囲もざわついた。すこしずつ変化してたからそれに合わせて周りの目も対応も変わっていたけど、あのときはすごかった。受験とか卒業とか新生活だとか、いろいろ沈んでいたときに、一足早い春が訪れたみたいだった」
「……それで?」
促す。かいくんは呆然としていた。
「それで?」
まさかそれで終わりなのか、と愕然する。
「それでもなにも、ここで話は終わり。俺は倉賀野を手伝った。目標は終わったんだ。倉賀野にはほかにも友達ができたし、俺と話す理由もない。ランニングも運動もする必要がないんだから、早朝に、休日に、会うこともない」
どうしたものか。
まだその頃は、かいくんもピュアな人間でしかなかった。本心からそう思っていたのだろう。いやいまでも思ってるのかもしれない。
どうしたものか。この大馬鹿者は。
「なにより、変わる前の自分を知ってる俺といたら、嫌な思いをするかもしれないだろ」
「なにを真面目な顔して言ってるんだ!」
しろあは手を離した。振りかぶる。
「最低! 女の敵! 浮気野郎!」
「全部違う。全部違うと思うぞ」
「うるさい!」
しろあの往復ビンタ。カバンによる往復ビンタ。けっこう鈍い音がするものだ。
「ふぅ、ふぅ」
肩で息をする。なぜかしろあのほうが疲れているように見える。かいくんにはノーダメージのように見える。
「あーあ。ほら、髪がぐしゃぐしゃ」
「触らないで!」
自分で整える。ふんと威圧する。
「しばらくかいくんは、わたしに触るの禁止」
「はあ」
自分こそ我慢できるのか、という目だ。上等だ。
しろあはかいくんの手を握ってやった。
「触ってるけど?」
「わたしからはいいの」
「はあ」
歩き出す。
「まあ、それなら倉賀野ちゃんにはちょっと同情するよ」
「いままでは同情してなかったのか」
「いままでは敵だと思ってた」
「じゃあいまは何なんだ」
「実は味方だった。裏で本物の敵が糸を引いてたんだよ。しかもそれが味方だと思ってた人。衝撃の事実、全米が泣くね」
一番苦しんでるときに支えてくれた人が、立ち直ったらもうどこにもいない。それはなんて残酷な人なのだろう。倉賀野友梨がこの機をチャンスと捉えて、またもう一度、かいくんと近づこうとする気持ちもよくわかる。健気だ。うんうん。
「それで、次はしろあの番だ」
噛み締めていると、話を振られた。
「今回はなにをした?」
堀田のときと違い、しろあはなにも言わずに動いた。速戦即決を選んだのだ。倉賀野とかいくんが接触しないために、すべて自分で片付けた。
「倉賀野ちゃんがかいくんに求めたのは彼氏役。それを見せつけることで、勝手に諦めてもらおうとした」
「告白されて断るのだと、ぎくしゃくするから」
「でもそれは根本的な解決にはならないし、さらに倉賀野ちゃんは嘘を吐き続ける必要がある」
「別れたってなったら、むしろチャンスだと思われてアプローチが激しくなるかもしれないからな」
まあ、それまでの猶予があるとは思わないけれど。前野がそこまで倉賀野に一途かは、怪しいけれど。
「だから重要なのは、仲間を作ること」
「仲間?」
「うん。倉賀野ちゃんの状況は絶望的だったんだよ。あのグループの全員が、前野くんに協力的だった。倉賀野ちゃんとふたりきりにしようとしていた。敵だった」
「大袈裟……ではないか」
「大袈裟じゃないよ。好きでもない人に延々とアプローチされる。周りはみんな、それを援護してる。八方塞がりでしょ」
マンションに到着。鍵を刺してエントランスを抜ける。
「だからわたしがしたアドバイスは、仲間を作ること。懐柔だね。敵であっても、話の通じる人はいる。仲間がいないなら、作ればいいじゃない」
「なんだか物騒なアントワネット」
エレベーターが来た。乗り込み階を押す。
「倉賀野ちゃんにはアテがあった。女子のふたり。早瀬さんと佐々木さん。あのふたりは、べつに前野くんの味方だったわけじゃない。頼まれたからその通りにして、なんとなく察して盛り上がってただけで、べつに味方じゃない。敵でもね」
恋バナに盛り上がることは悪いことじゃない。しろあとて、そうだ。恋愛ドラマ、ラブコメは好みだ。
「その話をしたのが、昨日」
「俺のスマホを盗み見した日か」
「うん。かいくんが浮気した日」
まだ許していない。帰ったらイチャコラする。
「だから今日、倉賀野ちゃんはふたりに話すつもりだった。早瀬さんから放課後誘われて、これぞチャンスとふたつ返事した。実は好きな人がいるんだ、とかなんとか話せば、前野くんのアプローチから守ってくれる。すくなくとも味方はしない。ところが」
「今日も今日とて、男子三人も来ることになった……か」
「そういうこと」
指を弾く。
「恐怖に慄いた。またあの時間を過ごすことになるのか、話に笑って合わせなきゃいけないのか、テストがあるのに、勉強したいのに。本当は好きな人がいるのに」
ぎらりとかいくんを見上げる。
「たしかに、その好きな人にも申し訳なくなってくるな」
それがお前だと言っているのだ。膝裏を蹴っておいた。
「だから倉賀野ちゃんは逃げることを選んだ。咄嗟に」
「なら、しろあの予定は崩れたことになる。なにを言ってどう納得させたんだ?」
「罪悪感を植え付けた……ってことになるのかな」
「罪悪感?」
エレベーターが到着を告げる。扉が開いた。
「倉賀野ちゃんのお母さんかお父さんは、不慮の事故に遭っていま生死の境目を彷徨うことになってるの」
かいくんは目を見開く。
「それ、倉賀野には言ったのか?」
「言ったよ。教室を飛び出したあとに、メッセージが来て。ごめんって謝られたから、じゃあこうこうこうしますけど、いいですかってちゃんと許可は取ったよ」
怪しまれている。スマホを見せてやった。かいくんはやり取りに目を通している。
「前野くんの自意識過剰を崩して、倉賀野ちゃんの家族が重傷だって伝えた。倉賀野ちゃんは気が気じゃなかったのに、好きだの嫌いだのって推し量ってたんだから、そりゃ罪悪感も芽生えるよね」
あの場の沈黙の重苦しい空気が物語っている。
「これで、あのグループの関係性を壊したくないっていう倉賀野ちゃんの本意には沿ったことになる。牽制もした。三浦くんも、勘付いてることを知られてしまったんだから、露骨に倉賀野ちゃんと前野くんの関係を推進しようとはしない。遺恨を残したから、前野くんにも引け目がある。あとは倉賀野ちゃん自身が、早瀬さんと佐々木さんにきちんと話を通せば、いままで通りの仲良しグループになる」
「いちおう、確認だけど」
「うん、なに?」
「倉賀野の家族は、無事なんだよな?」
「うん、お母さんは家にいるし、お父さんは会社にいるよ」
よかった、とかいくんは胸を撫で下ろす。スマホを返された。
「だけど、にしてはずいぶん、倉賀野の顔色も悪かったけどな。あそこまで青ざめることあるのか?」
ある。前野が三浦と岡部に例の作戦を話したのは、日曜日。そして倉賀野がアプローチを受けたのは月曜日。そして今日は火曜日だ。倉賀野はたったの一日で、アプローチに勘付いた。勘付いたとまでは言わなくても、なにかしらの作為を感じたはずだ。きっとその些細な違和感は、本来なら無視しただろう。それを利用して、かいくんとの関係性を修復しようと一計を案じなければ、今日も彼らと行動していたに違いない。
しかしそう一計を案じたことで、しろあと繋がりを持つことができた。青ざめる必要があるのか、とかいくんはそう言うけれど、実際は、違う。青ざめる程度で済んだ、とそう思うべきだ。
かいくんは鍵を回し、家の扉を開く。
しかしこれは言わない。言う必要のないことだから。牽制は済んでいる。それでもなにかあれば、倉賀野のほうから言ってくるだろう。なにより、家にこういう面倒ごとは持ち込みたくない。
「ただいま~」
靴を脱ぎ捨てる。かいくんがそれを直してくれる。
「しろあ、靴」
「ありがとっ」
「どういたしまして……じゃなくてだな」
ニーハイも器用に足で脱いで落としていく。
「だからしろあ」
「あげるよ。男の子は好きでしょ?」
「はあ」
かいくんは回収して家の鍵も閉める。一足先にリビングへ出たしろあはすでに制服も脱ぎ捨てていた。ポテチとコーラを体内に補充する。
「夕飯、食べれるんだろうな」
「別腹だよ」
「ポテチがデザート。なんて不健康な」
そういう意味で言っているのではない。かいくんの愛ある手料理は、たとえ満腹でも食べれてしまうのだ。
しろあの制服にハンガーを通し、シワを伸ばすかいくんは、ソファーで寝転がってゲームをするしろあに、背中のまま語りかけてくる。
「ところで」
「ん~」
「しろあはあのまま仲良しグループになるって言ってたけど、たぶん、そんなことはないと思うぞ」
がばっと足の反動で起き上がる。
「どういうこと」
「さあ。それは、後日お楽しみに」
「もしかして、カラオケで倉賀野ちゃんと内談でもしたの? わたしが頑張ってる間に、逢い引きしてたんだ。やっぱり浮気だ」
「そういうことじゃなくてだな」
けれど実際、かいくんの言っていることは本当になった。そしてよくない展開になっていた。
そうなるとは毛ほども知らず、しろあは泣き喚いて、かいくんに慰めてもらっていた。




