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何でも知ってるしろあちゃん  作者: 家佐水井
天知しろあは何でも知っている
12/13

計画は順調


 腹ごなしを済ませた三浦たちは、本日の題目通り勉強会に励む。トレーを片付けてテーブルにスペースを空け、それぞれの飲み物とそれぞれの勉強道具が広がる。

 三浦は教科書を視界の真ん中に置きながら、それとなくとなりの様子をうかがった。


「……これってどういうことだ?」


 と前野が教科書を傾ける。自然と倉賀野と肩も寄ってしまう。倉賀野は遠慮がちに教科書を覗き込んだ。


「ここがヒントになってると思うよ」


 指でなぞった場所を前野も目で追い、


「そういうことか」


 納得して書き込んでいく。


「そういえば、倉賀野さんはさ」

「ん?」

「関係ない質問だから嫌だったら答えなくていいんだけどさ」


 そう前置きする。目は教科書だ。かなり緊張していそう。


「髪は長い方が好きなのか?」

「えっ」

「クールな男が好きなのか?」

「えぇっと……」


 前野の髪もべつに短くはないが、長くもない。セットもせず、寝癖を直しているぐらいだろう。ふつう。それに尽きる。


「やっぱ背の高いやつが好きなの……か?」


 前野と三浦の身長を比べれば、二、三センチほどしか違わない。二、三センチの差で、三浦の方が高い。三浦からすればたったの二、三センチを親の仇のように思わなくても……と思ってしまうが、前野からすれば二センチの差が命運を分けることになれば、気が気じゃないだろう。


 ふと、奇妙な光景が目につく。


 三浦が教科書を顔の前に持ってカモフラージュし、倉賀野と前野のやり取りに聞き耳を立てているのと同じ光景が、あと三つほど広がっていた。岡部も早瀬も佐々木も、ふたりの行く末が気になるようだ。

 四人が皆、勉強なんてする気がない。いやこの場にいる六人がそもそも勉強なんてしないと共通理解が立ったところで、三浦たちは肩を寄せ合った。もちろん、本音がどうあれ勉強会をしているという建前は忘れてはいけないので、教科書で口許を隠しながら話す。


「実際のところ、どうなんですか」

「なにがですか」


 こそこそと、岡部と早瀬がやり取りをする。

 なぜ敬語、と思っていれば、


「なんで敬語……?」


 佐々木も同じく疑問に思ってくれていた。


「女子はやっぱり身長高いやつの方が好きなのかってことです」

「一般的には、そうなんじゃないんですか。私も背が高い方が好きです」

「実は俺もそこそこ」

「ない」


 可哀想に、と思った方がいいのか。それとも笑った方がいいのか。実はふたりでネタ作りでもしているのではないかと思うほどだ。


「そういう男子こそ、どうなの」


 佐々木が口を挟む。三浦と岡部が目をぱちくりさせていると、続けて言った。


「男子こそ、小さい子の方が好きなんじゃないの」


 引け目でもあるのだろうか。伏し目に加え、口許も隠れているのでそう見える。

 たしかに、佐々木は女子にしては背が高い。この場の男子三人のほうが大きいが、倉賀野や早瀬のように目線を下げることはなく、上目遣いをされることもない。佐々木よりも背の小さい男子は何人もいるだろう。


「あんま考えたことないな」


 岡部はそう首を捻る。そして、たったいま考えたのだろう。その結論を教えてくれた。


「それよりもやっぱこっちだろ、こっち」


 自分の胸に見えないメロンでも掲げるようにした。下品な笑みに、


「うわぁ……ありえな」


 と、早瀬はドン引き。腰を浮かせて可能な限り距離を取ろうとする。精一杯のフォローをするのなら、岡部は素直なのだろう。ただフォローをすれば間違いなく三浦にも変態の烙印が押される。


「彰もそうだろ?」


 だから同意を求められても、三浦は無視を選択した。


「身長で判断することはないかな。背が低いから好きになることもないし、嫌いになることもない。逆も然り。大事なのって、やっぱり相性じゃないかな」


 価値観や性格から始まって、果てには知識や思考回路まで。すべてががっちり嵌まるような相手がいるか、いても出会えるかどうかはまではわからないが、すべてが噛み合わない相手と付き合うのは苦労する気がする。


「ふふん、なかなかいいことを言うね、三浦くん」

「そうかな」

「うん。どこかの誰かさんとは大違い。これがモテる男とモテない男との違いってやつなんだね」


 含みのある視線だ。受け取った岡部が黙っているはずもない。


「そういうお前も、でかいやつがいいんだろ。なら同じじゃねぇか」

「ぜっんぜん違いますー」


 どう違うのだろう。三浦にもよくわからない。

 だがまあ、恋人に求めるものというのは人それぞれだ。岡部が女子に胸を求めるように、早瀬が男子に身長を求めても、どうでもいい。彼らの自由だろう。


「あーあ。もしも絵里が男子だったら、絶対私付き合ってたのになー」


 ぎゅっと早瀬は佐々木に抱きついた。それを佐々木は受け止め、優しく頭を撫でている。

 いつの間にか、こそこそと話すのを忘れてふつうに雑談に興じていた。倉賀野が話に参加してくることもなかったが、おそらく前野とのふたりの時間の邪魔にはなっていただろう。ふたりの空気感はどうか。そうちらと目を向ける。すると、倉賀野とばっちりと目が合った。

 三浦も倉賀野も、どちらかが何かを言う前に、


「でさ、倉賀野」


 そう前野が、三浦にはわからない話の続きを再開し、ふたりの時間に入ってしまった。




 誰かと勉強をすると集中できない、という質ではない。しかし今回、三浦は明日のテストに向けて何かが進んだとは思えなかった。理由は明白だった。


 当たり前のことだが、勉強会に参加するメンバーに勉強をする意識がなければ、ただ集まって騒いでいるだけになる。無音でないと集中できない、話が気になって集中できないというわけでもない。ほかの五人が騒いでいても、三浦はひとりで没頭すればいいだけの話。つまり、それができなかったから、進まなかったのだ。

 雑談される分には構わないが、いちいち意見を求めたり話に巻き込むことだけはやめてほしかった。邪魔されれば誰だって集中できない。たとえ家で勉強していても、真横で家族が永遠と話し掛けてきたら、そりゃあ何も頭に入ってこないだろう。

 とはいえ、不満があるわけではない。不機嫌になることもない。岡部や前野、佐々木に早瀬と皆、真面目からは程遠いタイプだ。倉賀野はそうでもないかもしれないが、我を貫くほどの胆力もない。最初からわかりきっていたことだし、何より勉強会というのはあくまでも名目。倉賀野を誘うための誘い文句に過ぎない。


 はたして、前野はこの数時間で倉賀野にアピールできたのか。倉賀野の情報を引き出せたのか。倉賀野と距離を縮められたのか。重要なのはそこ。


 お昼時を過ぎて二階にも客がちらほらと現れ始める。二年生や三年生らしき姿、他校の制服を着た姿も目についた。この中では三浦たちが長い。さすがの長時間に居心地が悪くなってきて、三浦はそろそろ帰ろうかと提案したのだった。

 当然、氷もすべて溶けている。溶けた水も飲み干している。片付けだけ済ませて、店をあとにした。


「このあとはどうする?」


 岡部が言った。いの一番に三浦が反応する。


「さすがに、帰る。いちおう、テスト期間だし」

「それもそっかー」


 残念、と早瀬は口をへの字に曲げたが、文句は出ない。


「じゃあ、僕たちはこっちだから」


 それぞれ中学が違う。通学路も、家も。というかそもそも、三浦は女子三人の家を知らない。興味もない。徒歩圏内なのだろうことはわかっているが、それだけ。出身中学がわかればだいたいの位置もわかりそうなもので、たしか最初の自己紹介でクラス全員名乗ったはずだが、三浦はもう思い出せない。

 三浦は電車通学。駅の中に入っていく。岡部と一緒に改札を潜った。

 この時間帯に帰るのは初めてのことで、まだ電車が来るまですこし時間がある。ホームの椅子に座って手持ち無沙汰にスマホの電源を入れる。


「光輝のやつ、上手くやってんかな」


 自動販売機で飲み物を買った岡部が、ふぅと一息つきながらとなりに座った。


「さあな」


 スマホを取ったついでに、連絡をしてみる。

 既読2となって返信が来たのは、それから……何時間後だったか。三浦が家に到着し、テスト勉強を一段落終え、そろそろ風呂にでも入ろうかと思った頃だった。


『上手くいった』


 返信に、三浦は親指を返しておく。どうやら、順調に計画は進んでいるらしい。

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