第9話 反勇者指定
結論は、早かった。
地下での対峙から、半日も経っていない。
王都の広場。
告知板に、新たな布告が貼り出される。
【王国勅令】
資格なき者・里崎智哉を
反勇者として認定する
正しき勇者エルドの討伐行為を妨害し
世界の秩序を乱した罪により
これを指名手配とする
人々は、静かに読み――そして、頷いた。
「やっぱりな」
「勇者様に刃向かうなんて」
「街を見殺しにした時点で、分かってた」
誰も、驚いていない。
地下では、その噂が遅れて届いた。
「……指名手配?」
女が、紙切れを握りしめる。
震える手。
「私たちを守った人が……?」
俺は、壁にもたれて座り込んだ。
来るとは思っていた。
それでも――。
「“反勇者”か」
ずいぶん、都合のいい言葉だ。
兵士が、地下入口を封鎖し始めた。
松明の光。
足音。
「出てこい、里崎智哉!」
「勇者に仇なす者は、罪人だ!」
……早い。
俺は、立ち上がる。
「ここには、関係ない人間がいる」
女が、叫ぶ。
「逃げて!
あなた一人で――」
首を振る。
「それはできない」
俺が逃げれば、
ここは“反勇者の隠れ家”になる。
そうなれば――。
地下の人間ごと、浄化される。
足音が、近づく。
俺は、剣を抜いた。
光らない刃。
英雄の証もない。
だが。
「聞け」
入口に向かって、声を張る。
「俺は、勇者じゃない。
だから、世界は救えない」
一瞬、足音が止まる。
「でも――」
剣を、地面に突き立てる。
「ここにいる人間は、救う」
次の瞬間。
天井が、崩れた。
俺が斬ったのは、人じゃない。
地下通路だ。
崩落。
土煙。
逃げ道は、奥へ。
「行け!」
人々が、闇の奥へ走る。
俺は、最後に残る。
兵士たちの怒号が、瓦礫越しに聞こえる。
「逃がすな!」
「反勇者を捕らえろ!」
……もう、戻れない。
地下を抜け、夜の外気に出た時、
王都の空に、黄金の光が走った。
勇者エルドだ。
きっと今頃、
俺を討つ準備をしている。
俺は、闇の中で呟く。
「世界が俺を敵にするなら――」
剣を握り直す。
「俺は、世界の外で戦う」
その夜。
王国に、新たな敵が生まれた。
魔王でもなく、魔族でもない。
――反勇者、里崎智哉。




