第7話 正義の前に立つ者
地下への通路は、破壊されていた。
瓦礫。
焼け跡。
血の匂い。
嫌な予感しかしなかった。
「ここか」
光が、闇を切り裂く。
黄金の剣。
その輝きの中心に、少年が立っていた。
勇者エルド。
その背後には、王都の兵と神官。
そして――。
「魔族の隠れ家だ。
人間が潜んでいるのも、共犯の可能性がある」
神官が、淡々と言った。
……地下の人たちを、そう呼ぶのか。
俺は、前に出た。
「待て」
一瞬、空気が凍る。
エルドが、俺を見る。
まるで、珍しい虫でも見るような目。
「誰だ、あんた」
「里崎智哉」
名前を告げると、周囲がざわついた。
「……ああ」
エルドは、納得したように頷く。
「街を見殺しにした、偽物の勇者か」
胸の奥が、ひどく冷えた。
「ここは、俺が守ってる」
俺は言う。
「魔族はいない。
いるのは、逃げ場を失った人間だけだ」
エルドは、剣を軽く振った。
「だったら、なおさらだ」
「は?」
「魔族と関わった人間は、もう普通じゃない。
物語でも、そうなってる」
物語。
その一言で、理解した。
この少年は、世界に愛されている。
「どけ」
黄金の剣が、俺に向けられる。
「正義の邪魔をするなら、
あんたも敵だ」
兵たちが、息を呑む。
神官が、口元を歪めた。
「資格なき者が、勇者の前に立つとは」
……ああ、最悪だ。
俺は、一歩も退かなかった。
「一つ聞く」
「なんだ」
「ここにいる人間を殺して、
それで夜、眠れるのか」
エルドは、少し考えてから答えた。
「眠れるさ」
即答だった。
「俺は、正しいから」
その言葉で、何かが終わった。
地下で泣き声が上がる。
子供だ。
エルドが、剣を振り上げる。
光が、集まる。
……ここまでか。
次の瞬間。
俺は、エルドの前に立っていた。
黄金の剣の光が、俺の目前で止まる。
「――どけ」
「どかない」
力を、ほんの少しだけ解放する。
地面が、軋む。
空気が、震える。
エルドの目が、初めて見開かれた。
「……何だ、あんた」
「資格のない勇者だ」
静かに、言った。
黄金の剣が、わずかに揺れる。
世界が、息を止めた。




