第6話 正しい勇者
黄金の剣が見つかった。
それは突然だった。
神殿の地下。
誰も立ち入らなかった封印庫。
剣は、確かに黄金だった。
光を放ち、歌い、触れただけで奇跡を起こす。
そして――持ち主が現れた。
「彼こそが、勇者だ!」
王都は沸いた。
五年ぶりの希望。
正しい物語の再開。
俺は、地下からその様子を見ていた。
新たな勇者の名は、エルド。
十八歳。
農村出身。
選ばれし者。
……なるほど。
完璧だ。
「これで、世界は救われる」
誰もが、そう言った。
最初の討伐は、小さな魔族の拠点だった。
かつて、俺が止められたのと同じ規模。
勇者エルドは、迷わなかった。
「魔族は、すべて悪だ」
黄金の剣が振るわれる。
光。
爆音。
拠点は、消えた。
――中にいたのは、魔族だけじゃなかった。
捕らえられていた人間。
逃げ遅れた難民。
確認は、されなかった。
「犠牲は、やむを得ない」
大臣は言った。
「勇者の一撃は、正しい。
物語に沿っている」
俺の隣で、地下の女が唇を噛んだ。
「……あの人、助けようともしなかった」
違う。
助けなくていいんだ。
“正しい勇者”だから。
次の街では、さらにひどかった。
魔族が潜んでいる疑いがある。
それだけで、街ごと焼かれた。
「浄化だ!」
「これぞ、真の勇者!」
歓声。
涙。
感動。
俺は、拳を握りしめる。
ああ、そうか。
世界が欲しかったのは、
救いじゃない。納得だ。
黄金の剣を持つ者が振るえば、
それはすべて“正義”になる。
夜。
地下に戻ると、子供の一人が聞いてきた。
「ねえ。
あのお兄ちゃん、勇者なんでしょ?」
答えられなかった。
勇者は、正しい。
正しいから、間違えない。
――誰も、そう信じている。
俺は、剣を見下ろす。
光らない。
歌わない。
ただの刃。
それでも。
「……これ以上は、見ていられない」
その時、初めて思った。
黄金の剣を持つ勇者が、
世界を救うとは限らない。
だが――。
資格なき者が、
世界を壊す勇者を止める資格は。
まだ、ない。




