第47話 正義は、待たない
土煙が、晴れる。
俺と勇者。
拳と拳。
剣と魔力。
互いの一撃が、届く距離。
次で終わる。
そういう間合い。
勇者の息が荒い。
俺の視界も揺れている。
「……次で」
「ああ」
同時に、踏み込む。
その瞬間。
――空が、鳴った。
低い。
重い。
嫌な音。
光の柱が、落ちる。
俺と勇者の間に。
爆ぜる。
衝撃で、二人とも吹き飛ぶ。
地面を転がる。
兵が、悲鳴を上げる。
村人が、伏せる。
土煙の中心。
そこに立っていたのは。
白金の装束。
紋章。
巨大な法杖。
神官ではない。
格が違う。
老いた男。
目だけが、異様に若い。
「――裁定は、下された」
声が、響く。
神殿の総司祭。
この国で、王よりも重い存在。
勇者が、目を見開く。
「……なぜ、ここに」
「勇者エルド」
無視。
俺を見る。
「敵性存在アルファ」
名ではなく、記号。
「お前の処理は、儀式案件となった」
空が、歪む。
魔法陣。
巨大。
村全体を覆う規模。
「待て」
勇者が、立ち上がる。
「これは俺の戦いだ」
「違う」
総司祭。
「これは、神の戦いだ」
光が、降り始める。
浄化。
いや。
消滅。
俺だけじゃない。
範囲が広すぎる。
村も、飲み込む。
「やめろ!」
勇者が、叫ぶ。
初めて、怒りを露わにする。
「村人がいる!」
「尊い犠牲だ」
即答。
感情ゼロ。
「魔を断つための」
兵たちが、ざわめく。
神官すら、青ざめる。
俺は、空を見上げる。
笑う。
「……やっぱり、こうなるか」
勇者が、俺を見る。
理解する。
今、敵は誰だ。
光が、強まる。
時間がない。
「勇者」
俺が言う。
「選べ」
勇者の拳が、震える。
剣を拾う。
見るのは、俺じゃない。
空。
総司祭。
「……くそ」
小さく、吐く。
そして。
俺の横に立つ。
「一時休戦だ」
短く。
「異論は?」
「ない」
光が、落ちる。
俺は、全力で魔力を解放する。
勇者は、剣を天に掲げる。
闇と光が、並ぶ。
総司祭の目が、初めて細まる。
「愚か者ども」
轟音。
衝突。
空が裂ける。
村が震える。
世界が、軋む。
決着は、まだ先だ。
だが、もう明確だ。
俺たちは敵同士じゃない。
少なくとも、今は。
勇者が、低く言う。
「終わったら」
「ああ」
「決着をつける」
「望むところだ」
光が、爆ぜる。
神の裁定と。
人の意志が、真正面からぶつかる。




