第46話 白と黒の交差
火が、揺れる。
誰も動かない。
兵も、神官も、村人も。
世界が、二人のために止まる。
勇者が、構える。
無駄がない。
祈りのような型。
俺は、拳を握る。
魔力が、骨の内側を震わせる。
「本気で来い」
勇者。
「言われなくても」
地面を蹴る。
消える。
衝突。
金属と衝撃がぶつかる音。
勇者の剣が、俺の拳を受け止める。
火花。
地面が割れる。
「……速いな」
「お前もな」
間合いが、砕ける。
勇者の斬撃。
直線。
迷いのない光。
俺は、半歩ずらす。
肩が裂ける。
血が飛ぶ。
痛い。
だが、止まらない。
拳を叩き込む。
勇者が防ぐ。
だが、押される。
白い外套が、裂ける。
村人が、息を呑む。
勇者が、跳ぶ。
空中からの一閃。
月光を裂く軌跡。
避けない。
腕で受ける。
骨が軋む。
血が流れる。
だが。
掴む。
剣を。
勇者の目が、見開く。
「――!」
力を込める。
地面に叩きつける。
衝撃。
広場の石畳が砕ける。
土煙。
兵が、一歩後退る。
だが。
煙の中から、光が走る。
勇者が、立っている。
口元から血。
だが、目は折れていない。
「……やはり、化け物だな」
「そっちこそ」
笑う。
血の味がする。
勇者が、深く息を吸う。
剣が、淡く光り始める。
「これは、国を救うための力だ」
「これは」
俺も、力を解放する。
黒い気配が、揺らめく。
「俺が、生きるための力だ」
光と闇。
正面衝突。
轟音。
地面が吹き飛ぶ。
家屋の窓が割れる。
衝撃波が、村を揺らす。
片腕の男が、叫ぶ。
「止めろ……!」
だが、止まらない。
勇者の剣が、俺の胸を裂く。
俺の拳が、勇者の脇腹を砕く。
同時。
血が、地面に落ちる。
膝が、わずかに揺れる。
「なぜだ」
勇者が、息を乱しながら言う。
「なぜ、そこまでして生きる」
「死にたくないからだ」
「それだけか」
「それで十分だろ」
勇者の目が、揺れる。
一瞬。
その隙。
踏み込む。
全力。
拳が、勇者の胸を打つ。
鎧が砕ける。
勇者が、吹き飛ぶ。
地面を転がる。
剣が、手から離れる。
静寂。
俺は、息を荒げる。
勇者が、ゆっくり起き上がる。
素手で。
ふらつきながら。
それでも、立つ。
「……まだだ」
血を吐きながら。
「俺は、倒れない」
「どうして」
「守ると、決めた」
真っ直ぐな目。
揺れない。
俺は、理解する。
こいつは。
嘘をついていない。
神殿でも、王でもない。
自分で決めた。
だから、折れない。
俺も、構える。
「なら」
「どっちが、立っていられるかだ」
同時に、踏み込む。
最後の衝突。
光が爆ぜる。
闇が裂ける。
轟音。
――そして。
土煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこに立っているのは――
ひとり。
ここで止める。
次で勝敗を確定させる。




