第4話 非難される勇者
その街は、地図から消えた。
魔族の小隊は、一晩で街を焼き尽くした。
住民の多くは逃げ遅れ、城壁は崩れ、名前だけが残った。
――そして翌日。
王都には、ひとつの噂が流れ始めた。
「勇者が見殺しにしたらしい」
「力があるのに、逃げたんだって」
「やっぱり本物じゃなかったんだ」
俺は、その場にいた。
王城の広間。
整然と並ぶ貴族と役人。
そして、怒りと恐怖を滲ませた視線。
「説明してもらおうか」
王が、重い声で言った。
「なぜ、街を救わなかった」
……来たか。
「救う許可がなかったからだ」
一瞬、静まり返る。
だが次の瞬間、どよめきが起きた。
「責任逃れだ!」
「力を誇示するだけの偽物め!」
俺は、役人の方を見た。
第3話で俺を止めた、あの男。
彼は、何も言わなかった。
――言うわけがない。
記録には、俺が「動かなかった」としか残っていない。
「力があったのなら、使えばよかったのだ」
大臣が、もっともらしく言う。
「資格がどうこうなど、結果の前では無意味だ」
思わず、笑いそうになった。
「……資格がないから止めたのは、あんたたちだろ」
「違う」
王が即座に否定する。
「我々は、世界を守った。
混乱を招く行為を防いだだけだ」
――街よりも?
言葉は、喉で止まった。
言っても、意味がない。
広間の奥から、遺族の一人が叫ぶ。
「勇者なら、助けてくれたはずだ!」
その視線は、刃物のようだった。
胸が、痛む。
でも、分かっている。
この人たちは、悪くない。
責める先を、与えられただけだ。
「黄金の剣も持たぬ者に、期待するからこうなる」
「次こそ、本物の勇者を」
誰かがそう言い、空気はそれで固まった。
――結論は、もう出ている。
俺は、役人の前に立った。
「俺を、どうする」
「当面、王都滞在を命じる。
監視下で」
事実上の、軟禁。
逃げようと思えば、逃げられる。
でも、それをすれば――。
俺は、完全な“悪者”になる。
「……分かった」
広間を出るとき、背中に罵声が飛んだ。
「勇者失格!」
「偽物!」
夜。
与えられた部屋で、一人になる。
窓の外では、今日も魔王軍の火が遠く揺れている。
救えた。
本当に、救えた。
それでも。
「……世界は、俺を選ばなかった」
そう呟いた瞬間、胸の奥で何かが静かに割れた。
――次に何かが壊れるとしたら、
それは世界のほうだ。




