第39話 値札のついた命
夜だった。
火は、落としてある。
もう慣れた。
静かに食べ、
静かに眠る。
――はずだった。
草が鳴る。
一方向じゃない。
三方向。
囲いだ。
片腕の男が、
目だけで合図を送る。
子供は、
若い女の後ろへ。
俺は、立つ。
「出てこい」
静かに言う。
拍手が、返ってきた。
「気づいてたか」
闇から、三人。
軽装。
神殿兵じゃない。
徽章もない。
代わりに、
紙を持っている。
俺の顔。
くしゃくしゃになった手配書。
「いやあ、助かるよ」
中央の男が、笑う。
「似顔絵、ひでえからな」
目は、笑っていない。
「悪いが」
剣を抜く。
「生活があってな」
左右の二人が、
弓と短槍を構える。
慣れている動き。
殺し慣れている。
「賞金首」
男が、俺を指す。
「神殿お墨付き」
「倒せば加護付き」
「断る理由がねえ」
同行者たちが、
息を呑む。
これは。
思想でも、正義でもない。
市場だ。
「子供は」
男が、ちらりと見る。
「関係ねえ」
「抵抗しなきゃ、な」
嘘だ。
抵抗しなくても、
口封じはする。
俺は、
一歩前に出る。
「俺だけでいいんだな」
男が、肩をすくめる。
「できればな」
合図なし。
矢が、飛ぶ。
速い。
俺は、
避けない。
手を上げる。
――歪む。
空気が、
曲がる。
矢が、
逸れる。
地面に突き刺さる。
一瞬の、
沈黙。
「……なんだ今の」
遅い。
俺は、
踏み込む。
力を、
使う。
今度は、誤らない。
衝撃。
中央の男が、
吹き飛ぶ。
地面を転がる。
左の弓使いが、
逃げようとする。
片腕の男が、
足を払う。
短槍が、
俺の脇をかすめる。
浅い。
痛みは、
ある。
でも。
俺は、
止まらない。
男の喉元に、
剣を突きつける。
「……降参だ」
早い判断。
生き延びる術を知っている目。
「殺すか?」
中央の男が、
血を吐きながら笑う。
「賞金首さんよ」
子供が、
見ている。
俺は、
剣を引く。
「二度と来るな」
男は、
目を細める。
「来るさ」
「俺らが来なくても」
血を拭う。
「次は、
もっと強えのが来る」
正しい。
だから、
厄介だ。
三人は、
闇に消える。
静寂が、戻る。
若い女が、
震えながら言う。
「……増える?」
俺は、頷く。
「増える」
片腕の男が、
空を見上げる。
「勇者より先に、
すり減るかもな」
俺は、
手配書を拾う。
破らない。
燃やさない。
ただ、折る。
「値札がついたなら」
静かに言う。
「俺たちは、
値段以上で動く」
子供が、
俺を見る。
目に、恐れはある。
でも。
離れない。
夜は、
まだ終わらない。
そして。
敵は、
もう一種類増えた。




