表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/50

第38話 正義は、書面で下される

鐘が、鳴った。


 高く、長く、澄んだ音。


 祈りの時間ではない。


 宣言の鐘だ。


 神殿の大広間。

 白い石の床。

 集められた神官たち。


 中央に立つのは、

 勇者エルド。


 その一歩後ろに、

 大司祭。


「確認する」


 大司祭の声は、

 よく通る。


「対象は、街道にて勇者に接触」


「勇者の執行を妨害する意思を表明」


「思想的感染の兆候あり」


 淡々と読み上げられる。


 名前は、まだ出ない。


「勇者エルド」


 大司祭が問う。


「対象は、

 世界の安寧に反するか」


 勇者は、迷わない。


「反する」


「今後、障害となる可能性は」


「高い」


「排除は、妥当か」


 ほんの一瞬だけ、

 勇者は目を伏せる。


 思考ではない。


 確認だ。


「妥当」


 決まった。


 大司祭が、

 印章を押す。


 赤い蝋。


 白い紙。


 それだけで、

 人は“敵”になる。


「これより」


 大司祭が宣言する。


「対象を、

 敵性存在アルファと指定」


「発見次第、拘束」


「抵抗時は、討伐を許可する」


 神官たちが、

 一斉に膝をつく。


「世界の光のために」


 声が揃う。


 勇者は、

 沈黙している。


 彼の剣は、

 まだ血を吸っていない。


 だが。


 次は、

 違う。


 一方。


 街道沿いの小村。


 掲示板に、

 一枚の紙が貼られる。


 子供が、

 読めない字をなぞる。


 大人が、

 顔をしかめる。


「……この顔」


 粗い似顔絵。


 完璧じゃない。


 だが、

 分かる。


 若い女が、

 息を呑む。


 片腕の男が、

 低く呟く。


「早えな」


 俺は、

 紙を見る。


 自分の顔。


 賞金。


 “討伐協力者には神殿の加護を与える”。


 うまい文句だ。


「……どうする」


 誰かが、

 聞く。


 俺は、

 紙を破らない。


 剥がさない。


 ただ、

 言う。


「貼らせておけ」


 隠れる気は、

 ない。


「勇者は?」


 子供が、

 小さく聞く。


 俺は、

 空を見る。


「来る」


 確実に。


「今度は、

 剣を抜いて」


 風が、

 紙を揺らす。


 俺は、

 歩き出す。


 正義は、

 書面で下された。


 なら。


 俺は、

 言葉で返す。


 剣で返す。


 世界が敵と決めたなら。

 世界に問い直すしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ