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魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


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第35話 勇者は、最初に誰を救わなかったか

 町は、静かだった。


 焼け跡もない。

 魔物の死体もない。


 ――平和だ。


 だからこそ、

 神殿は急いだ。


「ここに、

 “歪み”がある」


 神官の指が、

 一軒の家を示す。


 勇者エルドは、

 黙って頷く。


 迷いは、ない。


 彼は、

 常に正しい方向を向く。


 扉が、開く。


 中にいたのは、

 老人と――

 少女。


 少女は、

 震えていた。


 何もしていない。

 何も知らない。


 ただ、

 “条件を満たしていた”。


「……違う」


 老人が、

 必死に首を振る。


「この子は、

 普通の子だ」


「歌が好きで、

 朝が弱くて……」


 勇者は、

 老人を見ない。


 少女を見る。


 淡く、

 何かが光っている。


 魔王の因子。


 未来の可能性。


 “災厄の芽”。


「排除する」


 勇者の声は、

 静かだ。


 怒りも、

 嫌悪もない。


 ただの、

 判断。


「待って!」


 少女が、

 一歩踏み出す。


「私、

 何もしない!」


 その言葉は、

 世界を変えない。


 勇者は、

 剣を抜く。


 光が、

 部屋を満たす。


 老人が、

 前に出る。


 勇者は、

 老人を避けない。


 避ける理由が、

 ないからだ。


 剣が、

 振り下ろされる。


 ――音は、

 ほとんどしなかった。


 倒れたのは、

 少女だけだ。


 血は、

 少ない。


 神官が、

 頷く。


「これで、

 町は救われました」


 老人は、

 声を出さない。


 出せない。


 勇者は、

 剣を収める。


 震えない。


 吐き気も、

 ない。


 それが、

 勇者の資質だった。


 外に出ると、

 人々が集まっている。


「魔物は?」


「もう大丈夫?」


 神官が、

 笑顔で答える。


「ええ。

 勇者様が、

 解決されました」


 拍手が、

 起こる。


 勇者は、

 応えない。


 ただ、

 空を見る。


 ――その瞬間。


 遠くで、

 何かが切れた。


 見えない糸。


 誰にも、

 気づかれない断絶。


 魔王は、

 それを知っている。


 主人公も、

 まだ知らない。


 だが。


 この瞬間が、

 最初の犠牲だった。


 救われなかったのは、

 町ではない。


 世界でもない。


 ――

 勇者自身だ。

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