第34話 魔王は、選択の先を知っている
風が、止んだ。
正確には――
止まったように感じただけだ。
空気が、
重なる。
同行者たちが、
一斉に足を止める。
「……来る」
片腕の男が、呟く。
俺も、分かっていた。
敵意じゃない。
殺気でもない。
これは――
干渉だ。
影が、伸びる。
朝の光とは、
向きが違う。
地面に、
あり得ない輪郭が浮かぶ。
そこから、
声がした。
「分かれたな」
低い。
男でも女でもない。
年齢すら、
感じさせない。
「……魔王」
誰かが、
息を呑む。
影が、
人の形を取る。
王冠も、
角も、ない。
ただ――
“立っている”だけ。
「勇者が動いた」
魔王は、事実だけを言う。
「そして、
お前たちは分かれた」
否定しない。
否定する意味がない。
魔王は、
手を上げる。
世界が、
ずれる。
視界が、
二つに割れた。
一つ目の未来。
去った者たち。
神殿に辿り着く。
癒やされ、
保護され、
“正しさ”に包まれる。
だが。
子供はいない。
母親が、
泣き崩れている。
理由は、
誰も説明しない。
神官は、
優しい声で言う。
「必要な犠牲でした」
勇者は、
何も言わない。
剣が、
血を吸って光る。
二つ目の未来。
残った者たち。
飢える。
傷つく。
何人か、死ぬ。
正しくない。
英雄譚にならない。
だが。
子供は、
生きている。
泣かない。
剣を、
持とうとしている。
誰かを、
守るために。
視界が、戻る。
同行者たちが、
言葉を失っている。
「……選択だ」
魔王が言う。
「善悪ではない」
「勝敗でもない」
「ただの、
結果だ」
俺は、魔王を見る。
「勇者の未来は?」
魔王は、
少しだけ笑った。
「勇者は」
「常に、
世界に選ばれる」
「だが――」
一拍。
「世界を、
選ばない」
沈黙。
その意味を、
全員が理解する。
魔王は、
影に戻り始める。
「次に会う時」
「お前は、
もう逃げていない」
「だから」
最後に、
一言。
「――面白い」
影が、消える。
風が、戻る。
朝の世界が、
再開する。
誰も、すぐには動けない。
俺は、口を開く。
「見た通りだ」
「どっちも、
楽じゃない」
「どっちも、
救われない」
片腕の男が、
笑う。
「……じゃあ」
「俺たちで、
三つ目を作るしかねえな」
俺は、
頷いた。
未来は、
二つに割れていた。
でも。
道は、
まだ一本じゃない。




