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魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


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第33話 夜明けは、等しく来る

 空が、白み始めていた。


 焚き火は、もう落としてある。

 煙は、出ていない。


 夜は、ちゃんと終わった。


 ――だからこそ。


 選択も、終わっていなければならない。


 俺は、荷を背負う。


 振り返らない。


 振り返ったら、

 数を数えてしまうからだ。


 足音が、近づく。


「……行くのか」


 片腕の男だ。


 声は、低い。


 俺は、頷く。


「ここから、

 進路を変える」


「勇者は、

 俺を追う」


 男は、短く息を吐く。


「分かってる」


 一拍。


「……残る」


 それだけ。


 理由は、言わない。


 言わせない。


 男の後ろには、

 数人が立っている。


 母親と子供。

 若い女。

 もう一人の老人。


 視線は、強い。


 逃げる目じゃない。


 覚悟の目だ。


 一方で。


 少し離れた場所に、

 三人。


 目を合わせない。


 荷は、軽い。


 地図を、持っている。


 “戻る”準備をした人たちだ。


 誰も、責めない。


 責められない。


 だって――

 勇者のいる世界で

 正しい側に戻るのは、

 罪じゃない。


 母親が、

 子供の背を押す。


「……挨拶」


 子供が、

 俺の前に来る。


「おじさん」


 声は、震えていない。


「ぼく、

 行くよ」


 短い宣言。


 俺は、しゃがむ。


「後悔するかもしれない」


「怖いことも、

 ある」


 子供は、考える。


 そして。


「でも、

 決めた」


 それだけで、十分だった。


 若い女が、

 去る側に向かって

 一度だけ頭を下げる。


「……生きて」


 それ以上、言わない。


 去る側も、

 小さく頷く。


 恨みも、

 未練も、ない。


 ただ――

 道が違うだけだ。


 太陽が、

 地平線から顔を出す。


 影が、伸びる。


 同じ光が、

 全員に当たる。


 俺は、立ち上がる。


「行こう」


 残る者たちと。


 足音が、重なる。


 去る者たちは、

 反対方向へ歩き出す。


 誰も、振り返らない。


 名前も、呼ばない。


 勇者の剣より、

 静かな別れ。


 でも。


 確実に、

 戻らない距離。


 夜明けは、

 等しく来る。


 選ばなかった者にも。


 選んだ者にも。


 そして。


 選び続ける者にも。

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