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魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


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第25話 名前を持たない者たちの答え

地下は、いつも通り暗かった。


 湿った土の匂い。

 低い天井。

 逃げ場として作られた空間。


 俺が降りると、

 誰かが扉を閉めた。


 ――逃げるためじゃない。


 集まるためだ。


 灯りが、一つ、二つと増える。


 顔が見える。


 老人。

 母親。

 子供。


 名簿に載らない人たち。


 村の会議に呼ばれない人たち。


 でも今日は、

 全員が、ここにいる。


「……聞いた」


 最初に話したのは、

 片腕の男だった。


「上が、割れてるって」


 誰も否定しない。


「あなたが、

 いなくなるかもしれないって」


 視線が、俺に集まる。


 俺は、何も言わない。


 説得もしない。


 引き留めもしない。


 それをする資格は、ない。


 沈黙を破ったのは、

 あの子供だった。


「ねえ」


 小さな声。


「おじさんは、

 悪い人?」


 一瞬、空気が止まる。


 俺は、しゃがんで目線を合わせる。


「分からない」


 正直に答える。


「ただ、

 放っておけなかっただけだ」


 子供は、少し考えて。


「じゃあ、

 いい人だよ」


 論理は、ない。


 でも、決定的だ。


 母親が、口を開く。


「上の人たちは、

 私たちを守らなかった」


「でも、この人は、

 守った」


 老人が、続く。


「神も、王も、

 勇者も来なかった」


「だが、

 この男は来た」


 名前は、呼ばれない。


 でも、

 存在として認識されている。


 片腕の男が、深く息を吸う。


「……俺たちは、

 選べるのか?」


 問いは、俺じゃなく、

 全員に向けられている。


「また、

 見えないままでいるか」


「それとも、

 この人と一緒に

 見られる側になるか」


 ざわめき。


 恐怖。


 でも――

 逃げ慣れた者たちの顔だ。


 覚悟は、早い。


「選ぶよ」


 誰かが言う。


「だって、

 もう一度逃げるなら」


「次は、

 どこにも行けない」


 俺は、立ち上がる。


「待て」


 声が、少し強くなる。


「俺と来るなら、

 危険になる」


「敵も、

 もっと増える」


「今より、

 ずっと」


 正直に言う。


 美談には、しない。


 それでも。


「それでもいい」


 母親が、子供を抱く。


「ここにいても、

 消されるだけなら」


「一度くらい、

 選ばれてみたい」


 老人が、頷く。


「記録に残らなくてもいい」


「だが、

 自分で決めたことは

 残る」


 全員が、俺を見る。


 期待じゃない。


 依存でもない。


 同行の意思。


 俺は、少しだけ目を閉じる。


 重い。


 でも――

 嫌じゃない。


「……分かった」


 短く答える。


「俺は、

 導けない」


「正解も、

 保証できない」


 それでも。


「それでいい」


 片腕の男が、笑う。


「どうせ、

 今までも正解なんて

 なかった」


 灯りが、揺れる。


 地下の空気が、

 少しだけ変わる。


 この瞬間。


 俺は、初めて――

 一人じゃなくなった。


 勇者でも、王でもない。


 でも。


 名前を持たない者たちが、

 俺を選んだ。


 それだけで。


 世界に逆らう理由としては、

 十分だった。

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