第24話 守られたあとに残るもの
夜は、静かだった。
侵攻は、止まった。
血は、流れなかった。
それなのに――
村は、眠れなかった。
焚き火の数が、増えている。
見張りの交代が、
必要以上に早い。
俺が歩くと、
会話が、止まる。
誰も、敵意は向けてこない。
それが、余計にきつい。
「……助かった」
若い魔族が、そう言った。
でも、目は合わせない。
「ありがとう」
その言葉の後に、
必ず、間が入る。
何かを、飲み込んでいる。
村長の家。
集会が、開かれていた。
俺は、呼ばれていない。
――正確には、
呼ばないと決められた。
壁越しに、声が聞こえる。
「守ってくれたのは、事実だ」
「だが……」
「神殿が、引いた理由は?」
「“彼”がいたからだ」
名前が、出ない。
代名詞。
距離。
「……あれは、何だ」
「魔法でも、武技でもない」
「勇者より……」
言葉が、途中で切れる。
沈黙。
俺は、その場を離れた。
畑の端。
地下へ続く、隠し扉の前。
誰も、ついてこない。
それが、答えだ。
地下の人々は、
今日も静かだ。
彼らは、俺を恐れない。
恐れる余裕が、なかったから。
「……すごかった」
子供が、言う。
目は、輝いている。
「地面が、言うこと聞いた」
「ヒーロー?」
俺は、首を振る。
「違う」
「じゃあ、なに?」
答えられない。
上では、恐れが生まれ。
下では、期待が育つ。
どちらも、重い。
夜更け。
村長が、一人で来た。
疲れた顔。
「すまん」
それだけ。
言い訳は、しない。
「村が、割れ始めている」
知っている。
「あなたを、
“希望”と呼ぶ者と」
「“災い”と呼ぶ者がいる」
当然だ。
俺は、規格外だ。
村長は、続ける。
「彼らは、
神殿よりあなたを恐れている」
胸が、少しだけ痛む。
「力は、
守るために使った」
言い訳にも、ならない。
村長は、首を振った。
「分かっている」
「だがな……」
少し、間を置いて。
「人は、
理解できないものを
善意でも恐れる」
正論だ。
「この村は、
あなたに救われた」
「だが同時に、
あなたに壊された」
俺は、黙って聞く。
怒る資格は、ない。
「……だから」
村長は、深く頭を下げた。
「ここに、
留まり続けることは
できない」
追放ではない。
選択だ。
「時間をくれ」
「準備が、必要だ」
それで十分だ。
「分かった」
短く答える。
村長は、顔を上げる。
「恨まないのか」
俺は、笑った。
「慣れてる」
その夜。
焚き火が、一つ減った。
見張りが、俺の側には立たなくなった。
誰も、直接は言わない。
でも、空気が言っている。
――あなたは、強すぎる。
それは、
褒め言葉じゃない。
守ったはずの場所で、
居場所が、消えていく。
力を使った代償は、
遅れて来る。
血よりも、
静かに。




