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魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


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第22話 始まりの足音

 最初に変わったのは、空だった。


 晴れていたはずの空に、

 雲が一筋、線を引く。


「……来たな」


 見張りの魔族が、低く呟く。


 角笛は、吹かれない。


 もう、準備は終わっている。


 谷の向こう。


 土煙が、ゆっくりと立ち上る。


 軍列。


 整いすぎた、歩幅。

 無駄のない配置。


 神殿兵だ。


 白と金の装束が、

 朝日に反射する。


「多い」


「想定より、少しな」


 村長と若い魔族が、並んで見る。


「“討伐”じゃない」


「“制圧”だ」


 殺す気はない。


 ――最初は。


 それが、一番厄介だった。


 兵の列が、谷の入口で止まる。


 一人、前に出る影。


 白衣の神官。


 声が、拡声の魔法で響く。


「魔族の村に告ぐ」


 丁寧な口調。


「ここは、神殿の定める

 “保護対象外区域”に指定された」


 ざわめき。


「抵抗しなければ、

 危害は加えない」


「武装解除の上、

 代表者は前に出よ」


 優しい声。


 だが、選択肢は一つ。


 村長が、一歩前に出る。


 誰にも、止められない。


「ここは、

 我々の生活の場だ」


 声は、震えていない。


「保護が要らぬほど、

 静かに生きている」


 神官は、首を傾げる。


「それが、問題なのです」


 一瞬、間。


「秩序は、

 管理されて初めて秩序となる」


 理解不能な論理。


「あなた方は、

 記録されていない」


「つまり――

 “想定外”だ」


 兵の列が、

 一歩、前に出る。


 剣は、まだ鞘の中。


 でも、盾が構えられる。


 圧力。


 若い魔族が、歯を食いしばる。


「……まだだ」


 村長が、手で制する。


 俺は、少し後ろに立っている。


 名乗らない。


 出しゃばらない。


 ここは、彼らの場だ。


 神官の声が、続く。


「反勇者を匿った件については、

 既に確認済みです」


 視線が、一瞬だけ俺に向く。


 すぐに、逸らされる。


 “個”として見ていない。


「あなた方の安全のため、

 神殿が管理します」


 その言葉に、

 誰かが小さく笑った。


 恐怖からじゃない。


 あまりにも、ズレているからだ。


 風が、吹く。


 畑の匂いが、流れる。


 兵の足が、

 もう一歩、進む。


 その瞬間――


 村長が、静かに言った。


「ここは、

 通さない」


 大声じゃない。


 宣言ですらない。


 事実の確認。


 神官は、ため息をつく。


「……残念です」


 手が、上がる。


 合図。


 兵が、盾を揃える。


 まだ、剣は抜かれない。


 それでも――

 侵攻は、始まった。


 俺は、息を吸う。


 選んだ場所は、ここだ。


 選んだ責任も、ここにある。


 次の一歩で、

 世界は確実に壊れる。


 でも――

 もう、退かない。

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