第18話 魔族の村
谷を越えた先に、村はあった。
見張りも、柵もない。
煙が上がり、
子供の声が響いている。
「……拍子抜けだな」
俺は、足を止めた。
ここが、
人間が“滅ぼすべき存在”と呼ぶ場所。
魔族の村。
最初に出てきたのは、
武器を持たない老人だった。
「客か」
低い声。
角が折れ、
背は曲がっている。
「人間は、久しい」
「追われてる」
正直に言う。
「なら、尚更だな」
老人は、笑った。
「ここは、逃げる者の村だ」
案内される。
畑。
井戸。
干された布。
人間の村と、
何も変わらない。
違うのは――
種族だけ。
「魔族ってのは、
もっと凶悪だと思ってた」
呟くと、
隣の若い魔族が肩をすくめる。
「そう言われると、助かる」
「怖がられたほうが、
近づかれなくて済む」
合理的すぎる。
家に通される。
出されたのは、
粗末なスープ。
だが、温かい。
「理由は、聞かないのか」
「聞かない」
老人は、そう言った。
「話したくなった時に、話せばいい」
その距離感が、
妙に楽だった。
夜。
焚き火の周りに、
人が集まる。
魔族も、人間も、
混ざっている。
「……人間?」
「ああ」
若い女が答える。
「追われて、ここに来た」
地下の民と、同じだ。
「神殿が、嫌い?」
直球。
「嫌いだな」
笑って言う。
「神は、遠すぎる」
その言葉に、
胸が軽くなる。
子供が、俺を見上げる。
「おじさん、剣ないの?」
「ない」
「弱い?」
少し考えて、答える。
「たぶん、強い」
子供は、笑った。
夜が、深まる。
俺は、空を見る。
星が、近い。
「……魔王は?」
何気なく聞く。
老人が、焚き火に薪を足す。
「観ている」
それだけ。
「干渉は?」
「必要になるまで、しない」
どこかで、
勇者エルドを思い出す。
試されているのは、
俺だけじゃない。
ここには、
記録も、命令も、正解もない。
あるのは――
生きている、という事実だけ。
「しばらく、世話になる」
そう言うと、
老人は頷いた。
「居場所は、選んでいい」
その言葉が、
何より重かった。
この村は、
世界を救わない。
でも――
人を、救っていた。




