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魔王を斬らなかった勇者は裏切り者と呼ばれましたが、俺はただ守りたかっただけです  作者: 南蛇井


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第14話 神殿は揺らがない

 白い部屋だった。


 装飾はない。

 窓もない。


 あるのは、円卓と、七つの椅子。


 そこに座る者たちは、

 年齢も性別も、外見からは分からない。


 ただ一つ共通しているのは、

 胸元の金の紋章。


「勇者エルドの“反応値”が低下しています」


 淡々とした声。


 水晶板の上に、光の波形が浮かぶ。


「戦闘後、精神安定値が三割低下」

「使命受容率、急落」

「自己判断傾向、発生」


 最後の言葉に、

 一瞬だけ、空気が冷えた。


「……“自己判断”?」


 誰かが、確認する。


「はい。

 指示を待たず、思考を挟んだ形跡があります」


 沈黙。


 長い沈黙。


「許容範囲外だな」


 低い声が、そう結論づけた。


「勇者は、考えなくていい」


 別の声が、続ける。


「考える勇者は、

 過去に例外なく“失敗”している」


 水晶板が、別の映像を映す。


 歴代の勇者たち。


 誰もが、途中で消えていた。


 戦死。

 失踪。

 記録抹消。


「……原因は、例の反勇者か」


「可能性は高い」


「修正が必要だな」


 “修正”。


 その言葉に、誰も疑問を抱かない。


「精神補正を強化するか?」


「いや……まだだ」


 一人が、指を組む。


「彼はまだ、剣を置いただけだ」


「再び握れば、戻る」


「握らせる環境を整えればいい」


 別の者が、頷く。


「世界は、勇者を必要としている」


「勇者は、世界を疑ってはならない」


 円卓の中央、水晶が明るくなる。


 別の映像。


 地下の民。

 王都の外。

 そして――主人公。


「……反勇者の影響範囲が拡大している」


「記録に残らない者たちが、動き始めた」


「不都合だな」


 誰かが、淡々と告げる。


「ならば、こうしよう」


 全員の視線が集まる。


「勇者エルドには、

 “選択肢”を与える」


 言葉は優しい。


 だが、意味は冷たい。


「正しさに戻るか」


 一拍。


「――排除されるか」


 決議。


 光が消える。


「準備を」


「世界を守るために」


 椅子が引かれ、足音が遠ざかる。


 白い部屋には、誰も残らない。


 だが、水晶板だけが、

 まだ光っていた。


 そこに映るのは、

 森を歩く一人の勇者。


 そして、その背後――

 見えない鎖。


 神殿は、揺らがない。


 揺らいだものを、壊すだけだ。

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