第11話 王都を捨てる日
夜明け前の王都は、静かだった。
追手はまだ来ていない。
だが、時間の問題だ。
地下の出口。
そこに、人々が集まっていた。
女。
子供たち。
怪我人。
俺が導いた道は、王都の外へ続いている。
森の奥。
記録にも、地図にも残らない場所。
「……ここから先は、一緒に行けない」
そう告げると、沈黙が落ちた。
「どうして?」
子供が、まっすぐな目で聞く。
答えは、簡単だ。
「俺と一緒にいると、
お前たちまで“敵”になる」
女が、唇を噛む。
「あなたがいなかったら、
私たちは、もう……」
「分かってる」
遮る。
それ以上聞いたら、離れられなくなる。
俺は、地面に剣を突き立てた。
「この道を行け。
三日歩けば、魔族も人間も来ない谷がある」
「あなたは……?」
答えなかった。
代わりに、子供の頭に手を置く。
「生きろ」
それだけで、十分だ。
女が、一歩前に出た。
「名前を……」
首を振る。
「覚えなくていい」
英雄じゃない。
記録に残る存在じゃない。
俺は、背を向けた。
足音が、遠ざかる。
振り返らなかった。
振り返ったら、
ここで終わってしまう。
地上に出る。
朝焼けに染まる王都が、そこにあった。
あの街で、俺は拒まれ、
罵られ、
そして、救った。
「……さよならだ」
その瞬間、空が光った。
遠くで、黄金の剣が鳴る。
勇者エルドは、俺を探している。
だがもう、王都にはいない。
俺は、森へ入る。
王都を捨てた。
守るものを、手放した。
――次に何かを守るために。




