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リコ

作者: 雲介
掲載日:2026/01/26

中学生のあたしは無知だった。

世の中が自分が想像する以上にずっと複雑で、自分が無力だってことも知らなかった。

あの時、あたしはリコになにがしてあげられたんだろう。なにもできなかった自分が悔しくて、腹立たしくて、悲しかった。



リコとはちがう中学だったけど、すぐに仲良くなった。二人とも同じアニメが好きで、イラストを描くのも好きだったから。だから毎週土曜日、塾でリコに会えるのが楽しみだった。休憩時間が終わってもおしゃべりが止められなくて、先生に怒られるのはしょっちゅうだったけど、うちらは全然気にしなかった。

塾が終わると隣のビルのマックに移動して、おしゃべりしながらハンバーガーを食べた。ノートに推しのイラストを描きっこしたり、You Tube見て笑ったり、アクスタをデコったりして、いつもあっという間に時間がすぎた。リコは8時の電車に乗るために、いつも焦って駅にダッシュしてた。


リコは絵が上手だった。いつもきまって嫌いな数学のノートの右下に推しの絵を描いていた。流行りのアニメキャラの決め顔がリコのお得意だった。前に見せてくれた美術の授業で描いたという静物画は、びっくりするぐらい上手だった。あたしは水泳部で油絵なんて描いたことなかったから、単純にリコってすごいな、って思ってた。


いつもみたいに塾の帰りにマックでおしゃべりしてる時に、リコがテーブルにほっぽった数学のノートをなんとなく開いてみた。最初のページの右下に推しのイラストが落書きしてある。いつものドヤ顔だ。次のページをめくると、同じキャラの決め顔と決めゼリフ。効果線まで書き込んである。どんだけ数学きらいなの。その次のページも同じキャラ、ぱらぱらページをめくっていくと、同じキャラの無表情な顔が何ページも続いてる。このキャラって、こんな表情する設定だったっけ。

「ねえ、このキャラって陽キャじゃなかった?もっと笑った顔とか描いてよ。リコ、絵上手なんだからさ」

あたしは無表情の陽キャのイラストが描かれたページを広げてリコに見せた。

リコは一瞬きょとんとした表情をした。それからノートを手に取り、自分が描いたイラストを見つめた。

「そうかな」

リコはぎこちなく笑ってノートを閉じた。


それからリコは塾に来なくなった。

先生からリコが塾をやめたと聞いたのは、その一ヶ月後のことだった。

あたしは自分がリコを傷つけてしまったんじゃないかと、ずっと気になっていた。あんなに仲良かったのに。一緒にTik Tokのダンス練習してたのに。リコにLINEを送っても既読無視だった。そのうち既読もつかなくなった。悲しかった。なんで突然、塾をやめたのか知りたかった。リコに謝りたかった。また一緒にマックでハンバーガー食べながら、笑っておしゃべりしたかった。



それから偶然リコに会ったのは四年後、高校三年の五月だった。

あたしは模試を受ける前に、予備校近くの本屋に寄った。本屋の前で見なれた後ろ姿が目に入った。リコだ。思わずかけよって肩に手をかけた。

「リコ!」

振り返ったリコはげっそり痩せて、顔は青白く目には生気がなかった。

リコは少し驚いた表情をして、ちょっと微笑んだ。

「サキ」

「あたし・・・ごめんね、リコにひどいこと言って。怒ってるよね。ずっと謝りたかったんだ」

リコは少し考る素振りを見せた。

「サキはなにも悪くないよ」

瞬間的に頭に血が上った。

「じゃあなんでLINEの返事くれなかったの?なんで突然、塾やめたの?あたしずっとリコのこと心配してたんだよ」

四年間ずっと言いたかったことが口をついてでた。涙が勝手に込み上げてきた。

リコは無言でうつむいた。唇を震わせ、小さな声で言った。

「うち・・・親が離婚して引っ越したんだ。塾やめて、スマホも解約しなくちゃいけなかった。どうやってサキに言えばいいか、わからなくて、ずっと、なにも言えなかった。

「サキと一緒に絵を描いたり、おしゃべりするの、すごく楽しかった。いつも家に帰りたくなくて、ずっとサキとマックにいたいなって思ってた」

リコの声は次第にか細くなっていき、苦しそうに浅い呼吸をした。

「リコ、病気なの?真っ青だよ」

「だいじょうぶ、薬のんでるから」

リコは肩で息をしていた。具合が悪そうだった。

「送っていくよ、家はどこ?」

「ほんとに、だいじょうぶだから。もうお母さん、来るし」

ちらと腕時計を見ると、あと10分で模試が始まるところだった。でもリコをここに一人にしておいて大丈夫だろうか。

「ほんとに、平気だから。予定あるよね」

リコに会ったら話したいことがいっぱいあった。でも、目の前にいるリコは四年前とはまるで別人だった。はじけるように笑う、絵が上手な女の子。あの頃の面影はもう、どこにもなかった。

あたしはカバンからノートを取り出し白いページを破った。自分のLINEのIDを書いてリコに渡した。

「ぜったい、連絡してね!待ってるから」

リコはうなづいて、あたしの手をにぎった。すごく冷たい手だった。


それがリコに会った最後だった。

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