遊び② 泥団子づくり
マリアンヌは裏庭の土を両手ですくい取り、ゴリゴリと捏ね始めた。
侍女たちは少し離れたところで息を呑む。
「令嬢が……土を……?」
半信半疑のまま見守るしかない。
木登りの騒動から何も学んでいない様子だ。
「よし、まず水分量を調整して……表面が乾きすぎると割れるから……」
マリアンヌは前世の知識を駆使し、泥団子作りに没頭する。
手のひらで転がし、磨き、回して、微調整を繰り返す――
これぞ、かつてやりたかった「本気泥団子製作」だ。
完成した泥団子は、すでにソフトボールほどの大きさ。
マリアンヌは満足げに頷く。
「ふふん、でももっと硬くできるはず!」
そう言うと、青白い魔力を泥団子に注ぎ込む。
泥が微かに光り、内部がぎゅっと圧縮される。
手に持つと、もう「ゴン」と音がするほどの重さだ。
侍女は小声で震える。
「……あれ、石じゃないんですか……?」
その時、訓練場では騎士たちが盾を使って訓練中だった。
マリアンヌはにやりと笑う。
「……的がある!」
泥団子を思い切り投げる。
飛距離は軽く20メートルを超える。
突き刺さるように盾に命中――バキッ!!!
盾に亀裂が走り、騎士が吹っ飛ぶ。
地面には泥団子が深くめり込み、粉々にはならない。
「お、お嬢様ぁぁぁ! それは遊びの域を超えてます!!」
騎士たちの悲鳴が裏庭に響く。
「違うよ! 進化だよ! 遊びの進化!」
マリアンヌは得意げに胸を張る。
その視線の先で、侍女たちは魂が抜けた顔のまま固まっていた。
その日から、訓練場の端には「泥団子禁止」の札が掲げられることになった。
だがマリアンヌは全く気にせず、次の冒険に思いを馳せていた――。




