王城の裏庭で初の全力遊び 裏庭を発見する
裏庭の散歩は、本来なら「お淑やかな令嬢の午後の時間」である。
優雅に花を眺め、侍女と静かに語らい、風にそよぐドレスの裾を楽しむ……
――はずだった。
だが。
今日ここにいるのは、**中身が前世・元気系ゲーマーの悪役令嬢マリアンヌ(幼女)**である。
侍女に手を引かれ、王城の裏庭へと出た瞬間。
「こちらは王家専用の静かな散策路でございまして――」
侍女が気取って説明している途中だった。
マリアンヌの視線は、庭の奥に立つ一本の大樹へと吸い寄せられる。
幹は太く、枝ぶりもよく、葉も青々としていて……明らかに「登ってください」と言わんばかりのフォルム。
マリアンヌの瞳が、キラァァァンと輝いた。
「…………あれ、絶対登れるやつじゃん」
ぽつりと漏れたひと言に、侍女は一瞬固まる。
「……え? え? お、お嬢様……?」
侍女は理解が追いつかない。
この気品あふれる銀髪幼女(見た目5歳)が、まさか“木登りムーブ”を決めようとしているなんて、夢にも思っていない。
しかしマリアンヌはもうスイッチが入っていた。
ドレスの裾を少しつまみ、つぶやく。
「だってあれ、完全に“遊べ”って呼んでるよね。行くしかないよね?」
その目は獲物を見つけた猫みたいに爛々としていた。
侍女の叫びが裏庭に響く。
「お嬢様ぁぁ!? 木に登るなんて、令嬢として絶対に絶対に絶対に――!」
その制止を、マリアンヌはにっこり笑ってスルーした。
「大丈夫。登るだけ。落ちないように頑張るから!」
──落ちない保証はどこにもないのに。
侍女の不安をよそに、マリアンヌはすでに足を大樹へと向けて駆け出していた。
裏庭に、令嬢らしくない冒険の幕が今、ひっそりと上がる――。




