転生直後 ― 悪役令嬢マリアンヌの幼少期
目を覚ました時、すでに世界は“前世の続き”ではなかった。
ふかふかのベッド。
柔らかなレースの天蓋。
なんだか高そうな調度品がきらきらしている。
「……え、私んちじゃない」
寝ぼけ眼で起き上がったマリアンヌは、とりあえず近くの鏡へ歩く。
足はぷにぷに、小さくて、頼りない。
鏡の前に立った瞬間――
「……だれこれ!!?」
反射的に叫んだ。
鏡の中には、銀髪のゆるふわツインテールをした幼女。
青い瞳は宝石のようにきらめき、ほっぺはもちもち。
どう見ても絵本に出てくるお姫様だ。
(いやいやいやいや!? 可愛すぎるだろ!? ていうか私じゃないし!!)
その時だった。
突然、脳の奥がぐわん、と揺れた。
「うわっ!? ちょ、なにこれ!」
前世では徹夜明けでしか感じなかったような頭痛が走り――
次の瞬間、記憶が一気に流れ込む。
この世界は乙女ゲーム――
『ルミナス・ラブロマンス』。
自分はヒロインをいじめる悪役令嬢マリアンヌ。
最終的には断罪され、国外追放になる運命。
ゲームのストーリー、キャラの関係図、イベントの流れ、全部が鮮明に蘇る。
「……あー……完全に悪役令嬢じゃん、私」
自分の将来に待つのは断罪イベント。
大勢の前でさらし者になり、荷物一つで国外へ追い出される――らしい。
「いやいやいや、そんなの無理無理! 追放とか聞いてないし!!」
だが次の瞬間、マリアンヌはぎゅっと拳を握りしめた。
「断罪? 知るか!!」
鏡の中の幼女に向かって、堂々と言い切る。
「私にはやりたいことがある!
木登りも泥団子も、秘密基地だって作りたいんだ!!
前世で遊べなかった分、今世は全力で遊び倒すんだから!!」
高貴な令嬢とは思えぬ、大変に気合いの入った叫び。
鏡の後ろにいた侍女が驚いて「お嬢様!? お嬢様!?」と駆け寄ってくるが、聞こえない。
マリアンヌの胸にあるのは――ただひとつ。
「運命? フラグ? イベント? そんなの関係あるか!
今日から私は、全力で遊ぶ!!」
外の世界がきらきら輝いて見えた。
悪役令嬢マリアンヌ、元気いっぱいのスタートである。




