Chapter3 出会い
ところで白石さんと僕が出会ったのは中学の頃だ。
彼女は街に越して来たばかりで、僕が案内を買って出たので駅で待ち合わせをしていた。「黒井君がいないと私は一人ぼっちになる」と語る彼女は、街での居場所を求めていた。
雨は二時間以上前に降り出して、にわか雨に変わっていた。
白石さんはびしょ濡れで駅周辺の路上に蹲っていた。明らかに、今来たばかりには見えなかった。
体育座りをして身体を折り畳み、あらゆる機能まで内側に折り込むようにしていたけど、その光のない双眸だけは、僕を捉えていた。
「ずっとここで待ってたの?」
「うん」
それから僕は彼女に傘を差し出した。聞くと、待ち合わせの時間より三時間前には到着していたらしい。
やっぱり彼女は優しい。
「ところで、体育座りがあるのに、算数座りや国語座りがないのは、どうしてなんだろうね」
「さぁ全部のバリエーションを考えようとして、一番最初に体育座りだけ考えて、あとは全部頓挫したんじゃないかな」
「義務教育における体育座りって、制服と並んで集団行動の象徴というか、膝に掛けた両手が、まるで自分を縛り付けるもののように感じられるよね」
「自分を縛り付けるもの」
一度その言葉を声に出して唱えてみる。
「黒井君はどんな人がタイプなのかな」
「どうしたの、急に」
「会話に困ってるんだ」
直球過ぎる。
「裏表のない人かな、白石さんは?」
「乙女座かな」
「星座なんだ……」
そのあと一通り街の案内を終え、どのタイミングで彼女と別れるべきか、考えていると、白石さんは服の胸元に手を入れ始めた。直視はまずいだろうと思い、視線を逸らす。
「これ、黒井君に」
見ると、彼女の手の中に服の中から引っ張り出したペンダントがある。ハートというか、悪魔の尻尾の先みたいな形をしていた。
「あのね、ペンダントを人にプレゼントする意味知ってる?」
「知らない」
「ペンダントって、着用した位置が全てのアクセサリーの中で、もっとも心臓の位置に近いでしょう、だから自分の心臓を贈って、そして相手に身に付けてもらうことで、その心臓を守るって意味合いがあるの」
出会ったばかりの人間に対する贈り物としては、ちょっと重いような気がしたけど、僕はそれを受け入れた。
今思えば、それは僕を縛り付けるためのものに他ならない。
「どうして僕にこれを?」
「友情の証だよ」
言って、白石さんは微笑んだ。
その友情が歪に変貌を遂げるまで、時間はそんなに掛からなかった。